第21話 昇格
「それで、今日来てもらった件だが」
あれから三日が経ち、俺と姉さんはエドガーの元へとやってきていた。
ギルマスの後ろにはリナリアが控えている。
ギルド職員でもないあいつが何故この場にいるのだろう。というかこいつ、あれから毎日ギルドで見かける。その度にやけに嬉しそうにこちらを煽ってくるので非常に鬱陶しい。
エドガーの方は後始末に奔走しているらしく、怪我こそ治っているが疲労の色は未だ濃い様だ。
「報酬の件だろ? てっきり翌日には渡して貰えるものと思ってたのに、三日も待たされるとは思わなかったよ」
その間、セインに頼み込んで金を借りた。だが、それは全てタイムに渡したので俺の手元には残っていない。
ボアを仕留めていなかったらやばかったかも知れない。
「それに関しては申し訳ない。こちらも色々とやることがあったのでね」
「やること? 亡くなった連中の弔いは済んだはずだろう?」
姉さんが問いかける。あの後、休憩して僅かに回復したエドガーが、瓦礫をあっさり取り除いてしまった。
かなり無理をしていたようだが、早急に町に戻る事を最優先したらしい。
そのおかげで、俺達は亡骸を弔った後、昼頃には町へと帰還した。
「そちらは問題ない。全てをやり遂げたとは言い難いが、可能な限り善処したつもりだ」
通常、冒険者が亡くなったとしても手厚く弔うと言ったことはしない。精々がギルドカードの回収くらいなものだ。
今回はエドガーが直接依頼したこともあり、多少の負い目もあったのだろう。
俺や姉さんにしてもそうだ。彼らのおかげで助かった自覚もある。そうでなければ、最低限のことしかしなかった。
「ただ、事はそれだけではない、北の洞窟自体のこともあれば、襲撃者の一件もある。私もこの職についている以上、それなりにやることがあるのだよ」
そもそもの原因である俺は、エドガーを直視できず目をそらした。
「そんな事より報酬です! 報酬を要求します! 私よく考えてみると生まれてこの方、まともなものを食べたことがありません!」
「きのこやボアの肉はまともな物だろうが!」
「……きのこはともかく、ボアの肉はまともとは言えないさね」
「えっ、ちょっと筋張って、臭みが強いだけだろ? それでもあれは俺の主食だから」
「まぁあんたがそれで良いならあたしは何も言わないさね」
姉さんがドン引きしている。見ればエドガーや、リナリアのやつまでドン引きしていた。
俺としても別に美味しいとは思っているわけじゃない。ただ先立つものがないのだから仕方がないじゃないか。
「まぁ君達の食事事情は好きにしたまえ。気になって仕方ないようだから先にこちらを渡しておこう。100ジールある。受け取りたまえ」
エドガーはそう言うと、テーブルの上に金貨の詰まった袋を置いた。
ここ数日で大金にも少し耐性がついた。慌てて飛びついたりはしない。
だが貰えるものは貰っておこう。気が変わったとか言われても困るしな!
あと、俺の頭の上で小躍りしているタイムは後で説教だ。
俺はいそいそと金貨の詰まった袋を手元に引き寄せる。
「意外だね、てっきりあんたのことだから北の洞窟の一件で、いろいろ天引きするもんだと思ってたよ」
「そのような事をすれば私は信頼を失うだろう。私はそれほど愚かではないつもりだ」
「あの状況下であんな条件をつきつけてきた人間のセリフとは思えないな」
すぐに何かしら言いつけられるものと思っていたが、エドガーはあれ以降何ら要求してこなかった。
俺としてはそれが返って不気味である。何かあるならさっさと言って欲しいものだ。
「それ以前に私は私個人の資産を君に渡している。それを請求されないだけ君は良しとするべきだね」
「ぐっ……」
「さて、それでは本日の本題に入ろう。実は今回の一件で君達を一剣として認めようと考えている」
『……はぁ?』
降って湧いた昇格の話に、俺達は揃って間の抜けた声を上げたのだった。




