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第18話 半人前と半人前

 俺は改めて全体を確認する。

 姉さんとリナリアは、ゴブリンマザーをうまく抑え込んでいるようだが、ギルマスの方はあの襲撃者に少しずつ押され始めている。


 ギルマスは剣だけではなく、攻撃魔法や防御結界など、魔法を織り交ぜながら戦っている。相手の二手、三手先を予測し、敵を追い詰める様な戦い方、あれがギルマスの全力なのだろう。

 一方、襲撃者の方は剣一本で、ギルマスが張り巡らそうとする罠全てを叩き潰している。


 あれはどう見ても全力じゃねぇな。


『タイム、ギルマスの能力を上げられないか?』

『それが無理なんです。最初リナリアさんに使ったんですけど、フェンネルさんみたいに上手くいかないんです』

 

 何らかの制約があるのか? いや、今は考えてる場合じゃないな。


『なら、合図と同時に正面に全力で結界を出せ。後のことは考えるな。全力でだ』

『は、はい』


 タイムは頷き、腕輪へと戻る。

 それを見届け、俺は大きく息を吐いた。


 俺はゴブリンマザーを見据え、覚悟を決めると、一度も使ったことのない魔法の準備に取り掛かる。


 思い返してみれば、俺が使えなくとも、爺は毎日の様に俺に魔法を覚えさせていた。

 まるで未来を見てきたように、先を見通す爺だった。きっと俺がこんな状況に陥る事を分かっていたんだろう。


 なら、きっとタイムは爺が生み出した精霊だ。そう思うと、今まで(つか)えていたものが胸の奥にストンと落ちる。

 お前には才能がないと事あるごとに言い続けていた爺が、「ほら、お前の才能は儂が別に用意してやったぞ」と言っている姿が容易に想像できる。


 どこまで爺の手のひらの上なのか。本当に腹立たしい。


 だが、タイムの記憶が欠けているのは、きっと爺の失敗だ。爺だって万能じゃないってことだ。

 

 それならば、才能のない(半人前)と、記憶の欠けたタイム(半人前)、二人の力を合わせれば、あの爺がどれだけ上から見下ろしてたか、垣間見るくらいは出来るだろう。


「その為に、まずは目の前のアイツをぶちのめす」


 その言葉とともに魔法を発動しようとした瞬間、


「そう、ここだよ。待ってたんだ! 相手が勝てると思った瞬間を叩き潰すのが楽しいんだよ!」


 ギルマスを弾き飛ばし、襲撃者が俺の方へと接近する。

 俺の眼前へと迫ると、大上段からその剣を振り下ろす。


「あんたのような調子に乗ったクソガキのやりそうなことさね!」


 それが俺へと届く寸前、姉さんの盾がその間に割って入り、その一撃を弾き返した。それにより、僅かにバランスを崩した少年を、リナリアが即座に追撃する。


「ちぃっ!」


 襲撃者がそれを躱すため、飛び退いたその先で、ギルマスが仕掛ける。

 だが突如として襲撃者の軌道が変わり、それは僅かに腕をかすめただけだった。


「遊び過ぎなんだよ! クソガキが! 《葬送(アングラッド)()(テンペスト)》!」


 ゴブリンマザーが暴風の檻に包まれ、内部に生じた無数の竜巻がその体を引き裂いていく。ゴブリンマザーの再生も、その身を分断されていく上では十分な効果を発揮できていない。

 やがて、それらは全て一点へと収束し、僅かにゴブリンマザーを残したまま消失した。


「おい! 倒しきれてないじゃないか!」

「違うこの魔法は……まさか、お前わざと――」

「タイム! 今だ! 皆は俺の後ろへ!」


 姉さんリナリアが即座に俺の後ろへと回り、ギルマスが牽制しつつ、それに続く。

 タイムにより俺達の正面に三重の結界が展開する。それを補う形で、ギルマスが俺達の周囲に結界を展開した。


 その直後、魔法が消失した一点から、嵐が吹き荒れ、洞窟を埋め尽くしていく。

 それにより、その中心にいたゴブリンマザーは、今度こそ消滅した。


「くそっ、このままだと転移が……殺してやる! 次会った時は必ず殺してやる! 必ずだ!」


 そう言い残し、襲撃者の少年はどこかへと消え失せた。


「ざまぁ見ろ、クソガキが」


 襲撃者が消えた方を見ながら、俺はそう小さな声で悪態をついた。

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