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第157話 相性

 俺たちは侍従に案内されるまま城を出ると、そこには二頭立ての馬車が止まっていた。俺たちに気づいた御者が、御者台の上で被っていた帽子を軽く持ち上げ、俺たちに軽く会釈をする。

 どう見ても王族のために誂えらえれたその馬車を目にし、俺はどうしたものかと考える。


 正直乗りたくねぇ。


 外から中は伺えない様になっているとは言え、降りるときには姿を見られるのだ。その際にどれだけ奇異の視線を向けられるかわかったものじゃない。


「ソルトさん、あまり御者の方をお待たせしては悪いですよ」

「そうは言ってもだな……王城だぞ? 馬車ならいくらだってあるだろうになんだってこんな……如何にも王族専用の馬車なんだよ」

「せっかくのご厚意に対しその様なことを言うのは感心しませんね」

「……いや、これは分類的には悪意とか嫌がらせの類だと思うが」


 絢爛豪華なその馬車はどう考えても、俺たちの様な庶民が乗るには不釣り合いだ。護衛の観点から考えると、もしかすると、王族ですら式典などの行事以外では乗らないんじゃないだろうか。


「はぁ、ソルトさんの感想は良いですから、ここはご厚意に甘えましょう。ソルトさんも向こうで何か準備が必要なんじゃないんですか? 急がないと間に合いませんよ」

「わかった、わかったから押すな! なんでお前は俺やセインに対しては遠慮がないんだ!」

「なんですか? 今更他人行儀の方がいいんですか? それならいつでもそう仰ってください。いつでもその様に対応しますよ」


 穏やかな口調とは裏腹に圧がやばい。俺は下手に抵抗するのをやめ、背中を押されるまま馬車へと乗り込む。

 馬車の中は外見とは裏腹に厳かで質の良い作りとなっている。見た目の派手さより、いかに快適に過ごせるかを重視している様だ。ただ、そんな内装に不釣り合いな重そうな荷物が、一人分の座席を占有している。荷物が座席より少し大きいせいで、本来であれば四人は座れそうな馬車に二人しか座れそうにない。


「どうかしましたか?」

「それが、人が入れそうなくらいのでかい荷物がだな……いやなんでもない」


 王族が乗る様な馬車にこんなものを乗せるなよとは思うが、ここで俺がうだうだ言ったところで状況はかわりはすまい。

 俺は大人しく、荷物が置かれているほうへ腰を下ろす。エリオも荷物を一瞥したものの、何も言わず俺の向かいへと腰を下ろした。

 

 俺たちが乗り込むのを見届けると、ここまで案内してくれた侍従が馬車の戸を閉める。閉ざされた空間で二人きりとなったせいか、何やら一気に空気が重くなった様に感じられた。


 ……これは調子に乗りすぎたか。


『ソルトさん、ここは話のきっかけを掴みましょう。やっぱり天気の話がいいと思います。人間は天気の話をすれば万事解決するって聞きました』

『なんの宗教だ、そんな信仰は今すぐ捨ててしまえ』


 タイムの発言を切って捨て、俺はエリオへと視線を向ける。


「さて、それでは少しお話を致しましょう」

「待て、さっきのは俺なりに気を使った結果であってだな。別にバーネット教をどうこう――」

「その件に関してはまた後日。そんなことより」


 俺の言葉をエリオが遮る。そしてそのまま品定めするように、俺の体へ視線を這わせていく。やがて、頭を抱えながら大きくため息を付いた。


「なにか視えるか?」

「いいえ、視えませんよ。以前それは単なる噂だと言ったはずです」


 神に祈りを捧げ続けてきた高位の神官は、実際にその目で呪いを視認できるという。もっともこれはただのデマで、実際は神の加護により呪いに関して感覚が鋭敏になっているだけなのだそうだ。

 とは言え、その加護のおかげもあり、教会は呪いの対応に長けたものが多い。それはエリオにも通じるところであり、今の俺はさぞかし歪に感じられていることだろう。


「フェンネルさんから少しお話は伺っていましたが、その後も順調に問題を抱えていかれたようですね」

「俺だって好き好んで抱えたわけじゃない」

「当然です。望んでそうなられたのであれば、無理矢理にでも更生させていました。それで私になにかお手伝いできることはありますか?」

「ある。何も見なかったことにして、今すぐパニカムへ帰れ」


 その答えは予想していなかったのか、エリオは驚きの表情を浮かべた。そして、次第に不満の色を帯びていく。

 予想外だったのはタイムの方も同じらしく、慌てて腕輪から飛び出してきた。同時にルミナの方も釣られる様に腕輪から飛び出してくる。ただ、ルミナの方は予想していたのか、どこか諦めた様な顔をしているだけだった。


「ちょっとソルトさん! エリオさんに呪いを解いて貰うんじゃなかったんですか!?」

「確かにそれもかんがえてたんだけどな。でもエリオの格好を見て気が変わった。やっぱりそれはお前の仕事だ」


 呪いを解く必要は確かにある。だが、この場でと言うわけにはいかない。トリプトの目もあるだろうから、どうしたって品評会の会場まで付いてきて貰う必要がある。


 ことがことだ、どう考えたって厄介ごとが待っている。そんな場所にエリオを連れていくわけにはいかないよな。


 エリオが着ている急ごしらえの衣装を見て、そう思ってしまったのだ。そうしなければならなくなった理由を、俺は姉さんを通して知っている。それを思い出した。思い出してしまったからには、絶対に無理をさせるわけにはいかない。


「仕方ありませんわね。身重の方をあの場へ連れていくわけには参りませんし」


 やはり、と言うかルミナはエリオの状態を把握し、俺の考えを察していたらしい。


「まぁそうだよ。正直に言えば今回は俺だって逃げ出したいんだ。そんな場所へ身重のエリオを連れて行ったとなれば、セインに会わせる顔がなくなるんだ。だから帰れ」

「心配してもらえるのは大変ありがたいのですが、嫌です」

「……お前ほんとこう言う時言うこと聞かないのな! ここは大人しく助言の一つでも残して従うべきところだろうが!」

「それはいつもいつもソルトさんが危ないからと言って、すぐ後方へ配置しようとするからです。危険があると聞かされて私とて引き下がるわけには参りません。我が子にもかくあれと示さねばなりません。ソルトさんのそう言う無自覚に人の誇りや矜持を傷つけるところ、顧みられた方がいいと思います」

「俺は良かれと思って言ってるんだよ! お前こそいつも嘘をつかないことが良いことだと思うなよ!」


 そうだった。ここぞと言う時に限ってエリオとはいつも意見が合わない。これまで何度揉めたことか。


「ソルトさん達が三流だった理由がわかる気がします」

「チームワークガタガタですわね。この人たち」


 口論を始める俺達を見て、タイムとルミナが呆れた様につぶやく。

 そうこうするうちに、俺達は品評会の会場へとたどり着くのだった。

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