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第150話 変貌

 なんだろう……なんだか胸騒ぎがする。


 思わず私がジキスさんに声をかけようとした時、あたりに放置されていたナイフが空中に浮かび上がった。

 浮かび上がったナイフが、まるで意思を持った様にジキスさんへ襲いかかる。でも、ジキスさんはそのナイフには一切取り合わず、唱えていた魔法を発動させた。


 風の音が、鳥の声が、木々のざわめきが、世界から音という音が消失する。

 無音の世界の中で、小指の先ほどの炎が揺らめく。

 その瞬間、まるでその炎とそれ以外が置き換わるかの様に、世界が爆炎に飲み込まれた。


 常識人の皮を被ってるけど、この人も加減を知らない側の人間だ!


 私はそう確信した。アリオトを捕らえて情報を引き出そうとは全く思っていないらしい。それどころか、ここで確実に仕留めてやる、という気概を感じさせる。


 いつの間にか私達の周りには結界が張り巡らされていた。きっとこの結界がなかったら私達は骨も残らないんだと思う。


 ミントがフェンネルさんに抱きつきながら、すごい声で悲鳴をあげている。ロウレルやエドガーさん、そしてリナリアさんが、絶句しながらその様子を見守っていた。

 私もエドガーさん達と同様だ。ここまでくるともう悲鳴を上げようとさえ思えない。まだ大きな声で悲鳴をあげているミントの方が余裕があるんじゃないかとさえ思う。

 

 やがて、時間が経つにつれて徐々に炎が収まっていく。そして、炎の向こうから現れた景色を見て、私は自分の正気を疑った。

 周囲の景色に一切の焦げ跡がないのだ。まるで先程の炎は夢か幻だったんじゃないかとさえ思う。


 でもきっとそうじゃない。先程まで散乱していたナイフやその柄が無くなっている。きっと、さっきの魔法で跡形もないほど、焼き尽くされたんだと思う。


「かつて、サリッサ殿はジルクニフ殿にこう言われたらしい。周囲に被害を及ぼす魔法など三流の仕事だ、と。それに激怒したサリッサ殿が出した答えがこれなのだそうだ。私も初めて目にしたがね」


 頭おかしいんじゃないかな。


 エドガーさんのその話を聞いて、私は心の中でそう呟いた。


「馬鹿げた話だ。馬鹿げた話ではあるが…………満身創痍とはいえあれに耐えきる連中もまた化け物だということだね」

「えっ!?」


 私はエドガーさんの言葉に驚き、アリオトがいた場所を見る。そこには左腕が炭化し、体のあちこちが焼けただれたアリオトが立っていた。


「……ま……たく……これだから……常識を……た……連中……は」


 アリオトは残された右腕を前に突き出す。


「……でも……目的は……果たした」


 いつの間にかジキスさんが片膝をついている。その口元には血が滲んでいた。


「先程の砕けたナイフ……あれは毒か」

「……さぁね……答え合わせは…………勝手にしなよ」


 ジキスさんの周囲に光の輪が現れ、その輪は回転しながらジキスさんの頭上で腕輪ほどの大きさになる。それと共にジキスさんの体が徐々に若返っていく。

 やがて光の輪は実態に変わり、それはアリオトの手へと収まった。一方でジキスさんの体は幼子へと変貌する。


「……あの腕輪……ソルト君の物に似てるような」


 アリオトの手に握られた実態化した腕輪を見たミントが、小さな声で呟く。


「……そう……どっかの化け物が……その力と引き換えに……ああ……駄目だ。もう……これで……らせて……うよ」


 そう言い残し、アリオトは最後の力を振り絞る様に魔法を発動させると、この場から姿を消した。


「……力と引き換え? ジキスさん!」


 その言葉を反芻したミントがはっとした様に、ジキスさんへと駆け寄っていく。残った私達もそれに続いた。

 そこには小さくなったジキスさんが、意識を失い倒れていた。

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