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第149話 ジキスの力

 障壁に防がれたナイフが近くの地面へと突き刺さる。標的にされた私は、体が強張り、その一部始終をただただ目で追っていた。


 私のそばにはいつの間にかジキスさんとリナリアさんの姿がある。どうやら、この障壁はジキスさんが貼ってくれたものらしい。


「事情はわからんが、かろうじて間に合ったというところかの」

「エドガー様!」


 エドガーさんの様子を眼にしたリナリアさんが、即座に駆け寄っていく。聞いている話だとリナリアさんと以前にもアリオトと接触しているはずだ。それなのに、その様子からはまるで警戒心というものが感じられない。

 今の私が言える立場じゃないかもしれないけど、本当にどうかと思う。


 でもそれは、私の考えすぎだったらしく、リナリアさんは難なくエドガーさんの元へとたどり着いていた。


「お主……いや、まずはそっちじゃな」

 

 ジキスさんはアリオト言いかけた言葉を途中で止め、フェンネルさんの方へと向き直る。


「力を使いこなせておらんな。そのままでは体がもつまい」


 ジキスさんはフェンネルさんにそう言葉をかけるとともに、魔法を発動させた。

 フェンネルさんが光つの蔓によって拘束され、穏やかな光に包まれる。

 やがて光が消える頃には、フェンネルさんの瞳から狂気が取り除かれ、まるで糸が切れたかの様にそのままその場に倒れてしまった。その後、フェンネルさんの足元にもう一度魔法陣が展開し、その魔法によって、フェンネルさんの体がミントの元へと転移する。


 ミントが少しだけ体を震わせたものの、そのままアンゼリカさんの治療を続けている。きっと内心ではフェンネルさんに駆け寄りたいんだと思う。


 そんな中、アリオトはジキスさんの背後を取ると、その首筋めがけてナイフを振り下ろす。でもそのナイフはジキスさんの結界に阻まれて砕け散った。

 アリオトは柄しか残っていないナイフを放り捨て、その場から距離を取りながら数本のナイフを投擲する。

 しかし、それらも先程のものと同様、結界に阻まれ砕け散った。


「随分脆いナイフを使っておるな。武器はもっと吟味した方が良いんじゃないかの」


 だが、アリオトは一切取り合わず、素早く移動しながらなおもナイフを投擲する。対するジキスさんも今度は結界で受けることはせず、風を巻き起こしナイフを寄せ付けない。そしてその風は収束しアリオトへと襲いかかっていく。

 アリオトの方もそれを難なくかわし、風の刃はその後ろの瓦礫を切り裂きながら突き進んでいった。


 ちょっと見ただけではそんなに強力な魔法だとは思えない。でもそれがどれだけ異常な事なのか今の私は知っている。

 やはりジキスさんもまた格が違うという事だ。


 そんな二人の応酬にいつの間にか見入っていた私は、はっとなって首を振る。


 違う、こんなことしてる場合じゃないんだ。早く王子様を連れ出さないと。


 先程までと違って一方的ではなくなったとはいえ、ここはまだ戦場なんだ。私は私にできることをしないといけない。


 私は慌ててロウレルの傍へと駆け寄り、彼へ声をかける。


「……ジキス殿でさえあの様子では……」


 でもロウレルは私の声が聞こえていないみたいだった。もう一度呼びかけても、やっぱりロウレルの反応はない。


 今はこんなところでモタモタしている場合じゃないのに……仕方ない。


 私はロウレルの頰を思い切り叩く。すると、ロウレルはしばらく呆然とした後、ようやく私の方へと視線を動かした。


「何を考えてるのか知らないけど、今はここから離れるの! わかる? ほら立って! 立ちなさい!」

「……ああ……ああ、そうだな」


 私はロウレルに肩を貸し、ミント達と合流する。そこではアンゼリカさんの治療を終えたのか、ミントがエドガーさんを治療していた。


「もう十分だ。君は力を残しておきたまえ」


 ある程度治療が終わったところで、エドガーさんがミントに治療をやめさせた。


「あとは……」


 そう呟いて、エドガーさんがジキスさん達の方へ視線を移す。私もそれに習って、ジキスさんの方を見た。

 そこではまだ二人の攻防が続いており、アリオトは変わらずナイフを投げ付けていた。

 先程までは砕け散っていたナイフが、少しずつ砕けないものが混じり始めている。もしかすると、徐々に強度を引き上げているのかもしれない。


 ジキスはそんなアリオトに対し、気流の壁と土の壁を用いて動きを封じ込めながら、魔法で追撃を行っている。時折、強度の高いナイフを見極め、アリオトへ向けて転移させていた。

 フェンネルさん達が束になってもどうしようもなかった、その相手の体には無数の傷が刻みつけられている。


「さて、これ以上お主に付き合う理由もないのでな。この辺で終わりにさせてもらおうかの」


 その言葉とともに、アリオトの体を気流が飲み込み、その動きを拘束する。ジキスさんがこれまでにないほど巨大な魔法陣を展開した。


 その瞬間、気流の壁の向こうでアリオトが笑った気がした。

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