第14話 異形の陰
『この洞窟などうしてこう、頑なにゴブリンばかりなんですかね』
『さぁな、俺としちゃこの異常な数のほうが気になるよ。それにしても、あの装備便利だな。タイムに光るって聞いた時は正直少し馬鹿にしてた』
本当に光るのだ。しかも自在に点灯・消灯ができる。おかげでギルマスの周囲では別の明かりが必要ない。
俺達はその明かりを頼りに洞窟を進み、タイムと遭遇した場所へと続く分かれ道までやってきた。
あれから遭遇した数は六匹。それらはいずれもギルマスの手によって、一刀のもとに切り伏せられている。
相手がゴブリンとは言え、ここまで圧倒的だと、俺達が本当に必要なのか疑問に思えてくる。
「どうするんだい? 二手に分かれるかい?」
「いや、止めておこう。ここで戦力を分散するのは下策だ。ゴブリン程度であればリナリアでも十分対処できる。問題ないだろう」
「なら先に小道の方へ進みますか。少し進めばすぐに行き止まりですし」
「そうしよう」
俺達は狭い縦穴を抜け、空洞へと赴く。
縦穴を抜ける直前、ギルマスが俺達を制した。
「待ちたまえ、戦闘の痕跡がある。あれは……そうか……」
中が暗いこともあり、俺の位置からではあまり良く見えない。だが、その声音から大体の事情は察せられる。
「どうやら敵は居ないようだな」
ギルマスが、空洞内へと進んでいく。俺達もその後に続いた。
空洞を見渡すと、いくつかの影が確認できる。
近寄ってみれば、四肢の損壊や、中には頭部が失われているものがあった。
打撃によるものではない。鋭利な何かで切断されている。
さすがに今更吐くような事はないが、見ていてあまり気持ちの良いものではない。
「四人、か」
「これはコンフリー君か」
「一剣の連中だね、あたしも見覚えがあるよ」
「いないのは、クラリス君のようだね。ディル君達のところへ逃したか、あるいは……」
「何者かに連れて行かれたか……か」
二剣の連中がやったとは思わない。人柄、ではない。明らかにあの四人が扱う獲物によるものではないからだ。
もちろん、俺が知らない隠し玉を使って、と言うのがない訳ではないだろうが。
『ソルトさん、ソルトさん、向こうで倒れてる人が持ってるの、あれ多分財布ですよ』
自称精霊は空気を読まない。
『悪魔の囁きはやめろ』
『でもでも、この先にこれをやったやつがいるかも知れないじゃないですか』
『確かにそうだが……いや、ギルマスの目は欺けそうにない』
『フェンネルさん普通に漁ってますけど』
『姉さんすげぇな』
見れば姉さんは、亡骸を一つ一つ丁寧に確認していた。
先程タイムが示した財布も当然のように手に取り、中身を確認している。
「どうやら物取りではなさそうだね」
「それをどうするつもりだね?」
「なんならギルマスが持ってるかい? クラリスがいれば渡してやりな」
「……わかった、預かっておこう」
ギルマスは呆れたように頷くと、姉さんから受け取った財布を懐にしまう。
「本来であれば手厚く葬ってやりたいところだが、今は先を急ごう」
ギルマスの後に従い、俺達は空洞を後にした。
◆◇
リナリアは腕を組み、洞窟の入口前でぐるぐると歩き回っていた。
納得がいかない。
何故あの様な者達だけなのだ。
確かに《行き遅れ鬼》と《鬼の腰巾着》の事情は聞いた。
しかし、だからといって私を置いていかなくとも良いではないか。
私の方がずっとエドガー様のお役に立てるというのに。
「特にあいつだ! あの《鬼の腰巾着》が! ろくに実力もないくせに私を馬鹿にした、あの男だけは許せん!」
いや、考えてみればいざという時にエドガー様をお守りできるのは私の方ではないか。
多少持ち場を離れたところで、その様な失点すぐに取り返せるのではないか?
そうだ、そうに違いない。
「そうだ、これは名案ではないか! そうと決まれば善は急げだ! 確か一番奥へ行ったのだったな」
リナリアは洞窟の奥へと進んでいく。
途中、遭遇するゴブリンを退け、奥へ、奥へと。
崩され、広げられた洞窟の最奥で、リナリアは誰より早く見慣れぬ異形を目撃した。