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第144話 絶望の片影

 アンゼリカさんはなおも、杖を構えたままアリオトと対峙している。たとえ魔導師でも私なんかよりよっぽど強いはずだ。それでもさっきのアリオトの指摘は事実なんだと思う。私にはアンゼリカさんの背中が震えている様に見えた。


「頑張ってはいるようだけど、腰が引けてるよ? まぁ魔導師なんだから無理もないかもね。でも、あんたの今の状況はあんたのせいでもあるんだよ?」

「……どう言うことですか」

「王都のことをちょっとしか知らない僕だって知ってるんだ。あのハイエルフが頻繁に街中で魔法を使ってたんだろう? 知らないとは言わせないよ。あんたなら一度くらいその現場を見たことあるよね? もしかしたら見よう見まねで使えたんじゃない? 大方、隔絶した実力があるんだから、なんてつまんないことを自分に言い聞かせて、試してみようとさえ考えなかったんじゃないの? それとも、さわりだけ読み取って自分には必要ないと切って捨てたのかな」


 アリオトの言葉に、アンゼリカさんが体をびくりと震わせる。


「やっぱりね。だからその程度なんだよ。あのハイエルフが使う魔法なら少しくらいは望みがあっただろうにさ」


 心底見下げ果てたと言う様に、アリオトが言い放った。


「どうだい? 発動しないでしょ?」


 アリオトが、アンゼリカさんへではなく、明後日の方向へ声をかける。私がそちらへと目を向けると、そこにはミント達の姿があった。


◆◇


 あたし達がリユゼル達を視認したのは、アリオトのやつが何やら二人に対して語りかけていたところだった。王子様は二人とは少し離れた位置で倒れているのが見える。


 エドガーはすぐさま魔法を発動しようとしたらしく、その表情は苦々しい。

 やはりというか、アリオトはそんなあたしらに気づいていたらしい。そんなエドガーを嘲笑う様にゆっくりとこちらに語りかけてきた。


「……まだ、そうと決まったわけではないがね」


 答えるエドガーの声は負け惜しみの様に聞こえる。もしかするとエドガーは対策を試みていたのかもしれない。もしそうならやはりアリオトの言う様に一千年の研鑽を飛び越えるのは難しいと言うことだ。


「それに、私はこちらも使えるのだよ」

「まさか僕と互角に戦えるつもりかな。洞窟でのこと、まさか忘れたわけじゃないよね? まぁやろうっていうなら付き合うよ。まだ時間もありそうだからね」


 アリオトの言葉を受け、エドガーが剣を構える。あたしも同様に背中の剣を抜いた。


「リユゼル!」


 その合間を縫う様にして、リユゼルの異変に気付いたミントがリユゼルへ駆け寄った。ミントはリユゼルの右腕に手を添えると、癒しの力を行使する。


「っ!? ミント……それって……魔法……だよね。そっか……そうだよ! サリッサさんの魔法ならってことは!」


 その癒しを受けたリユゼルが驚いている。力を使ったミントもどうやら無意識だったらしく、行使した本人が驚いていた。


「そう言えばセインのやつがしつこいくらい言ってたっけね。ソルトの使う魔法はおかしいって。それはとどのつまりあいつの爺さんの魔法がってことかい」

「そうだね。大戦の生き残りの魔法なら話は別だ。連中はそのあたりも別格の化け物だから。でも、そっちの子はそうじゃない。見るからに経験不足だってわかる。たとえ魔法が使えたところで物の数には入らない」


 アリオトが射抜く様な視線をミントへ向けた。あたしはそれをかばう様に体を移動させる。


「さぁ、そろそろかかってきなよ。話してばっかりなのは退屈でしょ? 全員まとめて相手をしてあげようじゃないか。準備運動がてら少しは本気ってやつを見せてあげるよ」


 アリオトがこちらを一瞥しながらそう言った。

 洞窟のことが頭をよぎる。あたしはあいつに手も足も出なかった。


 ……こんな考えあたしらしくないね。


 あたしはその記憶を押し込めるために、剣の柄を強く握る。援護は期待できない。おそらくエドガーもアンゼリカも、魔法を封殺されていることで普段通りには動けない。どうせあたしじゃこいつ相手に虚をつけないだろう。


 腹をくくるしかないね。あたしはあたしらしくいこうじゃないさね。


「その本気とやら、見せてもらうさね!」


 あたしは距離を詰めると、大上段からアリオトめがけて剣を振り下ろす。

 その一撃が微動だにしないアリオトの肩口を捉えた。

 だが、それだけだ。

 あたしの渾身の一撃はアリオトの纏った衣服すら傷つけることなく完全に停止したのだった。

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