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第141話 介入者

「魔法が止んだ?」


 間断なく打ち込まれていた魔法の攻勢が不意に静かになる。あたしがそう認識した時には、すでにエドガーは飛び出していた。


 遠距離での攻撃方法がないあたしじゃすでにフォローは無理そうだね。


 早々に見切りをつけ、成り行きを見守る。

 エドガーはある程度相手との距離を詰めると、地面に結界を張り跳び乗った。その後、結界の下の地面を炸裂させ、その反動で空中にいる敵へと迫る。だが、その勢いは半ばと行ったところで失われ、放物線を描くかと思われたその矢先、再び結界の直下で爆発が起こった。それと同時にエドガーは結界を蹴り、一気に相手との距離を詰める。

 だが敵とてそれを黙って見ているわけもなく、エドガーに対し先ほどまで放っていた魔法で応戦している。エドガーはそれらを払い除けて凌いではいるが、それによって徐々に勢いを落としていた。


 それだけで終わりのはずがない。幾ら何でも無茶が過ぎるさね。


 今更ながらに出遅れたことを後悔する。そもそも先程まで慎重を期そうとしていた人間が、なぜ突然暴挙に及んだのかあたしには全くわからない。相手が逃走しようというのなら、見逃してしまえば良いだろうに。


 案の定と言うべきか、敵は目前に迫ったエドガーに対し、砲撃に合わせ横薙ぎの一撃を放つ。砲撃の合間を縫ったその攻撃はエドガーの腹部を正確に捉え、エドガーを両断した。エドガーの体は完全に勢いを失い、そのまま自由落下を開始する。


「まさか! エドガーっ!」


 あたしが声を張り上げた瞬間、弧を描いていたエドガーの体が空中で忽然と消える。慌てて敵の方へと視線を向ければ、いつの間にやらエドガーが敵の背後を取っていた。

 エドガーは敵に組みつくと、上昇して行く時の要領そのままで、加速をつけながら落下し、そのまま敵を地面へと叩きつけた。その衝撃で叩きつけられた場所は地面が抉れている。

 その流れるような一連の動きは、私からすれば完全に常軌を逸した行動だ。


「……切り伏せた方が早かったんじゃないのかい? こんなになるほどの勢いで叩きつけて、よく死ななかったもんだね」


 近づいて確認すると、かろうじて生きてはいるようだが、敵は完全に沈黙している。だというのにエドガーは油断なくすぐさま拘束しているのだから、敵にしてみればたまったものではないはずだ。


「馬鹿も休み休み言いたまえ。死なない程度に加減したからこそこうなっているのだよ」


 エドガーは敵を引っ張り上げ、適当に地面に転がした。


「それに切り伏せなかったのは、魔法の発動を潰しながらだったからだ。あれはなかなかに技術が必要で、剣を扱いながらでは難儀するのだよ。初撃のことを考えれば、けして油断できない相手であったのは君にもわかっただろう?」

「そりゃあそうかもしれないけど……」


 魔法の発動を潰しながらということは、相手は結界すら張れなかったということだ。見るからに魔導師然とした線の細いその敵にわずかながら同情する。


 遠目からじゃわからなかったけど男みたいだね。ならまぁ……まし……なのかねぇ。


「それにしてもいつ幻覚と入れ替わったんだい? あたしはてっきりあんたが無茶してやられたのかと思ったよ」

「空中で反動を利用した際だ。爆炎はいい目くらましになっただろう?」

「なるほどね、ソルトみたいになんで風の魔法で飛ばないのかと思ったらそう言うことかい」

「もとよりその手段は私には使えない。私に風の適性はないのでね。あんな手段を用いているのもそれをなんとかしたいが為だ」


 結果あんな命知らずな方法で空を飛ぼうなんて、エドガーも存外負けず嫌いみたいだねぇ。


「意外さね、てっきりあんたは全属性の適性があるもんだと思ってたよ」

「それは買いかぶりと言うものだね。それがどれだけ希少なのか知らぬわけでもあるまい?」

「そりゃあまぁ知ってるさね」


 その辺りのことはセインが度々熱く語っていた。おかげで適性もないのに無駄に知識だけは増えてしまった。


「それにしてもなんだって突然飛び出したんだい? さっきまで見逃すような空気だったじゃないさね」

「それは彼が逃走を諮ったからだね。我々になんの実害も与えていないのに、逃走を諮るのは目的を達成したからだろう。それがなんであるにせよ、みすみす見逃してやる義理もないのでね」

「目的……まさか王子様かい?」

「そのことだが」


 エドガーはそこで一旦言葉を区切り、何やら考え込む。少しの沈黙の後、


「ジキス殿を分断できるなら殿下を隔離することだって可能だったはずだ。だが敵はそれをしていなかった。ならば殿下が目的というのは考えにくい。そうなると、我々を釘付けにしておきたいと言う推測にも疑問が生じる。本来ならば尋問したいところだが、今は先を急ごう。おそらく教会に行けば誰かがいるはずだ。彼女――アンゼリカならばそうするはずだ」

「それはつまり、私に担いで行けってことかい?」


 そうでもなければ拘束した意味もない。このまま放置すれば逃げられるのがオチだろうからね。


「今の君であれば造作もあるまい? なに、しばらくは目を覚ますこともないはずだ」

「引きずることになるのが問題だって言ってるんだけどねぇ。まぁなんとかするさね」


 かさ増ししているのにも関わらず、相手の上背が上回っていると言うのにはショックではあるものの、今更どうこうなるものでもないので、相手を肩に担ぐようにして持ち上げる。


「さて、それじゃあ急ぐとするさね。ミントが心配だからね」

「ああ、そうしよう」


 あたしたちは連れ立って教会へと向かうことにした。


◆◇


 私はロウレルと一緒に教会から少し離れた場所にいる。教会のある場所は土地が少し高くなっていて、教会の外壁も下の方まで崩れている箇所は少なく、思うように様子が見えなかった。

 幸い今の所的には見つかってないけど、これだとあまり意味がないかなー。


「……遠くからじゃ中の様子は見えそうにないですね。どうするんですか?」

「……どうすればいいと思う?」

「教会の壁がもう少し崩れてくれるといいんですけど」

「崩れている最中に教会へ近づこうとは思わないけどね」


 確かに、それもそうだ。だって間違いなく誰かが戦ってるんだろうし。


「ん? 魔法の音が消えた? これは失敗だったか」

「誰かが倒しちゃったのかもしれませんね」

「ここからだと教会の向こう側だ。今更向かうのは難しいか」

「仕方がないですね。まずは教会に――」


 そう言いかけた瞬間、突然ロウレルに突き飛ばされる。何事かとロウレルの方を見ると、その場にロウレルの姿がない。何かが崩れる音が聞こえ、そちらへ視線を移すとそこには瓦礫に叩きつけられたロウレルの姿があった。


「おおー、驚いた。王子様なかなかやるじゃん。身を呈してその子をかばうなんて思わなかったよ。あー、まさか死んでないよね? 殺すなって言われてるんだよ。こんな面倒なことアルカイドの奴にやらせればいいのにさ。まぁ妨害だのなんだの面倒なこと、僕には向かないのはわかってるんだけどさ。次は殺そうと意気込んでたのにこれじゃああんまりだと思わない? ねぇ?」


 アルカイド、その名前は忘れもしない。ソルトから聞いた名前だ。アカンサスの、私の故郷の、ネリネ様の仇。ならきっと、その名前を口にする目の前のこの少年が、


「アリオト……お姉ちゃんの……」


 仇。


 そう口にしたつもりが、声が出てこない。


「あれ? もしかして僕のこと知ってるの? 悪いけど覚えてないなぁ。僕そう言うの苦手なんだよね」


 アリオトはそう言って本当に楽しそうに笑った。

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