第13話 バニカムギルドの長
日がすっかりと沈んだ頃、俺達はようやく北の洞窟へとたどり着いた。
俺達は、洞窟の入り口からある程度離れた場所で馬を降り、手綱を適当な枝にくくりつける。
ここまでの道中で互いの技能は確認しているため、後は意を決して事を運ぶのみだ。
前衛が俺達二人、そして後衛であるギルマスは魔道士である。
リナリアも一応前衛ではあるが、中へは入らないので勘定に入れていない。
それを説明された時、かなり反発していたが、ギルマスの命令ということもあり、渋々同意した。
『そう言えば先に行ったパーティーは何人いるんですか?』
『合計で九人だ。一剣が五人、二剣が四人だよ。ちなみに構成だが女が七人いる』
『それぞれ男性が一人なんですね……ソルトさんのことがだんだん分かってきました』
俺の声はそんな悔しそうだっただろうか。
あってるだけに少し悔しい。
気を取り直し、俺は洞窟の周辺を確認する。
山の麓にある入口は、周囲の闇と混ざり合い、見え辛くなっていた。
元々その周囲は草木で囲まれているため、なおのことだ。
俺達は茂みに身を潜めつつ、慎重に洞窟の入口へと近づく。
近くの茂みから洞窟の様子を伺うが、普段と特に変わった様子はなく、静かなものである。
もっとも、だからこそ不気味でもあった。
「何も変わった様子はありませんね」
リナリアが誰にともなく呟く。
その言葉の真意を測りかねた俺は、思わずギルマスの方へと目を向けた。
ギルマスが目を閉じ静かに首を横に振る。
「だからこそ妙なんだ」
「そ、そんな事は貴様に言われずともわかっている」
大声を張り上げようとしたらしいが、一応の理性はあったらしい。
すんでのところで思いとどまったようだ。
「外から様子を伺っても駄目そうだね」
「そのようだ。これより突入する。リナリアはここで待機。他の二人はついてきてくれたまえ」
そう言うと、ギルマスは先頭を歩き始めた。
それを見て、姉さんが慌てて引き止める。
「ちょっと待った。あんた、前衛で突入するつもりかい?」
「恐らく何かあるとすれば最奥だろう。もし君達に力を借りるとすればそこだ。それまでに君達になにかあっては困るのでね。露払いくらいは任せてもらおう」
「そっちがそれでいいなら別に俺達は構いませんけどね」
「こちらが言い出したことだ。異論などあるはずもない。では行こうか」
ギルマスが再び歩き出し、俺達も後に続いた。
◇◆
『この洞窟なんでこんなにゴブリンがいるんですか!』
頭の中にタイムの声が響く。
タイムが叫びたくなるのももっともだ。
洞窟に入って僅かの間に、既に三匹目撃している。うち二匹は討伐済みではあったが、それをやったのは俺と姉さんではない。
それはつまり俺達が戻った後、最低でも三匹発生したということだ。
そして、一匹は奥からやってきた。
「ここまで障害なしか。まずいかね、これは」
「行けば分かることだ。集中したまえ」
会話しながらもギルマスは眼の前のゴブリンを、あっさり刺突で仕留める。
不安定な足場だと言うのに、まるでそれを感じさせない。とても無駄のない、洗練された動作だった。
距離もあった。
向こうもこちらを認識していた。
それでもゴブリンに身動き一つ取らせなかった。
「あれがこの街のギルドの長か」
「何か言ったかね?」
「いや、何でも無い」
「そうかね? では先を急ごう」
あれで本職は魔道士かよ。
化物め。
そして目の前の化物を相手取っても、爺が負ける姿がまるで想像できない。
化物どもめ。
久々に目の当たりにした高い壁を前に、俺は誰にも気取られないよう、ため息を付いた。
――でも……でも一撃だけなら、きっともう少しだ――