第137話 情報収集
「そこまでです!」
その光を目にしたらしいルミナの一喝で、俺は咄嗟に結界から手を引っ込める。それと同時に結界がその光を消失させた。
「何だよ急に」
「続けるのであれば外に出てからにしてくださいまし。もし攻撃魔法だったらどうするつもりなのですか?」
「確かに……それもそうだな」
暴発でもしようものなら目も当てられない。それこそ俺の人生はそこでおしまいだ。良くて逃亡生活の始まりである。
「さっきまでノリノリでしたけどね」
「……それはそれです。とにかく、城内では認められませんわ」
どこか得意げだったルミナが、タイムの一言で視線が泳ぐ。
「そうなると、当面試すのは難しそうだな」
「ここからいつでられるか分かりませんからね」
「少なくとも品評会が終われば出られるはずですわね」
ここに拘束されている理由を考えればもっともな話ではあるが、それはどうよ。それではどう考えても手遅れだ。あれだけの大見得を切っておいて、当日も城で大人しくしていましたでは、あまりにも不甲斐ない。不甲斐ないにも限度がある。
「……城から抜け出す方法も探しておかないとな」
「ではまずは情報収集ですわね。脱出方法と王子の動向でしょうか」
俺の危機感を感じ取ったのか、ルミナがすぐさま乗ってくる。
「昨日カイエルさんが使っていた魔法を使えればいいんですけど……」
「無理だな、あの呪文は俺には耐えられそうにない」
絶えずリナリアのやつを賛美するなど俺には土台無理な話だ。もっとも呪文を書き換えたところであの魔法は使えない。
「そもそもあれは闇に属する魔法です。ご主人様には使えませんわ。虚像を映し出すくらいなら私にもできますけれど、あくまでも姿を消すだけですから難しいでしょう」
「それに魔力の消費もバカにならないしな。仮に使えたところで俺たちの現状じゃ情報収集には使えないよ。夜間ならともかく日中俺の姿がここから消えるのはまずいだろ? 昨日は来なかったがこれからトリプト……まぁ本人が来るかはわからないが手下かなんかがやってくるだろ」
品評会までまだ時間がある。これ以上監視が厳しくなるのは避けたいところだ。
「仕方ありません、ここは相手の出方を待つしかありませんわね」
『ですので私が参ります』
そこで突然ルミナが念話へと切り替える。そう言えば扉の前に見張りがいるんだったな。……あのまま話していたら筒抜けじゃないか。
『何を言ってるんですか。私達は十メートル以上離れられないんですよ?』
『それはあなただけです。この城の範囲程度なら問題ありませんわ。むしろどうしてそんな制限があるんですの? あなたはもっと自分の状態について考えるべきですわ』
『……言われてみればソルトさんと離れて痛がっていたのは私だけでした!?』
言われてみれば確かにそうだ。思い返してみれば事あるごとに、見えない壁にぶつかっていたのはタイムだけだった。
『……前はミントの傍ならって前置きしてなかったか?』
『あの頃に比べ私も力を増していますから、力が増せば当然私自身を維持できる距離も延びていきますわ。力を増しているのにも関わらずいつまでも幼児並みに離れられないこの子の方がおかしいのです。ただし離れ過ぎてしまうと一瞬で帰還することはできませんけれど』
『ある程度近づかないと腕輪に帰還出来ないってことか……まぁ当然だな。わかった、すまないが頼めるか?』
『はい、もちろんです』
『待て、お前じゃない』
なぜか返事をしたタイムに対し、俺は即座に否定の言葉を返す。
『私としてもここまで言われて引き下がれません! 任せてください!』
『離れられないお前に何ができるんだよ!』
『やってみせますとも!』
その後、制止も聞かず飛び出していったタイムはほどなくして城内の兵士に見つかった。得体の知れないものの影を見たと騒ぎになり、そのせいで無駄に城内の警戒度が上がった。
激怒したルミナに戻ってくるまで正座を言いつけられていたが、その程度で許してくれたルミナに感謝すべきだと思う。