第135話 夢のお告げ
「タイムの……は……ではない。良いか、忘れるでないぞ」
家の傍にある丘の上で爺が俺に向かって何かを語りかけている。これは夢、だな。当時の爺が俺に対しタイムのことを話すはずがない。そもそも当時の俺に話したところで伝わる訳もないしな。だが、それが妙に気にかかる。
もう少しはっきり聞こえないものかと、体を動かそうとするものの、当然のように体は微動だにしない。
夢だって解ってんだからもっと自由に動けたっていいだろうに。
そんな益体もないことを考えていると、爺が自分の前に結界を張った。それはどこかで、いや、タイムが使うものにそっくりだ。
つまり、俺に何かを説明しようとしているのか?
そう考え爺の手元に注視していると、突然視界が白く染まる。
◇◆
体が激しく揺さぶられている。
「……トさん…………ルトさん、起き……ださい。朝ですよ」
なるほど、俺を起こすためにタイムが揺すってるのか。おかげで肝心なところがわからなかった。
「おいっ!」
「なんてことをしやがる!」と続けようとした言葉をすんでのところで飲み込む。
いや落ち着け、ただの夢だ。それで怒鳴り散らすのは流石に理不尽じゃないか?
「……おはよう」
「おはようございます。確かに良いベッドですけれど、起きる度に声を荒げるのはみっともありませんわよ」
「……いや」
「そんなつもりではなかった」と言おうとして止めた。言葉を重ねて墓穴を掘ってもつまらない。ここは素直に謝っておく。
「おはようございます。今日はロウレルさんの弟に会いに行くんですか?」
タイムがそう問いかけてきた。だが、俺としては夢のことが気になって仕方がない。
「……どうかしましたか?」
考えを巡らせるあまり、いつの間にかタイムをじっと見つめていたらしい。その俺の視線を浴びたタイムが何やらオドオドしていた。まるで何かやましいことでもあるかのようである。
俺は答えを求め、無言で視線をルミナの方へと移した。
「先ほど残りの干し肉を食べておりましたわ」
俺はベッドから起きるとすぐ干し肉を確認する。少なくとも今日をやり過ごす程度には残っていたはずの干し肉は、今や一片たりとも残っていない。
「おい、大切な食料をなぜ食った。昨日説明したろうが」
「なんで言うんです?! 共犯じゃないですか!」
問い詰めようとする俺には構わず、タイムはルミナへ食ってかかる。
「妙な言いがかりはやめてくださいまし。口にしたのはあなただけですわ」
「黙って見ていたんだから共犯ですよ」
とんだ暴論だった。
「はぁ……どんな理由ですか。とは言えです。ご主人様、この子少しおかしいですわよ」
「知ってる。でもこいつはこう言うやつだ」
「酷い!」
「……いえ、そう言う意味ではなくてですね。私達はそもそも別の方法で力を得ているのですから、食事などそれほど必要としないはずなのです。以前から思っていましたがこの子は少し食べ過ぎです」
少しずつ量が増えていっているのは知っていたが、そう言うものだと特に気にはしていなかった。だが、同じ存在であるルミナにしてみれば、それは酷く奇異に映るらしい。
「もしかすると食事をすることで、私とは違う何かを維持しているのかもしれませんわね」
「だから止めなかったと?」
「ええ、本人が望んで食べないのであればともかく、欲している時に止めて不都合が起こってからでは遅いですから」
「わかった。まぁ記憶が無いせいか、使える属性も今のところ増えてないしな。そう言うものだと思っておくよ」
「あれ、切り抜けられたはずなのに、なぜだか釈然としませんよ」
しょうがないやつと言っている様なものだし、そりゃそうだろうよ。
「さてと、俺が考えてたことから話がそれたが、ちょっと確認したいことがある。タイム」
とりあえず、夢で見た光景を今一度確認して見るとしよう。そう考え、俺はタイムへと声を掛ける。