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第134話 王城の夜

「許して貰えてよかったですわね」

「……まったくだよ」


 どうやらあの言動が陛下のツボにはまったらしく、酒場でさえそうそう見かけないほどに大笑いされた。それが理由か、最初に言っていたとおりなのかはわからないが、「今日我々は会うことはなかった」とおきまりのようなセリフを言って何事もなく解放された。

 

 その後、カイエルに部屋に引き戻され今に至っている。ベッドと似たような上等な作りの椅子に身を沈ませながら、部屋に出る折に陛下から言われた言葉を思い出す。


「やれるものならやってみるがよい……ね」


 それが俺には無理だと高を括っての事かは窺い知れない。だがはっきりしている事はある。少なくとも今は目的を違えているという事だ。


「……失敗した。その場はとりあえず話を合わせるとかもっとうまいやり方があったんだが」

「私としてはもっと美味しいものが食べられる状況にいながら、干し肉と魔法で出した水を飲まされていることに物申したいです」

「うるさいよ、いいから黙って食え。大体朝食べなかったお前が悪い」


 そう答えると、タイムは罰が悪そうに俺から視線を背けた。


「高すぎるものもちょっと……胃が受け付けなくて……」

「よくそれで美味しいものが食べたいなどと言えましたわね……。もっともどの道ここで出されたものは口にしないほうが良いですわ。陛下はともかく宰相が何をしているかわかりませんから。相手が臆病というのであればなおの事です」

「そんな事よりもだ」


 俺は陛下から貰った《紛い物の粉(シェーム・パウダー)》を取り出し、机の上へと置いた。反目したというのに取り上げるような真似もしないあたり、実に気前がいい。


「忘れてただけなんじゃないですか?」

「国家の秘事とまで言っておいて流石にそれはないだろう。まぁ俺に恩を売っておけばいざって時に手心を加えて貰えるかもしれないとでも思ったんじゃないか?」

「まさか。相手の方が格上じゃないですか。ソルトさんから手心を加えて貰う必要なんてありませんよ」


 タイムがにこやかに言ってのける。こいつはそろそろ少しくらい俺に気を使ってもいいと思う。俺が《紛い物の粉(シェーム・パウダー)》を腕輪に取り込む間も、他人事のように黙々と干し肉に挑むのはどうなんだ?


「言っておくが、お前の忘れてただけって意見も大概酷いんだからな」

「ご主人様が強くなることがいずれに転んだにせよ国益となる。そう陛下は判断されたのでしょう。これから起きる脅威の前に、使い勝手の良さそうな駒が手元にあるに越した事はありませんから」

「……まぁそういう点では婆さんはあてにできないか」


 あの婆さんは自由すぎる。


「場合によっては英雄に祭り上げられるかもしれませんわ」

「呪いの加護で英雄になろうってか? 冗談じゃない。祭り上げられた英雄に興味はねぇよ」


 あれ以来外せなくなった腕輪に目を向ける。いかに爺さんが作ったものとは言え、外せない道具など呪い以外の何物でもない。例えその効果が加護であったとしても、だ。

 

 あまり深入りし過ぎるのも良くないかもしれないな。俺にとってまず優先すべきは《紛い物の粉(シェーム・パウダー)》だ。イベリス王国に行く必要があるのに、肩入れしすぎて身動きが取れなくなったでは話にならない。


「ところで、これからどうするんですか?」

「ロウレルの弟に接触したいところだな。トリプトの野郎が傀儡に狙ってる相手が、どんなやつなのか知っておきたい」

「……子供ですよね?」

「人となりを見る前に決めつけるもんじゃねぇよ。中には大人が舌を巻くほどよく見えてるやつがいるもんだ」

「そう言うものですか」


 タイムはよくわからないと言った様子だったが、ルミナの方に依存はないらしい。


「それならば、表の方をどうにかしないといけませんわね」

「……そうだな」


 ルミナが扉の外にいる見張りを揶揄する。やれるものならやってみせろとは言っても、手を抜いてくれるわけではないらしい。当然のごとく部屋の前には見張りがつけられていた。


「……最初からいないのがおかしかったんだよ。そう考えることにした。とりあえず明日だ明日。今日はもう寝る」


 そう言って俺は再びベッドへと飛び込んだ。

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