第133話 立ち位置
さて……一体どう答えるのが正解だ? 冗談じゃない。うっかり同意しようものなら首を刎ねられる、なんてことないだろうな。そんなの笑い話にもならないぞ?
『土下座、しますか?』
『早い、早い。俺達が主犯みたいな感じになっちまうだろうが』
『落ち着いてください。やましい事もないのに土下座しようと言う発想がそもそも間違っています。それに恐らく陛下は私達を謀ろうとしての発言ではありませんわ』
『……本当だな?』
『それほど不安なら自分が役に立つと示されてみてはいかがですか? 価値を示せば仮に私達を害そうとしているのであっても思いとどまってくれるかもしれませんわ』
ルミナがどこか投げやりにそんなことを言った後、「私は必要ないと思いますけれど」と付け足した。
価値……価値か。そう言えば暗殺されることで発生する陛下のメリットはなんだ? いや、死者が掴み取れるメリットなど存在しない。なら受け継ぐ側に残したいと言う親のエゴか……となると、
「王権の速やかな移譲と、犯人を捕らえたという箔付けが狙いでしょうか」
「なるほど、ジルクニフ殿やエドガーが興味を示すだけのことはある」
陛下はそう言って笑みを浮かべた。
『どうも当たりみたいですよ。王子は二人いるんですよね?』
『さぁ、私達が知らないだけでもっといるかも知れませんわよ? ただ少なくとも王太子である以上、次の国王はロウレル殿下ですわ。たとえどんな手段を用いても力を取り戻したい王家と、自分たちに都合の良い傀儡として殿下の弟を擁立し、権力を確固なものとしたい宰相。図式としてはこうですわね』
「その通り、例えこの命を引き換えにしたとしても、私はあれに箔をつけてやりたいのだ。今トリプトはうまく敵対する諸侯を抑えつけておるが、あやつが失脚すればそやつらも息を吹き返すであろう。その時にこそ必ずや力となるであろう」
タイムとルミナのやり取りが頭の中で響き、陛下は陛下で話を続けていく。どちらも半端にしか話が頭に入ってこない。
『でもロウレルさんはどうするんですか? あの人は本気で王様を助けるつもりでしたよ?』
「あれにこの事は伝えておらん。後事はエドガーに託すつもりだ」
『多くの命が懸かっていることですからやむを得ませんわね』
「いや、俺達はロウレルにつくぞ。先に受けた依頼を優先するのが筋ってもんだ。それに、依頼主を騙した挙げ句、親殺しに加担するなんて俺の趣味じゃないしな。助けた後に殴り飛ばして目を覚まさせてやれば良いんだよ」
「……ふむ、なんならこの場で実行するかね?」
俺は額から流れ落ちる冷たい汗を拭いながら土下座を敢行した。