第130話 密会
カイエルは道すがら、息つく間もないくらい頻繁にリナリアの話題を振ってきた。当然のごとく俺はその話に興味はなく適当に聞き流す。それでも耳に入ってきたことは、リナリアはカイエルが高齢になって初めて出来た子供で溺愛しているということだ。
『誰に会いに行くかをカイエルさんに聞かなくても良いんですか?』
『無駄だな。聞いても答えはしないだろうさ』
『へ?』
俺にあっさり否定されたタイムが間抜けな声を上げる。
『気づきませんの? 先程から喋っているリナリアさんの自慢話が全て魔法の発動ワードですわよ? 恐らく姿を隠すための魔術ですわね』
『……狂ってるよな』
『……ほんとですね』
トリプトの監視の目があるはずだろうに、随分あっさりと出歩けたものだと思えばこれである。注意してみれば周囲の景色の動き方も少しおかしい。どうやら連れている俺に対しても場所を特定させないようにしているようだ。
自分の娘の自慢話でこんな魔法を発動させているなど、色々な意味で正気の沙汰ではない。
この調子ならエドガーの手を煩わせたのはギルドの一件だけじゃないな。そりゃエドガーもリナリアを取り上げもするよな。
それだけ迷惑を被っていると言うのもあるだろうが、単純にリナリアはカイエルにとっての明確な弱点足り得る。裏を返せばあのエドガーがそんな面倒事を引き受けても良いと思えるほど、カイエルの実力は抜きん出ているのかもしれない。
それにしてもこの国の老人共はどいつもこいつも化物かよ。その上どいつもこいつも後進に道を譲る気はなさそうなのがな……。
そんな事を考えていると扉の前でカイエルが足を止める。どうやら目的の場所へ到着したらしい。
それにしても……これは帰れないな。
周囲を見回してもここがどこだかわからない。ただでさえ城の内部構造など知らないのに、魔術で撹乱されれば無理もない。が、不用意に出歩けば殺されても文句の言えない場所でこれは勘弁して欲しいものだ。
「カイエルです。件の冒険者を連れて参りました」
カイエルが、扉をノックし自分の名を告げる。すると、中から「入りなさい」と言う声が聞こえてきた。
「この声は……」
昼間耳にした声だ。別に声その物が印象的だったという訳ではない。
扉を開け、部屋に踏み入ったその先には案の定思った通りの人物がそこにいた。
「お待たせして申し訳ございません。陛下」
恭しく一礼するカイエルを見て、俺は即座にこの場に跪くべきかどうか悩むのだった。