第128話 謁見の後
その後、エドガーとトリプト主導で様々な議論や検討が行われたが、結局大した進展も見せないまま会議は終了した。とはいえ、現在の各地の状況を知れたことは十分大きな収穫だ。
話を聞いた限り、今の所一番大きな被害はアカンサスらしい。これに関しては大して驚きもない。アカンサスだけですら怪しいと言うのに、あれ以上の事態がそうそう起こっていては今頃既に国が傾いている。権力争いなどもっての外だ。
次に被害の大きかった所が、パニカムだったそうだ。ただこれに関しては俺が洞窟を吹き飛ばしてしまった所為であるので、実際は四剣の連中が全滅したこの国の東部にあるらしい洞窟こそ次点かも知れない。
体よく軟禁された俺は、通された部屋のベッドで寝転びながら今日手に入れた情報を整理する。
「やはり各地で見たこともない魔物が暴れたようですわね。アカンサスでの一件を考えると、その魔物は人間が変化したものなのでしょうか」
「他のところだとパニカムの時みたいにいつの間にかそこにいた様だし、まだそうと決めつけるには早計だろうよ。ただ……」
「はい、その場で発見された痕跡のいくつかはあの連中のものなのでしょう」
事件が発生したいくつかの場所では転位用の魔法陣が見つかったらしい。ジキスから上がった報告では常用されているものとは少し異なっていたそうだ。その異なる点がどのように作用するかはまだ不明だというのだから、連中の実力の一端が垣間見える。
「その魔法陣を使ってこちらから攻め込めないんですか?」
「魔法陣自体はまだ機能していたそうだがな……」
「十中八九転移先は変更されていますわね。別の場所に出るだけならともかく、罠の可能性が高いです。最悪全滅だってありえますわ。と言いますか、このことは会議でも触れられていたはずです。あなた聞いてませんでしたわね?」
「そ、それよりこの部屋すごいですね! 天蓋付きのベッドなんて初めてみました!」
追求しようとするルミナから逃れるように、タイムはあからさまに話題をそらす。
今この部屋には俺達しかいない。軟禁されたのは俺達だけで姉さんたちは、そのまま帰されたためだ。
「確かに思いがけない高待遇だな。もっと狭っ苦しい部屋へ通されると思ってたが、さすが王城」
おそらくここは他国から訪れた国賓などが滞在する部屋なのだろう。エドガーの屋敷の応接室くらいの広さがある。文字通りこれまで見たことのある部屋と桁が違う。
「ご主人様もそんな暢気なことを言ってる場合ではありませんわ。これからどうなるのかわからないんですのよ?」
「だからってここで暴れるわけにもいかんだろうが。ならここは余裕を持って状況を楽しむべきだ」
「そうですよ。王城に泊まるなんてこの先ありえませんよ? あばら家から宿屋、貴族の別邸、そして王城です。私達、順調にステップアップしてますよ!」
「……状況は追い詰められてるがな」
さすがの俺もそこまで楽観視はしていない。これと同列扱いされるのはさすがに嫌だ。
「まぁ何にせよ。状況が動くまで今はのんびりしてようぜ」
俺はそう言うと折角なので布団の中へ潜り込んだ。今までに味わったことのない包み込まれるような感覚の中、俺の意識は落ちていくのだった。