第125話 ソルトの立場
「エドガー卿の話に相違ないだろうか」
「はい、相違ございません」
当然、相違などあろうはずもない。むしろ俺が話すよりわかりやすかったくらいだ。その答えは予め想定していたのだろう。
それにしても俺に語りかけてきたトリプトに、特に気負いのようなものは見られなかった。まさかとは思うが、俺のことを知らないのだろうか。だとすればいささか拍子抜けだ
『ご主人様、注意してください』
『何をだよ。どう見ても俺を知らない反応だぞ』
『まさか、ありえませんわ。ロウレルさんとエドガーさんの子飼いになり、サリッサさんの唯一と言っていい庇護下、そしてグランドマスターの元庇護下でありエニシダの生き残り。あの男にとってご主人様は厄介の種であることに相違ありません。もしそんな相手を知らないのであれば、迂闊にもほどがありますわ』
所々否定したい点はあるが、なるほど、確かにその通りだ。ならば今トリプトはそういった感情を抑え込んでいると見たほうが良いかもしれない。
『もし私が彼ならば、何かしらの理由をつけてご主人様を軟禁しますわね。それくらいであれば、サリッサさんも手を出してはこないでしょうから』
俺からすれば、それは甘い考えだと思わざるを得ないが、少なくとも此処にそう考える奴が存在していると言うことだ。トリプトもそうでないとは限らない。
質問の回答は慎重にしたほうが良さそうだな。少なくとも、俺を留めておく口実は与えないほうが良い。注意喚起の為の場のはずが、相手を疑って虚偽報告しなきゃならんとは、本末転倒だな。エドガーやロウレルが焦る気持ちがよく分かる。
そう考える俺に、トリプトが再び質問をぶつけてくる。
「アルカイドとアリオトだが、何か心当たりはあるだろうか」
心当たり……か。そう言えば一つだけ気にかかっていたことがある。アリオトが爺の魔法を知っている素振りを見せていたことだ。思えばエドガーの一撃から逃れたあの軌道は《大気加速》を使用したものではないのだろうか。
もしそうなら、あいつはどこで爺の魔法を覚えたんだ?
いや、心当たりなら一つだけある。盗まれた爺の私物だ。俺は爺の私物を把握していたわけじゃないが、それに書かれていた可能性は少なくないはずだ。
「いえ、思い返してみましたが、やはり心当たりはございません」
「それは真実だろうか? 隠し事は君のためにならんぞ」
「事実です。思い当たることはございません」
「聞いた話によれば、アリオトと言う者が君の養父、ジルクニフ殿が生み出した魔術式と酷似した魔法を使用したと言うことだが?」
やっぱりルミナが言ったとおり、俺のことを知ってやがった。さて、どうしたものか。
俺はどう対応したものかと頭を巡らせるのだった。