第124話 聴取の始まり
「いや、それは困る。先程はあの様に言ったがお察しの通り私はロウレル・センティッド、この国の王太子である。本日は縁あってこちらに立たせてもらった。このままこの場にて同席させて頂く」
トリプトが陛下に視線を送る。
「よかろう。お前もこの国を背負って立つ身、参加を認める」
仰々しいやり取りだが、どうもわざとらしい。この打ち合わせどおりのようなやり取りは、何か取り決めでもあったのだろうか。
『それにしても、王太子と言っても案外知られてないもんだな』
『距離があるというのもありますけれど、末端の貴族なんてそんなものですわ。ご主人様もエドガーさんの事を知らなかったのではありませんか?』
『言われてみれば……』
まだやる気にあふれていた頃、ギルマスに認めて貰おうと頑張っていたこともあり、先任のギルマスは知っている。だが、日常に慣れてしまった後にギルマスになったエドガーに関しては、直接会うまで名前もろくに知らなかった事を思い出す。
こうして思い出してしまったからには、ルミナに強くも出れそうもない。
『ところで、気づかれなかったらどうするつもりだったんだ?』
『普通にネタばらしをするまでですわ。少なくともこの場において一人は殿下をご存知なわけですし』
『それもそうだ』
何しろ謁見の場には実の親が確実にいるんだもんな。身分が保証されないなんてことはありえないわけだ。
『それに、昨日聞いていましたでしょう?』
『ん?』
『今日に限っては宰相とは協力できるのです。宰相の立場から利用して頂いたほうがより効果的でしょうから。その御蔭でとても静かになりそうですわ』
『……今とても腹黒いセリフが聞こえましたよ』
まったくだ。もしかして昨日の時点でこうなる事を見越してたのか。
『この程度普通ですわ。そんな事より今日の本番はこれからですのよ』
『それもそうだ』
ルミナのその言葉に俺は改めて気持ちを切り替える。
「さて、ではアカンサスでの一件だが、この場にいる方々は知っての通り、先頃、アカンサスがアルカイドと名乗る者に襲撃され、半壊するに至った。アカンサスが元の栄華を取り戻すには少なくとも半年のときは必要となろう。アカンサスはこの国とイベリス王国とを繋ぐ要所。この様な事態を引き起こした者に必ず報いを受けさせるとともに、再びこの様な事態が起こらぬよう我々は手を尽くさねばならない。そのための第一歩として本日はその場に居合わせた彼らから状況を知るための場である。まずはエドガー卿にお話して頂こう」
エドガーは恭しく一礼すると、アカンサスで起こった事態を一から説明していく。それは要約されてこそいるが俺達が事件の後の事情聴取で語ったことそのままだ。むしろ語り尽くされた感じさえする。
はたして俺達がここへやってきた意味はあるのだろうか。
「さて、次に冒険者ソルト。君に尋ねよう」
エドガーの話が終わり、俺の番がやってきた。