第122話 謁見
馬車から降りた俺達は今王城の前に立っている。片田舎で育ち、そこでしがない冒険者を続けていた俺が、何を間違えてこんな場所にいるんだか。城など一生縁のない場所だと思っていたのに、人生と言うやつは何が起こるかわからない。これから国王に謁見しようというのだから尚更だ。
「まったく、こんな場所まで連れてこられるなんて、わかんないもんだねぇ」
姉さんも俺と同じ感想を抱いていたようで、城を見上げながらそんな事を呟いていた。
「ただの伝令役と大差ないとはいえ、悪い気はしないな」
「確かにね、いつかは向こうから頭を下げられるようになりたいもんさね」
「それはちょっと……」
というか、かなり嫌だ。ここ最近のことでさえ生きていられるのが不思議なくらいなのだ。この上さらにとなると、生命がいくらあっても足りはしない。
できることならアルカイドとの一件にしても不意をつく形でもいいので、なるべく安全にケリを付けたい。
英雄志向は身を滅ぼすのだと、もう十分に思い知った。
「あんたは相変わらずだねぇ」
及び腰の俺を見て、姉さんは深い溜め息をついた。そんな俺達に対し、エドガーが呼びかけてくる。
「何をしているのかね。こちらへきたまえ」
気づけばエドガー達は先に進み始めていた。俺と姉さんも慌ててその後を追う。
城内へ入ると、俺達はまっすぐ謁見の間へと向かう。途中、幾人かとすれ違い、その都度俺達は道を譲る。
「なんだか慌ただしいな。いつもこうなのか?」
「外ならばともかく、せめて城内では口に気をつけたまえ、それは自らの首を絞めることに繋がりかねない」
「……以後気をつけます」
不安があるなら城内では口をきくな。これが先だってエドガーが俺達に示した方針である。それを生真面目に守っているのが姉さんとタイム、そしてリユゼルとリナリアである。
リナリアに関しては本当にそれで良いのかと思わなくもないが、こと此処に至って議論することでもない。
「普段はここまでではない。今日は君達の報告があるためだね。派閥によらず当事者の報告は貴重だと思うほどには、危機感を抱いている者もいるのだよ」
てっきり内々の報告会くらいなものを想像していたのだが、思っていたより大掛かりなものだったため、弱気な心が首をもたげる。
「……喜ぶべきなのか、嫌がるべきなのか」
「当然、喜ぶべきだ。少なくともこの国の存続という点に関しては一致しているわけだからね」
「それなら、素直に国王をたてるべきでしょうに……」
それを聞いたルミナが当然の愚痴をこぼしている。
そうこうする内に、謁見の間へとやってきた俺達は、指示に従い中へと足を進める。中にはすでに大勢の人間が待機していた。
玉座につく、国王を観察しようとしたところで、隣りにいたアンゼリカさんに脇腹を小突かれる。俺は慌てて顔を伏せた。
「エドガー・セイバリー、以下六名、陛下の勅命により馳せ参じました。陛下におかれましては――」
「よいよい、堅苦しい挨拶など聞き飽きたわ」
エドガーの言葉をしわがれた声が遮る。
それが謁見の始まりだった。