第121話 謁見の日
翌日、俺達はエドガーの案内のもと、王城へと向かう馬車に揺られていた。寄り合い馬車などと違い、乗れる人数も限られているため、二組に分かれている。俺の乗る馬車にはエドガーと俺、そしてパプキン姉妹と言ったメンバーだ。ロウレルはたまには若い女性に囲まれたいなどと言って、そうそうにもう一方の馬車へと乗り込んでいった。
俺達はかねてより用立てた衣服に身を包みんでいる。普段着慣れないこともあり、正装というのはどうにも落ち着かない。一介の冒険者でしかない俺達が本当にここまでする必要はあるのだろうか。
「ソルトさん、ソルトさん」
またしてもタイムが呼びかけてくる。今日すでに何度めになるかはわからない。今朝方着替えを済ませた姉さんを見てからずっとこの調子である。確かに姉さんの存在感は他の面々に比べても一層際立っていた。ロウレルのみならず、堅物そうなエドガーまでもが息を呑んだほどだ。
それを見た女性陣も一様に盛り上がりを見せていた。盛り下がっていたのは当の本人である姉さんだけだ。
「……何だ一体」
俺は面倒そうに返事をする。その後に続くのは今朝方から続く美辞麗句だ。よくこうもテンションを維持できるものだ。
ドレスに身を包んだ姉さんは確かに可愛らしい。ただこうも何度も持ち上げられると、懐疑的になってくる。当然、目の前に座る姉さんに対してではない。この精霊が本気でそう思っているのかについてである。
「所でエドガー、なんで殿下は使用人の服のままなんだ?」
「言葉に気をつけたまえ、彼は君のパーティーの一員だろう?」
エドガーは俺をひと睨みした後、そのように言葉を続けてきた。どうやらロウレルはその名目で俺達に同道させるつもりらしい。
呼び出された人間以外を同行させようなど、無茶ぶりにも程がある。
「なにが目的だ……リナリアだって一目でわかったくらいだぞ? どんな言い訳したってすぐにばれるんじゃないか?」
「他人の空似で押し通す予定だ」
本気で何がしたいのか見えてこなかった。いくらなんでも無理がある。なにがしたいのか勘ぐる事こそあれ、そんな嘘を信じる馬鹿はいまい。
「普通なら信じるような者は居りませんわ。万が一信じるような者がいたとして、その者がスレイさんを低く見るような者であれば、そうですね。退場して頂きましょう」
「そのような者がいないことを願いたいものだね」
底冷えするような、ルミナのその言葉に、エドガーが同調する。
この腹黒コンビめ。まぁいい、そんな馬鹿はいないだろう。本来の目的はロウレルの威光を笠に着ることなのだから、その辺りのことは特に問題もない。
「さて、王城が見えてきたようだ。気を引き締めてくれたまえ」
逃げ出したいという気持ちを必死に抑え、俺は覚悟を決めるのだった。