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第119話 一つの仮説

「……なんだか妙な空気になっちまったね」


 気まずい沈黙の後、姉さんが呟いた。中でも一番居心地が悪そうなのはエドガーである。こんな中でも喜んでいるのはタイムとルミナくらいなものだ。こいつらは一体何がそんなに嬉しいのだろう。

 そんな空気を変えようとしたのか、エドガーがわざとらしく何度か咳払いをする。


「寄せ集めかと思っていたが、中々に理解されているようで何よりだね」

「ああ、全くありがたいことだよ」


 俺が茶化すこともなく同意したのに驚いたらしく、エドガーの眉が少し動いた。


「何時になく素直ではないかね?」

「自分のことを多少なりとも理解してくれる人間は大切にしろってのが爺の教えなのさ」


 人嫌いの爺にしては珍しい教えだったので、強く印象に残っている。まぁ実践できているかは怪しい物だが。

 爺の本心はわからないが、想像くらいは出来る。突き抜けた才能ってやつが爺を孤独にしたんだろう。この教えはきっとその反動だ。


「なるほど、あの方らしい教えだ。私も肝に銘じることにしよう」

「おう、そうしろそうしろ。あんたもどっちかと言えば爺よりの人間だろうしな」


 一介の男爵という身分で、他の貴族から警戒され、国王の暗殺計画に関しても防ぐ側として深く関わっている。そんな人間が凡人であるはずがない。こいつの人間関係は爺に負けず劣らず希薄に違いない。


「何やら失礼なことを考えていそうだね」

「さて、話を戻そうか」


 強引に話を切り替える俺に対する視線が一気に冷え込んでいくが、気にしてはいられない。エドガーも「まぁ良い」と言っているのでセーフだろう。


「考えていそうなことが手に取るようにわかるね」

「ソルト君。それはアウトだからね?」


 昔から俺を知っている二人による俺に対する判定がやや厳しい。


「先程言っていた野盗はいつ頃のことだね?」

「さてな、逃げる途中で崖から落ちちまってな。その頃俺は意識がなかったんだよ。爺さんの話じゃかなり際どいところだったらしいぜ」

「ジルクニフ殿でもか……だが、目覚めてから聞かなかったのかね?」

「爺さんは教えちゃくれなかったよ。人伝に聞こうにも誰も彼も言葉を濁すばっかりで、話にもならなかったしな。俺がエニシダから来たってのはバレてたようだし、気を使ってたんだろうさ。一月くらい眠ってたらしいから、大体その少し前くらいだろうぜ。今ならわかるが、あの時はまだ慌ただしさが残ってたからな」


 あの頃のことは今でもはっきりと覚えている。目が覚めて目の前にいた爺は何も答えてはくれず、痛む体をおして、這うように冒険者ギルドへ向かったんだ。だが、そこでも誰も何も答えてくれず、気絶した俺は爺に再び連行された。


「そうさね。大体そのくらいだろうさ。あの時大人達は大騒ぎだったからね」

「大凡三週間……なるほど、そう言うことかね」


 エドガーが自身の中で結論を導き出したようだ。

 俺を慮ってか、それとも聞くまでもなかったかまではわからないが、誰もエドガーに問いただそうとはしなかった。


 口にせずとも、それがどういった結論かはわかる。あの野盗はトリプトの仕業だろう。俺が爺さんのところにいることを知り、大急ぎで証拠だけは隠滅したのだ。

 全く馬鹿な真似をしてくれる。爺さんはそんなに正義感に溢れた人間ではない。爺さんにとって致命的となるなにかに手を出さない限り、きっと爺さんは見逃していた。そうすれば……


 俺は頭を振り、その考えを頭から追い出した。たら、ればを語りだせばキリがない。


 これだな……こうしてすぐに頭から追い出していたせいで、こんな考えればすぐ思い至るようなことにまで気づかなかった。


 復讐なんてのはガラじゃないが、まだ何かをやろうとしているのなら、そいつを邪魔してやるくらいのことはしてやるとしよう。

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