第117話 過去
「品評会は謁見の三日後だ。僕の方でももう少し調べて見るから、君達の方も調べてみてくれ。ただ、くれぐれも前に出過ぎないように。それから単独行動も可能な限り避けてくれ」
その後、明日のことについて少し話した後、その日は解散となった。
ロウレルはまっ先に立ち上がり、部屋を後にする。
「護衛とか良いんでしょうか」
「サリッサ殿が側にいるときだけは離れていたが、今はもちろんついている」
ミントが口にした疑問にエドガーが答える。その後、エドガーは小さく「あの方は嫌がるのでね」と呟いていた。
『昼間、離れてたよな』
『……離れてましたね』
金を無心しに行くために職務放棄とか本当にろくでもないな。何事もなくて本当に良かった。
「さてと」
「座りたまえ」
立ち上がろうとする俺に対し、即座にエドガーが命令してくる。
「なんでだよ、もう終わりだろ? まだ何か話すことがあるのか?」
「宰相に弱みがあるのなら聞いておきたいと思ってね」
俺は深く息を吐きながら、浮かせた腰を再びソファーへと下ろす。アンゼリカさんだけが迷っているようだが、ほかは誰一人立ち上がろうとはしていない。
本当に大した話じゃないんだが、どうしてそんなに聞きたがるのやら。
「てっきり、あんたは知ってるもんだと思ってたよ」
「それがそうでもない。どう言う訳か君の過去は恐ろしくなるほど辿れないのだよ。しかし、ジルクニフ殿の関係者だと思えばそう不思議ではないのかもしれんがね」
確かに、爺さんには拾われた時に全部話している。人間嫌いの爺さんのことだ。煩わされる事を嫌って、間違いなくそう言った事は徹底的にやるだろう。
「ジルクニフって誰?」
「俺の面倒を見てくれてた爺さんの名前だよ。滅多に人にも名乗らなかったからな。名前を知ってるだけでも結構珍しかったりするんだ」
「それって生活に支障はないのかな……私には想像できないんだけど……」
確かに社交性の高いリユゼルならばそうかもしれない。だが俺なら余裕だ。
「……その気になれば余裕ですよ」
「わざわざ口に出さなくても良いんですのよ」
顔を背けながら答えるタイムに対し、ルミナが呆れながら声を掛ける。
「言っておくが、俺は直接面識があるわけじゃない。きっと向こうは俺のことを知りもしないだろうよ。弱みなんてほどのものでもない。多分な」
自分でもわかっている。これは言い訳だ。たとえ一瞬でも意識が反らせるならその情報には価値がある。
「それはこちらが判断することだ」
俺は溜息を吐くと、渋々ながらも口を割ることにした。