第111話 厄介事
その日の夜、俺たちはエドガーに呼び出され、屋敷の応接室へと集まっていた。そこには俺達だけでなく、スレイの姿もある。人数が人数ということもあり、元々置かれていたソファーでは席が足りない。その為、部屋にはそれを補うための椅子が運び込まれていた。
せっかくの絨毯が痛みそうで少々落ち着かない。
「話すなら食堂でよかったんじゃないのか?」
わざわざこんな事をするくらいならと、俺は当然の疑問を口にする。
「この部屋は少々特殊でね。隠蔽の魔法陣が敷かれているのだよ」
「なるほど、さすが元は王族が持っていた屋敷だねぇ」
そう言いながらエドガーが部屋の入口に置かれていたランプを操作すると、部屋が微量の魔力に包まれる。
この魔力が部屋の外へ音が伝わるのを妨害しているのだろう。だが、
「あまり質の良いものとは言えませんわね。経年劣化を考慮しても綻びが目立ちますわ。この世界の魔力の水準はこれほど低下しているんですの? 仮にも王家が用いていた術式ですのよね?」
「サリッサ殿もこれを初めてみた時、似たようなことをおっしゃっていたよ。だがこれはこれで良いのだよ」
俺達が席についたのを見て、エドガーは自身で術式を展開していく。魔法は俺達がいる僅かな空間だけを包み込んだ。
「……二重かよ」
「それなりに腕の立つ人間でも一枚目の結界を抜いた時点で、気を緩めるものが多くてね。これはこれで重宝しているのだよ。もっとも、君の今のつぶやきはそんなに警戒が必要な話など聞きたくないと言う意思表示なのだろうがね」
バレてやがる……。
「その言い草、また何か厄介事かい?」
「まずは君達の当面の懸念を払拭しよう。お待ちかねの陛下との謁見だが、急遽明日執り行われることとなった」
「明日ですか? 随分と急なお話ですね」
アンゼリカさんのその言葉には若干避難の色が窺えた。口にこそしないが、他の面々も同意見のようだ。
「こんな時間に伝えることとなって申し訳ないが、先程使いが届いたものでね。色々と覚悟しておいてくれ」
「そりゃまたどう言うことさね」
「隠し立てしても仕方がないのではっきりと言っておこう。君達はアカンサスにおいて敵を招き入れた嫌疑をかけられている」
それを聞いた瞬間、リユゼルが肩を震わせながら立ち上がった。
「ふざけないでください! 私があんな連中に協力したって言うんですか!」
「失礼、説明が足りなかったようだ。厳密にはそう言うことにしたい連中がいるのだよ。私に力をつけさせたくないのだろうね。一介の男爵程度がさぞ目障りらしい。全くご苦労なことだ」
王城に上がる貴族などそれこそ公爵を始めとした大貴族だろう。そんな連中に目をつけられ、この男はまるでそんな事は何でもないというように平然としている。神経が図太いにも程があるだろう。
「一体何をどうすればそんな全方位敵に回すような状況になるんだか」
「聞きたいかね?」
「……いや、止めとこう。深みに嵌りそうだ」
「もう十分深みに嵌ってそうですけど……」
タイムのその呟きに俺は顔をしかめるのだった。