第110話 別格
「この様な格好で申し訳ない」
俺達はギルマスから話を聞くために、ギルドの奥へと続く廊下へと場所を移す。ジキスは今だにそこで正座したままだ。
「……いや、本当に全くだよ」
俺はアンゼリカさんに問いかけるように視線を送る。それに気づいたアンゼリカさんは、目を閉じたまま首を横に振った。どうやらまだ許しは出ないらしい。
なお、婆さんは「付き合っていられるかい」と言い残しギルドから去っていった。多分、アンゼリカさんがいなくなってからまた来るつもりだろう。あれはそういう所には労を惜しまない人間だ。
「この様な格好じゃが、ワシは今気分が良い。長年の溜飲が少し下がった思いじゃよ」
「わかる」
アンゼリカさんがあれほど激怒したのは初めてだったそうだ。婆さんがアンゼリカさんを苦手としていることは薄々感じ取っていたが、あれ程とは誰も思っていなかったらしい。
「改めて自己紹介をしようかの。ワシはこの国の冒険者ギルドを取り仕切っておるジキスと言う。アレの被害にあった者同士、仲良くしようではないか」
他の面々はすでに自己紹介を済ませていたようで、俺とタイムとルミナだけが名乗っていく。
「先程は話の途中で邪魔が入ってしまったが、何やらワシに聞きたいことがあるそうじゃの?」
「うちの爺が何やら腕輪に仕込んでいるらしいんだが、この腕輪がどう言うものかを知りたいんだ。何かわからないだろうか。もちろん報酬ちゃんと払う」
俺が左腕の腕輪を示しながら尋ねる。すると、ギルマスは腕輪を一瞥し、
「無理じゃな」
そのように即答した。
「待ってくれ、せめて調べてからでも」
「何も意地悪で言うておるのではない。それを作ったのはあの人じゃろう? であればワシには無理じゃ。腹立たしいことじゃがサリッサとあの方は別格じゃよ。一目でそれが分かるほどにの」
「何か手がかりでもわからないか」
「あの方のことを知るのは本人だけじゃよ。ご自身で話されない限りはの。サリッサもそうじゃがどちらも秘密主義じゃて」
「なら爺さんが巡り歩いてた土地の場所でも良いんだ」
俺の質問にギルマスは「そちらも心当たりが無いと」首を横に振る。
まじか……。同じハイエルフであるギルマスに淡い希望を抱いていたのだが、無残に砕け散った。この調子だと品評会の後行く宛がなくなってしまう。
世界は広い。闇雲に精霊を探し歩くなど、人生をかけた所で不可能だ。
「お主が正しくそれを引き継いだのなら、あの方は何かしら手がかりを残しておるはずじゃ。何か心あたりがあるのではないのか?」
「……心当たりか」
そんな物あっただろうか。そもそも爺の遺品なんて盗まれたおかげでろくに残ってない。
「あるとしたら盗まれたものの中か……八方塞がりだな」
俺が考えを巡らせる中、リユゼルが姉さんの腕を引いて問いかけている。
「あの方って?」
「ソルトを育てたっていう爺さんさね。セリオの奴も言ってたけどやはり優秀だったようだね」
「へぇ、すごい人だったんだね」
リユゼルの反応はあまり分かっていなさそうな感じである。しかしまぁ、伝聞だけなのだからそんなものだろう。
「いずれにせよ、ワシでは力になれそうもない。すまんの」
「いや、こっちこそ無理を言って申し訳ない」
俺はギルマスに返事をした後、再び心当たりに関して考えを巡らせるのだった。