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第105話 屈辱

 暫くして、店員が頼んでいた品を持って奥から顔を出した。スレイはそれを受け取ると、手早く支払いを済ませる。

 エドガーもそうだったが、こいつも器用に持って歩いている。とは言え、若干ふらついており、俺は少し引き受けようとするが、


「邪魔だね」


 婆さんはそう言うと指を鳴らす。すると、スレイの持っていた荷物が全て光に飲まれて消失した。


「今のなんです!?」

「落ち着け、転送の魔法だ。と言うか、エドガーの屋敷と繋いでたのかよ」

「当たり前だよ。誰があんだけの荷物を抱えたまま街を歩くもんかい。せっかく魔法が使えるんだ。この程度の事できなくてどうするんだい」

「そんな真似ができるのはハイエルフとか限られたやつだけだっての」

「あんたんとこの爺は使いこなしてたよ」


 だろうな。あの爺も限られた側だ。


 本来であれば悪態の一つもつく所だが、ここは口を噤んでおく。自分が持たない他人の技術を羨んだ所で自分が惨めになるだけだ。特にババア相手にそれをすれば実害が発生しかねない。


「いやはや、驚きました。魔法とは凄いものなのですね。どうもありがとうございます。おかげで助かりました」


 スレイが婆さんに対して行儀よくお辞儀をする。その動作には淀みが無く、体に染み付いていることが窺えた。日常的に行っている動作であることは間違いなさそうだ。


 まぁ、エドガーが事情を汲んで家に招き入れるくらいだ。それなりの身分の人間なんだろう。


「さて、これで用事は終わりですね。次はどこへ行きますか?」

「お前はきっとそういうんだろうと思ってたよ……」

「あの子は尊い犠牲になったんです。私の」

「お前……偶に凄いことサラッと言うよな」


 タイムが遠い目をしながらそう言った。どうやらルミナを本気で置いていく気な様だ。

 こいつたまに欲望に忠実すぎてびっくりする。


「あんたら、駄目なところがそっくりだね」


 タイムの様子を見て、ババアが呆れながらのたまっているが、何より欲望に忠実なこのハイエルフにだけは言われたくない。


 俺が言い返そうとした時、店の奥からルミナを引き連れてカナリアが出てきた。ルミナは何やらぐったりしている。店の奥で一体何があったんだ。


 表情は見えるものの、肝心の衣装の部分はカナリアの体に隠れてよく見えない。


「さぁ見て頂戴」


 そう言って、カナリアはルミナの体を俺達の正面へと押し出した。体のラインに合わせ引き絞られた、スラリとした白いドレスだ。肩口から背中にかけて肌が大きく露出しており、斬新なデザインである。

 ただ、いかんせんあまりルミナに似合ってるとは言い難い。人が着れば妖艶な雰囲気を醸し出すのかも知れないが、着ている人間がルミナという点が歯止めをかけていた。


 人の身であれば、ルミナの発育は良いほうなんだが……これはサイズの問題だろうな。なんだか人形を剥いて愉しんでいる様な、なんとも居た堪れない気分になる。


「似合わないね」


 婆さんがバッサリと切って捨てた。スレイの奴も反応に困っているようだ。


「見てくださいソルトさん。あれはバチが当たったのでは」

「娼婦のような服って言われたの根に持ってたのかよ。そっとしておいてやれ」

「ううっ……」


 ルミナのやつは俯いたまま肩を落としている。泣いてるんじゃないだろうな。


「やっぱりそうよね。背中の羽を意識しすぎたのが原因かしら」

「自分でも分かってたのかよ。あんまりそいつを玩具にしないでやってくれよ、どうも思ってたより繊細みたいだから」

「いやね、これでも大真面目なのよ? 今回は失敗しちゃったけど次こそ間違いないわ。明日こそ期待して頂戴」

「明日も来いってか……まあ来れたらな。先約を優先してやりたいが、相手は権力を持ったやつなんでな」

「ええ、もちろん判ってるわ」


 その後、ルミナが着替えるのを待った後、次の行き先も決めぬまま、俺達は早々にクロッカス商会を後にした。

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