第104話 資質の影響
「ちょっとどうしたの!? なんでそんなにボロボロなの!?」
クロッカス商会にやってきて、俺達の姿を見たカナリアがまっさきに口にした言葉はそれだった。カナリアは客の案内を店員へ任せ、手ぬぐいを持ってくると俺に渡してくる。これは案にそのまま奥へ入るなってことだろう。
自分じゃわからないがそこまでボロボロにされてるのか……。作業場のある店舗の方が良いかと思い、直接店舗の方へ来たのだが、失敗だったかも知れない。
意識を周囲へ向けてみれば、他の客からも微妙に距離を取られている気がする。
いや、違う、これは婆さんを見て避けてるんだな。王都でどれだけやらかしてるんだこの婆さん。
「……ちょっとな」
俺はカナリアへと視線を戻し、短くそう答えた。
あの後、タイムが程よくぼろぼろになった辺りで、婆さんの手により俺はあっさり捕まった。捉えられた俺は、三人に見守られる中、婆さんにいびられ今に至る。
行けそうな空気だったが、そんな事はなかったらしい。
「ソルトさんは自業自得ですけど私は納得いきませんよ!?」
「先に行くってだけでここまでやられる俺だって納得できねぇよ!」
「うるさいねぇ、その歳で集団行動の一つもできないなんて恥ずかしいとは思わないのかい」
言い合う俺とタイムに、言葉の暴力が襲いかかる。一番集団行動に難のあるこの婆さんからこんな言葉を言われるなど、暴力以外の何物でもない。
「なんとなく事情は察したわ。それにしても……」
カナリアはそこで言葉を止めると、俺達の顔を見回した。
「あなた達知り合いだったのね。それともエドガーちゃんのつながりかしら」
「……半々……かな。そんな事より頼んでいたものはどうなった? もし出来ているなら引き取りたいんだが」
「ああ、あれならちゃぁんと終わってるわよ。すぐに持って来させるからちょっと待ってて頂戴、それから……」
カナリアは近くにいた店員に荷物をとってくるように指示を出した後、タイムへと視線を向ける。
手ぬぐいで体を拭いていたタイムは、その視線に怯えるように手ぬぐいで体を隠す。
「タイムちゃんにはちょっと試作品を着てみて欲しいのよね。ルミナちゃんだとちょっと時間がかかりそうだし」
「安心してください、私達の衣服は体の延長みたいなものですから一瞬で着脱可能です」
「あなた、私をあっさり巻き込みましたわね……」
どうやら元々ルミナの衣装であるらしく、カナリアはそれならとルミナへ狙いを改めた。
「つまり、普段は裸で居るのと変わらないわけだな」
「違います! あくまでもみたいであって衣服であることに間違いありませんわ。だからこそ自然体でいる時には個々の資質の影響を大きく受けるんですの」
それを聞いた俺はそれぞれの衣服を確認する。
なるほど、光の属性は一説には神の力を借り受けていると言われているから、ルミナは祭司の様な服なわけか。
それに比べて、
「お前のそれは何なんだよ」
タイムの衣服は村娘のそれである。一体何の資質の影響を受けているというのか。
「きっと記憶がないせいですから! 私が記憶を取り戻せばそりゃあもうルミナなんて目じゃありませんよ!」
「あら、あなたなんて記憶が戻ったとしても娼婦もかくやと言った衣装に決まってますわ」
「なんてことを言うんですか!?」
「あなたから先に言ったのでしょう!」
「はいはい、止め止め、カナリア、ルミナを着替えさせたいんだろ? どうぞ連れてってくれ」
俺は二人を掴み引き離すと、ルミナをカナリアへ押し付ける。
「ご主人様!?」
「あらいいの? じゃあ遠慮なく。しばらくしたらうちの子が品物を持ってくると思うから受け取っておいて頂戴」
カナリアはそう言うと、鼻歌交じりに店の奥へと消えていった。
「でもお前たちは爺が生み出したんだから、建前がどうだろうと服も爺の趣味だよな」
「……なんて事を言うんですか」
だが、タイムの方もそれを否定はしない。なるほど、こいつさては薄々気づいてたな。
自分の服を気に入ってるらしいルミナの前では言わないでおいてやろう。俺はそう心に誓うのだった。