第101話 エドガー邸の執事
案内された食堂では、長テーブルの上に、人数分の朝食が用意されていた。その傍にはこの屋敷へ来て初めて見る執事の姿がある。
「エドガーさんの方が執事服は似合いそうですよね」
その執事を見たタイムが俺の耳元で囁く。思っても言うなとは思うが、そう言いたくなる気持ちも分からないでもない。なぜだか執事は初老の男性が勤めている印象が強い。だが、ここの執事はまだ年若く、恐らくはリナリアとそう大差ない。そのせいか、エドガーと並んだ時、イメージに近いエドガーの方が執事に見える。
「まぁここまでエドガーに案内させてくらいだ。経験もそんなにないんだろう」
普通なら食事の準備があったにせよ、主人にそんなことはさせまい。
その執事は俺達に気づくと、すぐ様俺達の方へと進み出る。執事は俺達の目の前へとやってくると恭しく一礼した。
「お初にお目にかかります。私、当家の執事を務めておりますスレイと申します。どうぞお見知り置きを」
それに応え、ミントとリユゼルが自己紹介をしている。それを尻目に俺は隣に立つエドガーに声をかけた。
「あれは何だ? まだ礼儀作法のテストでもやってるのか?」
「ほう、どうしてそう思うのかね?」
「主人がいる場で、主人そっちのけで主導権取ろうとする執事は駄目だろう。それを見てお前が何も言わないのも変だ」
指導が行き渡るかどうかは別として、エドガーはその辺りには口うるさそうだ。客の前で叱りはしないだろうが、少なくとも控えさせるくらいはするだろう。
「まぁ今はそっとしておいてくれたまえ。いずれ判る」
「……こえぇよ。誰なんだよ。変なこと言って首を刎ねられたりしないだろうな」
「そんなことはないので安心したまえ」
「出来るか」
本当に誰だ、可能性が高いのはギルドマスターか? それかリナリアの縁者という可能性もあるのか?
何れにせよ関わる時は態度に気をつけよう。下手に藪を突くつもりはまったくない。
「まぁ、君の場合はもう手遅れだろうがね」
「は? どう言う――」
見ればいつの間にやらタイムの奴が尊大な態度でスレイに接していた。ちょっと目を話した隙にどうしてこうなった。
俺は即座にタイムを引き剥がし、詫びを入れる。スレイが笑みを絶やさないのが逆に怖い。
その後、案内されるまま、テーブルに並べられた朝食を口にしたが、なぜだかその味はよくわからなかった。