第100話 エドガー邸の朝
「誰もいませんね」
俺達はロビーへと顔を出したが、まだ誰も来ていないようだった。
「そもそも、ここへ集合するんですの?」
「そう言えば何も決めてなかったな」
「そうやって無計画に動くのは良くないと思いますわ」
「今のお前にそれを言う資格はねぇよ」
「……全くですよ」
いささか納得できない気持ちはあるが、ルミナの言うことはもっともだ。肝に銘じておこう。
「どうしますか? エドガーさんのところへ行ってみますか?」
「……エドガーのところか、あんまり気乗りはしねぇな」
そう言えば、あいつの部屋はどこだ? 何しろ屋敷の主なのだ。俺達と同じ使用人の部屋って事はないだろう。
豪華そうな部屋を探せば居るだろうか。
「このまま待たれた方が良いと思いますわ。屋敷を出るためにはここを通る必要があるわけですから」
「そうするか、下手に動いてすれ違いになっても仕方ないしな」
そのままロビーで待っていると、姉さんたちが揃ってやってきた。どうやらあちらは部屋を訪ねて合流したらしい。
「あれが正しい行動ですよね」
「……うるさいよ」
失敗を噛み締めている俺に対して、タイムが耳打ちしてくる。俺はそんなタイムを適当に振り払った。
「あっ、やっぱりここにいた。集合場所を決めてないんだから部屋を訪ねてくればいいのに」
「まぁソルト君らしいと言えばらしいんだけど」
ミントとリユゼルの二人が駆け寄ってくる。その後方にいるアンゼリカさんは、少し気まずそうだ。恐らく俺と同じく予定をしっかり決めていなかったことを、内心反省しているのだろう。
「迂闊でした。少し気が抜けていたのかも知れません」
アンゼリカさんが開口一番でそう言ってくる。思ったより気にしているらしい。
「いや、俺達も気をつけるべきでしたよ」
「まぁここはエドガーの屋敷なんだ。そんなに気負うこともないさね」
「まぁそれはそうかもしれないが……ん? そう言えばリナリアはどうしたんだ?」
「彼女なら今自分の家に戻っているよ。もっともここと同じ別邸だがね。彼女が王都へやってくるのに合わせて、子爵もこちらに出向いているのだよ」
俺が皆に問いかけると、そこへエドガーがやってきた。質問に答えるエドガーの声音はどこか苦々しい。
ビベッジ家の領地がどこかは知らないが、態々王都にまで来る労力はただ事ではあるまい。話には聞いていたが、本当にリナリアを大事にしているのだろう。それがエドガーにとっては頭の痛い問題なのかも知れない。
ギルドの一件でも色々後始末してたっぽいしな。まぁそれを材料に裏でいろいろ手を回したようだし、同情の余地はないが。
「良いのか? 過保護な親なんだろう? 品評会なんて出させないとか言わないのか?」
「その心配はしていないよ。子爵もクロッカス商会には借りがあるからね。子爵はそういう点では義理堅い人間だ」
「例の悪巧みか……」
エドガーは含みのある笑みを浮かべる。
そう言えば騙し討ちしたって言ってたな。もしかして子爵の頼みだったのか。
「こんな所で立ち話も何だ。朝食を用意させている。食堂へ向かうとしよう」
俺達は顔を見合わせ、案内するエドガーに従って食堂へと向かった。