冥府の理(ことわり)
【冥府の王の城 王の間】
◆セレンの語りにあわせて回想シーン
妹ルナの葬儀の様子
セレン:「13年前、ルナは死にました。太陽がなくなってからルナは見てわかるように衰弱していきました。
こんな話はそこいら中にあると思いますが、太陽の光りを受けてこそ輝ける月のように、太陽をなくしたルナは弱っていったのです」
◆回想シーン終わり
セレン:「17歳。まさに野に咲く花のように可憐で美しかったのです。太陽さえ出ていれば、太陽さえ消えなければ、ルナは死ぬことはなかったはず」
ルナ:「私が死んでから兄は魂を甦らせる秘法や冥府の研究を始めました。兄はたびたび冥府に来てくれ、語らってくれました。それはとても嬉しかったのですが」
ベルタ:「研究の途中で禁じられた学問、魔法を見つけたってことね」
ベルタの答えに頷くセレン
ヒューマ:「なんで、魔法って禁じられた学問なんだ?」
フレイ:「火の民も言ってた。禁忌の学問だって」
ベルタ:「人を狂わせる力があるのよ」
サーラ:「人を狂わせる?」
ベルタ:「私たち『司る者』は水や風の力を操ることができるわね。それを多くの人がある程度使えるようにした学問が魔法なの」
フレイ:「良いことじゃないの、それは?」
セレン:「学べばできることなので、1人で相反する力を使う人間も出てきます。
しかし考えてみてください。1人の人間が『火と水』という相反する力を操れると思いますか?」
ベルタ:「狂ってしまう人が増えたの」
サーラ:「狂ってしまう?」
ベルタ:「体内のバランスが崩れてしまうのよ。精神のバランスもね。私たちだって、ひとつの力を司るのが精一杯でしょ。相反する2つの力が正気を失わせてしまうの」
セレン:「魔法を広めたのは月の民なのですが、魔法を収束させたのも月の民。私たちが知を司るのは、そういう経緯があるのです」
ベルタ:「同時に、狂気も月の特徴なの」
セレン:「私は魔法の研究に没頭しました。自分が恐ろしく強大になっていく。学べば学ぶほど全てが可能になる。そんな気がしました」
ヒューマ:「妹さんを生きかえらせることができる。そう思ったんだ?」
セレン:「私の中で私の声がささやくのです。
『太陽ではなく、月が支配する世を創るのだ。さすればお前の妹もこの世に生還するだろう』と。私はルナに戻ってきてほしかった」
ルナ:「そのために兄は私の体を冷凍して、保管を続けて・・・」
サーラ:「遺体を保管?」
ベルタ:「氷の女王はさぞかし大変でしょうね。自然でないことをすると大変になるのは、どれも同じね」
うなだれるセレン
セレン:「私は、私はとりかえしの付かないことをしてしまった。いったい、どうすれはこの罪を償うことができるのだろう」
ヒューマ:「とりかえしの付かないことなんてないぜ」
サーラ:「そうよ。みんなで力を合わせれば、何でもできる、でしょ」
ベルタ:「罪を償うのは後にしましょう。今は私たちにできる最善のことをする、そうでしょ?」
ルナ:「兄さん、兄さんの力を正しい事に使いましょう」
フレイ:「そうです。ミラン様のお母様の魂を探しましょう」
ヒューマ:「セレン、受け取れよ」
ヒューマが投げたものを受け取るセレン
手の中にあるのは、冥府のコンパス
セレン:「これは?」
ヒューマ:「セレンが持っていた方がいいんじゃないか。迷わないためにな」
顔を上げるセレン
セレン:「その火の娘の御母堂は、いつ亡くなられたのです?」
ヒューマ:「たしか15日前だと言っていたけど・・・」
セレン:「では、まだ裁きの城にいるかもしれません」
フレイ:「裁きの城?」
セレン:「人は死ぬと生きている間の罪を裁かれます」
サーラ:「本当だったの?正しく生きないと地獄に堕ちるって?」
セレン:「どんなに清く正しく生きた聖者でも、生まれ落ちてすぐに生を奪われた赤子でも罪を裁かれます」
ヒューマ:「そんなのおかしいわ。赤ちゃんに罪なんてないよ」
セレン:「人は生まれながらにして罪を持っているのです。人は人であることが罪なのです」
サーラ:「そんなのおかしいわ!」
全員がドン引きするほど猛烈に反発するサーラ
サーラ:「生きているのが罪なんて、おかしいわ!」
セレン:「それは裁きの城にいけば解ります」
サーラ:「行きましょう!裁きの城へ」
1人外に出ようとするサーラ
ヒューマ:「おい、ちょっと待てよサーラ」
サーラの手を取り、振り向かせるサーラ
涙が今にも落ちそうに、あふれている
サーラ:「・・・・」
ヒューマ:「サーラ?」
サーラ:「私ヒューマに助けてもらって生きているの。それって罪になるのかな?せっかくヒューマが助けてくれたのに。私、生きてちゃいけないのかな」
ヒューマ:「サーラ・・・」
ヒューマの手をふりほどいて走り出すサーラ
ヒューマ:「おい、サーラ!」
後を追うヒューマ
【冥王の城 廊下】
必死に走るサーラ
涙が流されていく
ヒューマ:「サーラ!」
【冥王の城 玉の間】
セレン:「現実を直視できない・・・わかる気がします」
ルナ:「にしても、兄さん!もっと他に言い方あるでしょう」
セレン:「現実は変わらないんだルナ」
ベルタ:「あなたもそうね。今でも妹さんを亡くしたことを受け入れることができない・・・」
セレン:「誰でも現実から目を背けたくなることがあります。誰も強くはないのです」
フレイ:「ミラン、大丈夫かな。目が覚めたらお母さんが亡くなったことを知るなんて」
ベルタ:「以前、あなたに言ったことがあるでしょう。『生きることは時として死ぬ事よりもつらい時がある』って」
フレイ:「・・・」
ベルタ:「それでも命ある者は生きて行かなきゃ。命ある限りね。命ある者を支えることができるのは、命ある者だけよ」
フレイ:「支える・・・」
ベルタ:「がんばってねフレイ」
読了ありがとうございました。
まだ続きます




