黒い伝書鳩
【学園都市ロストルーン 全景】
【学園都市ロストルーン 尖塔全景】
尖塔のてっぺん付近に集まっている黒い鳩
黒い鳩をゆっくりと捕らえる手。まがまがしくも美しいつけ爪のある指。
その指には、銀無垢の「月の刻印(三日月と満月が合わさったような意匠)」が彫り込まれている指輪がある
黒い鳩の脚に「月の刻印」が彫り込まれている脚環をつける。
脚環の音:「パチリ」
鳩を放つ、法衣姿の両腕。
尖塔から飛び立ち、遠ざかる黒い伝書鳩
青い空の中に吸い込まれていく黒い伝書鳩
【丘陵地帯】
稜線に沿うように一定間隔で建てられている、動いていない風車
ジェス:「よーし、みんな集まれ」
族長ジェスの周りに集まる幾何学模様のポンチョを着た子供達
ジェス:「いいか、みんなで力を合わせて風を起こすんだぞ」
子供達を風車に向かうように一列に並ばせるジェス。
子供達の一歩前に立つ
ジェス:「永遠の旅人なる風よ」
子供達合唱:「永遠の旅人なる風よ」
ジェスと同じポージングを取る子供達
子供達合唱:「今、一時このこぶしに集まり、我に力を与えたまえ」
小さな拳を突き出す子供達
ゆるやかな風の流れが風車を揺らし、やがて一斉に回り始めた。
子供達:「ワー」
やや外れた場所で我が子の手を引いているグレイス
のどかな丘陵地帯に、のんびり回る風車。
空の向こうから無数の黒い伝書鳩が飛来する
子供達:「カラスだカラスだー」
ジェス:「カラス?」
黒い伝書鳩は、風車の羽にとまったまま、振り落とされることなく一緒に回っている。
【浜 辺】
穏やかな波が打ち寄せる、黄昏を迎えた浜辺
朽ちた船の竜骨
船の残骸の近くに座る青いドレスの女。
夕陽を受けて光り輝く波間
夕陽に染まるベルタの美しい横顔
夕陽の中から近づいてくる無数の黒い鳥の影
目を細めるベルタ
黒い伝書鳩がベルタの肩に、頭に、ひざに、足下にたむろしている。
ベルタは鳩の脚の環を見て険しい表情になる
脚環に刻まれた「月の刻印」
目をくるくるさせてベルタを見上げる伝書鳩
ベルタ:「ふふ」
鳩に手を伸ばすベルタ
ベルタ:「私たちに集まれっていうの?」
伝書鳩:「クルックー」
【ゆりかごの森 スーリヤの庭】
森の中の手入れの行き届いた小さな庭。
庭の真ん中に大木がそびえ立ち、その傍らに椅子に揺られてうとうとしているスーリヤの姿。
サーラ:「スーリヤおばさま」
手を振るサーラ
目を覚ますスーリヤ。寝ぼけ顔がパッと明るくなる。5年前にくらべて、若返った印象のスーリヤ
スーリヤ:「おや、サーラ来たのかい」
サーラ:「元気してた、おばさま」
スーリヤに飛びつくサーラ
スーリヤ:「もちろん元気さ」
サーラの抱擁を受けながら、おかっぱ頭の侍女アリアに気がつく
スーリヤ:「もう子供ができたのかい?」
きょとんとするサーラとアリア
スーリヤ:「あんたにもヒューマにもあんまり似てないじゃないかい」
きょとんとしているアリアをのぞき込むスーリヤ
アリア:「初めまして森の大賢者スーリヤ様。大地の乙女サーラ様の侍女を務めていますアリアと申します」
スーリヤ:「侍女?サーラとヒューマの子じゃないのかい?」
アリア:「????」
耳の先まで真っ赤になるサーラ
サーラ:「おばさん!」
スーリヤ:「そうよね、あんたの子供にしちゃ大きすぎるわよね。こりゃ私としたことが早とちりってことね」
【スーリヤの庭 大木の小屋】
ヒカリゴケが照明になっている、幻想的な雰囲気の部屋。テーブルにかけているサーラとアリア
アリア:「キレイ、ですね」
スーリヤ:「たくさん食べなさい」
サーラとアリアの前にスープ皿を置くスーリヤ
スーリヤ:「で、あんたは行くんでしょ当然」
サーラ:「どうして知っているんですか?」
スーリヤ:「そりゃ、一応賢者だからね」
サーラ:「やっぱりヒューマに何かあったんですね?」
スーリヤ:「ヒューマ?ヒューマがどうかしたのかい?」
サーラ:「え?ヒューマに何かあったんじゃないかと思って、これから太陽の神殿に行くんですけど」
スーリヤ:「太陽の神殿?違うよ。会議よ会議」
サーラ:「カイギ?会議ってなんです?」
スーリヤ:「何を言っているんだい。会議があるのさ。太陽から星、月、それに風から大地まで含めた、あんたたち『司る者』達が集まる会議よ」
目を丸くするサーラ。顔を見合わせるサーラとアリア
スーリヤ:「届いていないのかい、便りが?」
首を横に振るサーラ
スーリヤ:「ちょっとおいで、お前さんたち」
手を叩くスーリヤ。すると二羽の黒い伝書鳩が飛んできてスーリヤの両肩に止まる
スーリヤ:「この子達がこなかった?」
アリア:「私たちが出たあとに来たんじゃないですか?」
ヒソヒソ話をするアリアとサーラ
サーラ:「この伝書鳩が便りなんですか?」
スーリヤ:「そう。鳩が白い時は司祭とかが代表していくんだけど、黒い鳩の時は、司る者本人が出るのよ」
サーラ:「全然知らなかったわ。良かったわねスーリヤおばさまの所に来て」
スーリヤ:「おやおや」
サーラ:「おばさまの所にも来たってことは、おばさまもその会議に行くんでしょ?」
スーリヤ:「わたしゃ行かないよ。便りは毎回くるけど、一回も行ったことはないね。ユーベも行かないんじゃないのかね」
サーラ:「へえ、ユーベ女王の所まで」
アリア:「ということは、ヒューマ様もファロス様もフレア様も出席なさるんですか?」
スーリヤ:「そりゃ、当然よ。サーラ、あんたも行くのよ。義務なんだからね義務」
サーラ:「義務・・・ですか?」
スーリヤ:「なんだい?どうかしたのかい?」
サーラ:「私、何をしたらいいのか解らないんです。大地の乙女になって、太陽が昇って小麦もたくさん取れるようになって見た目に世界が平和になっていくのがわかるんです。
けど私は、大地の乙女として何かをしなきゃいけないと思っているんです。でもそれが何かが解らないんです。
こんなことアリアの前で言うべきじゃないんですけど」
アリア:「そんなことありません。サーラ様はみんなに大地とのつきあい方を広めてくださっているじゃありませんか」
サーラ:「ありがとうアリア」
スーリヤ:「平和って、今は当たり前のように思えるから、あらためてありがたみって感じないわね」
アリアを見るスーリヤ
スーリヤ:「あなたは、太陽がなかった時はほとんど覚えていないでしょう?小さくて」
アリア:「はい、大賢者さま。私はこの平和がいつまでも続くようにいつも大地に祈っています」
スーリヤ:「そう。夜になり当たり前のように太陽が昇り、収穫の季節には大地が恵みをくれる。こんな日がいつまでも続きますよう・・・」
サーラに向き直るスーリヤ
スーリヤ:「サーラ、この平和がいつまで続くのか、太陽の季節がいつまで続くのか、それは誰にも解らない。
でも、誰もが太陽がない世界なんて欲しくないのは一緒。今、あなたは世界のために何をしたらいいのか解らないのなら、その会議に出なさい」
黙って聞いているサーラ
スーリヤ:「7つの司る者が集まることなんて滅多にないからね。きっとこれから大変な事が起こる予兆なのかもしれない」
サーラ:「そんなに滅多にないんですか?」
スーリヤ:「前の時は百年以上も前かねえ。その前は五百年くらい前だったかねえ」
サーラ:「スーリヤおばさまって、いくつなの?」
読了ありがとうございました。
まだ続きます。