忍び寄る影
【港町ポート・オブ・エリア 浜辺】
沖合に停泊中のマリア・アズーラ号
ヒューマ:「あの船にいます」
マリア・アズーラ号を凝視している工場長
工場長:「あの船の上じゃないとダメなのですか?」
サーラ:「ええ、あの船の上だと彼女、落ち着くみたいなんです」
工場長:「・・・そうだろうな」
不思議そうに顔を見合わせるヒューマとサーラ
小舟に乗ってマリア・アズーラ号に近づく一行
【マリア・アズーラ号 甲板】
ピクリと何かに反応するベルタ
船員:「お頭、ヒューマ様たちがお戻りです」
答えずに近づいてくる小舟を凝視するベルタ
小舟から、マリア・アズーラ号に乗り込むヒューマたち
ヒューマ:「ベルタ、ジェス」
ジェス:「帰りが遅いぜヒューマ」
ベルタ:「お帰りヒューマ」
サーラ「アリア、元気だった?」
アリア:「乙女様こそ、ご無事で」
抱き合うサーラとアリア
工場長と対峙するベルタ
しばらく無言で対峙している
ヒューマ:「え・・あの・・・ベルタ?」
工場長:「お礼を申し上げます。私たち眷属を守っていただいて」
ベルタ:「お気になさらぬように」
サーラ:「え?知り合い・・・なの?」
ベルタ:「清流の聖女殿は火の力が悪影響を及ぼさないように、この船に引き取ってくださった」
ヒューマ:「そうなのかベルタ?」
ベルタ:「なあに、私は私にできることしかしていない。さあ、こちらへどうぞ」
船長室から飛び出してくるファロス
ヒューマ:「父さん!」
ファロス:「おお、ヒューマ戻ったか!」
ベルタ:「どうかしたんですか?ファロスさん」
ファロス:「ミランの様子が変だ。目を覚ましたんだが、見ろ」
火傷している手のひらを見せるファロス
船長室の天井を突き破り何かが出てくる
ミランの姿形をした黒い影が一行を見下ろしている
サーラ:「なに、あれは?」
工場長:「やはりバランスが」
ヒューマ:「バランス?」
工場長:「私が来たことで、火の力が大きくなってしまった。あの子は自分の力を抑えきれなくなっている」
ファロス:「それが、あの影ってことか」
フレイ:「どうすればいいんですか?」
工場長:「倒すしかあるまい」
ジェス:「ヒューマ、悪いが腕輪、返してくれねえか」
ベルタ:「私のも頼む」
ファロス:「こいつは手強そうだ」
※力を合わせて、影を退ける一行
空の向こうへと消えていく影
ジェス:「なんだありゃ?」
サーラ:「何かとてつもない、悪いことが起きている見たい」
【マリア・アズーラ号 船長室】
ベッドを中心にミランを見守る一行
工場長:「教えてくれ、君の母の名を」
ミランの手を取る工場長
2人の体が赤い光りに包まれる
赤い光りがミランから工場長に流れ込んでいるようにも見える
やがて赤い光りが消えて、手を離す工場長
フレイ:「もう、大丈夫なんですか?ミラン様は?」
工場長:「ええ、今は落ち着いています。彼女の母の名もわかりました。私も一緒に行きます」
ヒューマ:「いいんですか?」
工場長:「ここに来るまで正直言うと、我々火の民のためにこれだけの人が動いてくれているとは思いませんでした。これで私たちが動かなければ申し訳が立ちません」
ミランの額に手を当てる工場長
工場長:「この娘はかわいそうではある。同時に愚かであるとは思う。だが、この娘のためにこれだけ身を挺してくれる人がいる。同じ火の民としてお礼を言います」
突然、崩れ落ちるベルタ
ジェス:「ベルタ?」
駆け寄るジェス
ジェス:「うわ!」
肌に触れると、恐ろしく体温が高い
工場長:「私だけ先に陸地に戻してもらえますか。火の力が強すぎる。これ以上、流水の聖女に負担はかけられない」
ヘクトールだけ先に船を離れる
よろけながら起き上がるベルタ
ベルタ:「ありがとうジェス」
額は汗がびっしり
ジェス:「なんだよ、とんでもないことになってんじゃねえか」
ベルタ:「ミランの力はすごいのね。彼女の力を平和に役立てられたら、どれだけ素敵なのかしら」
ファロス:「ヒューマ、引き続き任せたぞ。早くしないと私の手がいくらあってもふやけてしまう」
力強くうなずくヒューマ
ヒューマ:「行こう、サーラ、フレイ」
フレイ:「あの、ミラン様を見舞ってもよろしいでしょうか」
顔を見合わせるファロスとベルタ、それにジェス
ファロス:「もちろんだ。君も彼女を助けてやってくれ」
ツカツカとミランに近寄るフレイ
グローブを外して跪くとミランの手を取ろうとする
ファロス:「おい、それは」
ミランの手を取り、熱さに顔をしかめるフレイ
それでも手を取り続けるフレイ
フレイ:「いつか、あなたの力が正しいことに使うことができる日がきっと来ます。それまで私があなたをお守りします」
フレイはミランの手の甲に口づけをした
一同グッとくる
ミランの手をそっと戻すフレイ
フレイ:「お待たせしました。行きましょう」
立ち上がるフレイ
ヒューマ:「ベルタちょっと聞きたいことがあるんだ。オレとサーラが乗った連絡船が聖都スクードに着くまでに7日かかったんだ」
ベルタ:「7日も?」
フレイ:「後から船に乗った私の方が先に到着したんです」
サーラ:「それに、怪物にも襲われたし」
ベルタ:「怪物って?」
ヒューマ:「デビルなんとかっていう、イボイボがある長い手がいっぱいあって」
考え込むベルタ
今まで見たこともないベルタの難しい表情に、顔を見合わせるヒューマとサーラ
ヒューマ:「いや、いいんだベルタ。無事だったし」
サーラ:「そう、気にしないで。フレイは何にもなかったんだし、偶然ってこともあるじゃない」
ベルタ:「ヒューマ」
ヒューマ:「えっ何?ベルタ」
ベルタ:「あまり確定的ではないことを言うのは私は嫌いなんだけど、月の光には気をつけて」
ヒューマ:「月の光?」
【港町ポート・オブ・エリア 沖合】
ヒューマとサーラ、フレイを乗せた船がマリア・アズーラ号を離れる
【マリア・アズーラ号 船長室】
ミランの顔をのぞき込むファロス
ファロス:「どうやらフレイの見舞いが一番効果があったみたいだぞ」
ミランの寝顔は、今までになく穏やかだった。
読了ありがとうございました。
まだ続きます