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冥の花嫁がみる夢は  作者: ゆうひかんな


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そして幕は上がった

人を貶めるような表現があります。

また暴力的な表現もありますので、苦手な方や不快な方はご注意ください。


「全てを奪われる感想はいかが?」


 耳元に顔を寄せた少女が、無邪気な声色で囁く。彼女の髪に飾られた髪飾りが音もなく揺れ、光を失った扇子が彼女の帯の間に挟まれている。体の痛みと、心を引き裂かれるような悲しみで意識が遠くなった。

 神兵に傷口を叩かれ、激しい痛みにより無理矢理意識が引き戻される。


「『身分には義務が伴う』なんて台詞、説教臭いし無粋だわ。だけどこういうカビの生えたような台詞が好きな人達も一定数いるのよね。だから私が有効に活用してあげる」


 いつ終わるとも知れない、痛みと苦しみの連鎖。ここは現世のはずなのに、まるで冥府にあるという煉獄で終わりなき罰を繰り返すかのようだった。


「あなたには選択肢をあげましょう。こうみえて私は優しいのよ」


 彼女はどこか歪な笑みを浮かべる。そして凛と響く声を張り上げた。


「陽の神様は慈悲深い方です。どれほど罪深い者であっても、救いがあるよう望まれる方なのです。ですから、貴女には陽の神の名の下に罪を濯ぐ機会を与えましょう」


 神官の手により目の前に差し出される杯。端の欠けた白い杯が、まるで骨の欠片のように見えた。そのせいか、中身の液体になぜか不吉な予感がする。


「その杯を自らの手で飲み干しなさい」


 たったそれだけ?のどの渇きと苦痛に思考が鈍っているせいか、すぐに飲み干してしまおうと思った。

ゆっくりと伸ばした手が、はたと止まる。透明な液体の底に、仄かに白い何かが沈んでいた。もしかして薬が……?


『ひとつだけ約束して欲しい』

『なんでしょうか?』

『何があろうとも、自ら命を断つことだけは止めてほしい。それは約定を破棄したのと同じことだから、せっかく私と繋がれた縁が切れてしまう』


 まさか毒が、この中に⁉︎

 

 恐怖から、一気に思考が鮮明となる。毒杯を自ら飲めば、自ら死を望んだと同じ。カタカタと身を震わせながらも、出ない声の代わりに首を振り必死に拒む。陽の巫女様は一瞬表情を歪めると取り繕うように一段と声を張り上げた。


「なぜ拒むのです? それは陽の神の神殿に湧く水。死は免れぬとしても苦しむことなく心安らかに逝けるよう、あなたのために用意したものだというのに!」


 あなたのためですって、笑わせる。


 なんと慈悲深い……彼女の愛に満ちた言葉に人々の感嘆する声が次々とあがった。一方で、上辺だけの彼女の優しさは私に違う角度で刺さった。

 家族と同じように毒を使って私の命を奪う。一見、不自然ではないが、彼女は私と主様を繋ぐものである手の印を潰すよう指示している。さらにこの場において、自死を勧めるということは……まさか!


 彼女は、私が自ら死を選ぶことで主様との縁が切れることを情報として知っているのではないか。

 つまり私の魂を、どうしても主様の元へ行かせたくないのだ。


 どこまでも卑劣で姑息な手を使う!湧き上がる嫌悪感から毒の入った杯を手で跳ね飛ばした。杯が真っ二つに割れ、中身が彼女の衣の裾に染みた。不快とばかりに彼女が眉を顰める。


「愚か者めっ、不敬であるぞ!」


 人々から怒号が飛び交う。神兵が槍の柄で強く叩くけれど、もはや痛みすら感じなかった。痛みを上回るのは、怒り。怒りは黒く濁った怨みとなり、私の身と心を浸食する。


「巫女の善意を拒むとは! なんという邪悪な存在ぞ……我が自ら成敗してくれる!」


 怒りに震えながら帝が立ち上がると、侍従に自らの刀を寄越すよう指示した。鞘から抜かれ、陽に煌めいた刀身に私はむしろ安堵する。これでいい。こうして死ぬことこそ、本望。


「いけません、御身が穢れます!」


 だが身を投げ出すようにして懇願した陽の巫女を騙る女に、帝は踏み出した足を止めたのだ。さぞかし慈悲深く献身的な女性と目に映ったのだろう。帝は労るような言葉を掛け、私を一睨みして座へと戻る。彼女は体勢を整え、再び偽りの言葉を投げつける。


「この者は、もう人ではありません。おそらくは……神渡りの闇に喰われたのでしょう。これほど穢に侵されては、我々人の力では彼女を滅することはできません」

「ではどうするのだ、陽の巫女よ」

「こうなっては仕方ありません、陽の神のお力をお借りいたしましょう。……神官長、例のものをこちらへ」


 何が起こるのか。

さざめく人々の間を神官長が通り抜ける。彼が手に恭しく掲げた三方(さんぽう)には小鎚が一つ乗せられていた。白と赤の飾り紐が結ばれただけの銀の小鎚は、彼女の手の中で不思議な存在感を放つ。


「この小鎚は、神宝の一つ。陽の神様がかつての陽の巫女に与えたと伝えられています」


 彼女は満足そうな表情で手の中にある神宝を見つめる。ようやくここまでたどり着いたという安堵が、彼女の顔を甘く蕩けさせた。意図せずとも醸し出される艶と気品にあてられた人々が、ほうとため息をつく。


「これは重罪を犯した悪しき魂を砕くとされる小鎚です。砕かれた魂は陽の巫女により更正不可能と判断されたとして、輪廻の輪から外れます。そしてこの小鎚で砕かれ消滅した魂は二度とこの世によみがえることはありません」


 なんとそんなこともできるのかと、さすが陽の神様と威光を讃える人々の声がする。その声が震える私の身には限りなく遠く聞こえていた。


 だって、それは、それでは……! 私にだけ見える角度で、心底喜ばしいと彼女は口角を上げた。


「一度砕かれてしまえば、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 つまり、魂の消滅。私にとって、それ以上に残酷な仕打ちがあるだろうか?

 真っ黒い絶望が、身を焦がしていく。


 それと同時に私の気付かないところで彼女の言葉は人々の熱狂を冷ましていた。


 高位貴族ほど、罪なき罪を簡単に作り出せることを知っている。確たる証拠など、権力の前には無いものと同じだ。彼らだって宵宮であった女が犯したという罪が状況的に無理なことくらい気がついている。それでも先ほどまでは他人事であったし、深く追求するのも面倒だからと受け流していたのだ。

 だがこの小鎚があることで、別の意味で彼らは震え上がった。神殿の意向に逆らうことはできなくなったのだ。もし神殿に逆らって、陽の巫女に選ばれた者の意向に逆い悪しき者と断じられれば……この女と同じ様に、罪を擦りつけられて、この小鎚で魂を砕かれるかもしれない。

 しかも冥府にたどり着くことすらできないから、冥府の主にも冤罪だと知らせることもできない。なんという恐ろしい神宝()を神殿は隠し持っていたのか!


 やはりこの女は実験台、最初の犠牲として選ばれた。無残な死に様を見せつけ、人々が逆らうことのないようにするための生け贄だ。陽の巫女の親である宰相は追いつめられていく犠牲者を、ただ静かに見つめている。彼にとって邪魔な存在は、道端にある石ころ程度の価値しかない。どこまでも冷ややかな彼の表情から貴族達はそれを悟った。


「……!、……!」


 いや、いやよ! 私は出ない声を必死に振り絞る。取り乱した私を嬉しそうな表情で眺めていた女は身を屈め、耳元に甘い声で囁いた。


「言ったでしょう、全てを奪うって。当然、主様になんて会わせるわけがないじゃないの」


 おまえが大切だと思うものは、全て穢らわしい。


 そう囁いて立ち上がった彼女は早速、小鎚を振りかぶった。人々は固唾を飲んで成り行きを見守る。逃げなくてはと思うも、神兵が強く押さえているため身動きすらできない。絶望に、目の前が真っ暗になる。


 笑みを浮かべた彼女が小鎚を振り下ろそうとした、そのとき。


 神兵を弾き飛ばし、私を庇うように立ち塞がるものがあった。威嚇するように、ふさりと揺れる九つの尻尾。黒々とした毛並みに、炯々と光らせる赤い眼。


「出口を封じられたのを、ようやく破って出て参りました。遅くなりまして申し訳ありません」


 花影! 場違いにも無事でよかったと安堵する。だが花影は、どこか苦しいようで身を捩った。よく見れば身体から湯気のような黒い気体が立ち昇り、毛並みが艶を失っていくのがわかる。

 ……なんてこと、もしかして力を奪われている? 太陽の下であるせいか、それとも小鎚の力のせいか。どちらにしても彼女にとっては厳しい状態であることに間違いない。


「お助けしたいのですが、満足に力の使えないこの状況では時間稼ぎにしかなりません」


 花影は苦しそうに息を吐くと、神兵達に牙をむく。そして身に纏わせた狐火が陽炎のように彼らを翻弄する。だが優勢であっても、力が蝕まれれば次第に彼女の力は弱くなり、息遣いも荒くなる。


「……いいですか花嫁様、気をしっかりお持ちくださいね。何があっても、決して諦めませんように!」


 そう言い置いて、力尽きたようによろめく花影の体を一本の槍が貫いた。声にならない悲鳴を上げる。


『どうか主様の隣では、いつまでも笑っていてくださいませ』


 身代わりで刺されたのに、花影が私に向ける視線は優しい。他人にも己にも厳しい、だからこそ気高く美しい人。その彼女の身体が、まるで豪奢な花が散るように砕ける。


 ああ、花影まで……!唯一味方となる存在まで奪われてしまった。


「こんな魔物まで使役するなんて、やはり人ではないという証ですわ!」


 どこか誇らしげに叫ぶ女の声がする。何も知らずに、ただ他人を貶めて喜ぶような陰湿さが不快だった。


 どうして、どうして。私はこんなにも無力なのか。これでは宵宮に選ばれた価値もない。

 お嬢様と約束したじゃない、次に生まれ変わったときは共に戦うと。力を欲する私の身体に、新たな()()が生まれた。


「……い」

「えっ? なぜ声が……?」


 私の異変に真っ先に気付いたのは陽の巫女を騙る女、続いて神官長、それから神兵達。とまどいが伝播する。潰されたはずの喉から、ようやく声が生まれた。


「おまえ達を許さない!」


 突然叫んだ私に、場が騒然となる。側で真っ青な表情で立ち竦む女と、神殿の者達。それもそうだろう、薬で喉を焼き、声を奪ったはずなのに今こうして叫んでいるのだから。


「誰でもいい、私に力をちょうだい!」

「なっ!」


 なぜ声が出るようになったのか。それはわからないけれど、肉体が違う何かに作り変わっていくような感覚には気ついた。


 パキリ……メリメリ。間を置かずに身体の至る所から鈍い音がする。怪我をした箇所とは別に、骨と筋肉の激しい痛みが身を苛む。


「くっ……、アアアアアアアアア!!!」


 先程までの非ではない痛みに絶叫した。朦朧とする意識の中、さらに私の容姿までもが変わっていく。


 パキン、額の皮膚が割れるような音がした。


「うわ、なんだあれは!」

「きゃあーー! あれは本物、なんて気持ち悪い!」


 鬼だ、鬼が現れた。そう叫ぶ人々の悲鳴と逃げようとする者達の焦りが、さらなる混乱を招いている。

 観客であったはずが巻き込まれたと、人々は狼狽えて阿鼻叫喚渦巻く修羅場となった。


「あのような鬼を滅するために陽の巫女がおるのだ、皆、静粛に!」

「大丈夫、私がおりますわ! 父の指示に従ってくださいませ!」


 陽の巫女を騙る女の叫びと宰相の怒鳴り声によって、混乱はどうにか沈静化される。それを私は怒りをまき散らしながら眺めていた。


 あのような、鬼と?

 それが誰のことかと見渡せば、皆の怯えたような視線が突き刺さる。


 ふと、視線を下に向けると荒い息を整える私の姿が近くに置かれた水盆に映っていた。揺れる水面が映すのは、額に二本の角が生え、口元に鋭い牙を蓄えた女。そして白目がなく、真っ黒に濁る瞳。

 唐突に理解した。ああ、これは私だ。私が鬼になったのだ。


 伝承にある名を呼べば、羅刹女(らせつにょ)と。修羅場のような今の状況に相応しい鬼の姿をした自分だった。私は、牙の剥き出した口角を上げる。醜いはずの牙も、額から不気味に生える角も……存外に美しく見えた。そして怒りを纏う硬質な雰囲気が、どことなく主様に似ている気がして微笑んだ。


 陽光に力を苛まれながら、漫然と死ぬものかと思った。


 ゆらりと立ち上がると、我に返った人々が悲鳴をあげて私と距離を取った。目の前に神殿の兵士が立ち塞がる。


「陽の巫女様。目覚めたばかりの魔物は、力が上手く使えぬと聞きます。今が絶好の機会です。神兵よ、命に代えてもかの魔物の身体を抑えよ!」

「ああ、魂を砕かねばならないからその前に殺さないよう気をつけてちょうだい」


 神官長の命により神兵が動き出す。彼の傍らでは血生臭いことを平気で口にした女が、嬉々として小鎚を掴み直した。たしかに力を得たけれど、私にはこの力が何かわからないままだ。しかも陽光に焼かれ蝕まれて、力は奪われていく一方。肉体も元は普通の女であり、身体に負った無数の傷は癒えていない。


 抵抗むなしく取り押さえられるまでに、さして時間は掛からなかった。取り押された私の身体には複数の槍が突き刺さり、地面へと縫いつけられる。大量の血が失われ、同時に意識が遠のいていった。


「醜いわね。こんな醜い生き物は見たこともない!」


 何がうれしいのか、女の甲高い笑い声がする。神渡りが始まる前の陽の巫女様と呼ばれていたころの面影が、今の彼女には残っていない。血の匂いに惑わされ、場の異様な空気に狂わされたようだ。


 あなただって、十分醜いわよ?


 周囲も微妙に距離をとっている。疲れ果て、出ない声の変わりに心がそう叫んだ。それでも思わず涙がこぼれた。面を伏せて地中深くにいる主様へ思いが届くよう、地に向かって言葉を紡ぐ。

 こんなに苦しまなくてはならないのは、死ねばあなたに会えるからと安易に死を受け入れようとした罰でしょうか。それとも家族すら巻き込んだ私の願いは、一時の安寧すら許されないほどに罪深いものだったのでしょうか。血が混じり、赤い涙が頬を伝う。


 主様、私の夢はたったひとつしかありませんでした。


 ただ、あなたのそばに。


 永遠とも思えるような長い時間を孤独に生きてきたあなたを、隣で支えたかった。そんなささやかとも思える願いすら、今の私には遠い。無邪気に、陽の巫女を騙る女が言葉でなじる。


「そうだわ。魂を砕いたあと、この醜い生き物の肉体を城壁に晒しましょう。今回の顛末を平民共にも広く知らしめるのです。文字の読めない者のため、亡骸の側に神兵を立たせて『偽って宵宮になった平民の娘が天罰を受けて鬼になった』と説明させればいいわ。そうすれば平民達は娘を鬼にさせたくないからと選ばれても辞退するでしょう。それだけでなく、神渡りの仕組み自体に反対するのではなくて?」

「それはいい考えですね」

「神官長も宵宮が愚かな平民だったせいで、ずいぶんと苦労されたでしょう? 貴族の血だけが鬼となることを防ぐとすれば、貴族の家から宵宮を選び直すことに異議を唱える者もいないのではないかしら?」


 その場合、宵宮に選ばれるという名誉が欲しい貴族家は神殿に積極的に寄附するだろう。神殿も潤い、国庫の負担も減るというもの。


 神渡りを、貴族が貴族のために執り行う。()()不幸にならない良い考えだ。


 その場にいた貴族は皆、そう思った。今までの神渡りは神託に縛られてきたけれど、これからはもっと自由にやれる。思いどおりの反応が得られて、女はほくそ笑んだ。……今後神渡りをどうするかについては、宰相である父にも思惑があるようだし摺り合わせは必要ね。陽の巫女である彼女の思考は目の前の醜い存在を通り越して、すでにその先の未来を見据えていた。


 自身の思い描く、輝かしい未来を。


 そのためには、この場を上手く収めないといけない。きっちりと陽の巫女としての仮面を被り直して、彼女は淑やかに微笑んだ。


「それでは羅刹女となったこの者の魂を砕いて、全てを終わりにしましょう」


 女は今にも息絶えそうな醜い生き物の頭上で小鎚を振りかぶった。これで自分の栄達を阻むものは何もない。銀の小鎚が、陽光を受けて煌めく。彼女は変わることなく降り注ぐ陽光が、彼女を本当の陽の巫女だと……正義であると認めたように思えた。双面様の言うとおり、間違いなくこの世に神はいなかったわ。だけど私を陽の巫女にしてくれるなら、陽の神がひっそりと存在することくらいは許せる。


 私の役にたたぬ道具(神様)はいらないもの。彼女は神に見捨てられたような醜い生き物に微笑んだ。


「二度と会うことはないけれど安心してね? あなた代わりは私が務めましょう。あの方だって、それを望まれるはず」


 上手いことおだてて双面様に取り入ったようだが全てを失ったこの女に価値はない。魂を砕いてしまえば、全てが無にかえり、彼女の全ては私のものになるのだから。陽の巫女を騙る女が熱に浮かされたように語るのを、私はぼんやりとした意識の中で聞いていた。この女もそうだし、あの顔が二つある男もそうだ。


 相変わらず何を言っているのかわからない。


 彼らは高いところから見下ろして、独り善がりの正義を振りかざす。何も知らずに巻き込まれた側は迷惑極まりないわ。だけど諦めるわけにはいかない。主様の隣で、笑って……槍が深く刺さり、地に縫い付けられたまま力の入らない身体をわずかに起こす。


「へえ、まだ動けるの…⁉︎」


 驚きでわずかに見開いた彼女の目を真っ直ぐに見つめ返した。


「私は諦めません。……っ、主様の願いを叶えるまでは!」


 この選択が吉とでるのか、凶なのかわからない。だけど巫女は()()ことで力を得る存在。そして助力を乞うなら、ためらってはいけない。


 私は、冥の花嫁。


 助力を乞うなら誰かではだめなのだ。相手は一人しかいない。精一杯の声で、私は叫んだ


「主様、助けてください!」


 シャラリ、シャラリ。悲痛な叫びに反応するかのように、白い花の髪飾りが淡く輝き、音を立てた。その姿は喜びに身を踊らせるかのようで、髪飾りを挿す女はたちまち不機嫌な表情を浮かべる。


ためらうことなく小鎚を振り上げると……一気に振り下ろした。




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