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シェフ:Lika様その3

誕生日でいただいたSSですー!

Lika様とのコラボ作品『犬好きな俺と犬を飼ってる如月さん』の番外編その3です!


さあ、モフモフに癒されておしまい!

如月さんは悩んでいる。

 そう、何を隠そう私は悩んでいる。何を悩んでいると言えば、最近ポテチ(小さい方の柴犬)のイタズラが日に日にエスカレートしているからだ。


 一昨日は私のお気に入りのグラスを割られ、昨日は私のお気に入りのワインをぶちまけられ、そして今日は私のお気に入りの酒のツマミ(ホッケ)を床にベチャっと落とされた。


 正直、ワンコなんだからそのくらい仕方ないとは思う。しかしこうも私の酒関連を執拗にかき回されると、流石にストレスが溜まってきてしまう。


 そのストレスの捌け口になっているのがピスタチオだ。私はピスタチオを水攻め(お風呂)にしたあげく、そのモフモフなお腹に顔を埋めて鼻息を荒げるという暴挙に出た。


 今現在、ピスタチオはカーテンに隠れて冷たい目線を私に向けている。どうしよう、流石に鼻息が荒すぎただろうか。

 

 っく、こうなってしまったのも、ポテチのイタズラが少々、度が過ぎるからだ。

 私の酒関連の物を執拗に狙うとは、なんという罪深さ。このワンコにしつけという物を慣行すべきかもしれない。


「とは言った物の……まだ本当に子供ワンコだしな」


 まさか叱りつけるわけにも……叱りつけた所で治るかどうかも分からないし。

 神無月君に相談してみようか。いや、しかし……


『イタズラっ子めぇー! お仕置きにモフモフの刑だー!』


 いかん、ピスタチオと同じ運命しか見えない。

 

 ならば最近、このマンションで柴犬を飼い始めた彼に相談してみようか。

 ミルという名の柴犬ワンコを飼い始めた彼も、同じような境遇に居るかもしれない。何かしらの相談なら……


『あぁー! ポテチちゃん! イタズラしちゃったんだね! さあ、お仕置きだよ、首筋の匂いを嗅がせなさいー!』


 駄目だ、私のポテチの貞操の危機だ。何故私の周りには犬にセクハラする輩しかいないんだ。私が人の事言えないけども。


「わんっ!」


 むむ、ポテチが私のズボンの裾をカミカミしながら引っ張ってくる。

 なんだ、イタズラっ子め。次は何をしでかすつもりだ。


「クゥーン……」


 っぐ! なんだ、その目は!

 上目遣いで首を傾げおって! 何処で覚えた、そんなテクニック!

 

 まあ待て、落ち着け私。こんな時はお気に入りのBL本でも読んで心を落ち着かせ……


「……あ」


 その時、私のお気に入りBL棚が収納されているクローゼットが、かすかに開いている事に気が付いた。

 まさかと思いつつ開いてみると……そこには棚から落ちた一冊のBL本が、ヨダレと毛まみれという残酷すぎる惨状に。


 その時、私の中で何かが崩れた。いや、新たに築かれたと言ってもいい。

 

 子犬だからと容赦するな、もう一人の私がそう呟いたのだ。


「ックックック……やりおったな小僧。もう容赦しませんことよ。お前のヨダレは……何色だぁー!」






 ※






 そんなこんなでやってきました。ブリーダーの元へ。

 ここは高山の、とある牧場。牛やひつじ、ヤギにアルパカ……そしてミニチュアホースみたいな動物が放し飼いにされている。


 ふふ、空気が美味しいぜ。山々も非常に綺麗だ。思わず叫んでしまいたくなるほどに。


「よし……じゃあ行くか、イタズラわんこ共」


 私は違うだろ、というピスタチオの冷たい視線を感じつつ、ゲージを二つ抱える。

 ピスタチオは最近お姉さん意識が芽生えたのか、落ち着いている。それに対して弟分のポテチはゲージの中でも元気いっぱい。さっきからガッシャガッシャと毛布を齧りながら前転したりして遊びまくっている。


 

 そして何故私が高山の牧場にブリーダーを求めてやってきたのか。

 簡単に言えば会社の伝手だ。主にペットショップの管理を任されている私は、犬の躾がしたいと言う事でブリーダーを紹介してもらったのだ。


「おぉ……凄いメーメー言ってる……人間の声に聞こえるな……」


 ヤギがエサを求めて鳴いているのを後目に、目的の建物へと歩く私。

 昨日雨が降ったのか、地面は少し緩い。


「こんにちはー」


 私はブリーダーが常駐する建物へと入ると声を荒げる。いや、荒げてはいないが、動物達の声で自分の声がかき消されそうで思わず声が大きめになってしまった。


 木造の、山の中の別荘のような建物。そこには受付やらお土産屋さんやらがあり、私の声に反応したおばちゃんが対応してくれる。


「いらっしゃい。あぁ、電話で言ってた……宇宙人エックスさん?」


「違います。如月です」


「あぁ、ヴェラキラプトルの躾をしたいって子ね」


「違います。柴犬ワンコです」


「柴犬は狼に一番近い犬種って言われてるけど……貴方はどう思う?」


「可愛いからOK」


 そんなやりとりをしながら、柴犬の躾に来た! とアピール。すると奥からお姉さんが出てきた。ジャージ姿の長身の……髪を赤く染めた美人。首には犬笛らしきものを掛け、傍らには可愛らしいミニチュアダックスフンドが。


「如月さん? いらっしゃいー」


「ぁ、本日はよろしくお願いします」


「とりあえず、ザ・デストロイヤーランドの方へ行きましょうか」


 ……なんて?

 いや、私はそんなエキセントリックな体験をしにきたわけじゃ……


「大丈夫大丈夫、デストロイヤー怖くない!」




 ※




 ザ・デストロイヤーランド。平たく言えば犬舎だった。

 そこには芝生や犬用の遊具があり、今も元気に犬たちが駆けまわって……無かった。

 なんか連勤続きのサラリーマンの如く、犬達は疲れ切った顔で芝生で寝転がっている。


「昨日、小学生の団体が来てね……あらかた撫でまわされて疲れ切ってるのよ」


「成程……そんな時になんかすみません」


「大丈夫大丈夫。私も今日はフリーだから」


 あぁっ、フリーってことは年休使いたい放題の日ってことじゃない?!

 そんな日に予約を入れてしまうとは……!


「じゃあワンちゃんをゲージから解き放って。ぁ、柵の中でね」


「はい」


 私は柵の中へと入りつつ、ピスタチオから解放。するとピスタチオはゆっくりとゲージから出て……空を見上げた。まるで数年ぶりに城から解放されたお姫様のように……。いや、散歩には毎日連れてってる。


 そして次にポテチ。こいつは注意せねば……解放した途端に駆け出すに決まってる。


「ポテチ、落ち着けよー。いきなり走るなよ」


「ゥー……キャン!」


 はよ! と急かしてくるポテチ。私はゲージをゆっくりと解放する。

 そして案の定、ポテチはホワイトベースから飛び出すガン〇ムのように発進。


「ちょっ! 待て言うとるやろ!」


「キャンキャンッ!」


 しかしまあ……非常に楽しそうだ。こんな広い芝生を自由に走らせる事なんて無かったからな。


「あの子が問題のワンコなんですが……ちょっと落ち着くように躾をしてほしいんです」


「ふむぅ。元気いっぱいだね。まあ、しばらく様子見ましょう。他の犬達と交流するのも、いい社会勉強になると思うよ」


 社会勉強か……。




 《ここからはポテチ視点でお楽しみください》



 わふー! なんだか広い芝生に開放された僕。

 思い切り走っても如月さんに怒られる事は無く、壁に激突するような事も無い!


 なんてすばらしい! あぁ、僕ずっとここに住みたい……。


「あら、可愛い子が来たわ」


 むむ? なにやつ……ってー! デカっ!


 目の前には大型犬! なんだっけ、この犬種……。


「あらあら、挨拶はどうしたのかしら。まず犬前に立ったら挨拶しなさいって教えられてないのかしら?」

 

 犬前……


「こ、こんにちは……」


「まあ上出来よ。最低限の教育は受けてるようね」


「僕はポテチといいます。可愛い柴犬の子犬ワンコです。ところで貴方はゴリラですか?」


「前言撤回。何よ、ゴリラって。私は……サドエモンのランよ!」


 サドエモン! 白いモッフモフの大型犬!

 凄い、毛に埋もれてしまいそうだ。


「ランさんはここで何してるの?」


「主に人間の子供と遊ぶ仕事よ。その他にもあんたみたいな子犬を育てる事もしてるわ」


「ふむぅ、でも僕のお母さんは……あっちの人なんで」


「あぁ、あの死んだ魚の目してるポニーテールの女? ちゃんとご飯食べてるのかしら」


「昨日はビールとコンビニで買ったホッケ食べてました」


「駄目ね。ポテチはちゃんとご飯貰ってるの?」


「昨日のご飯は……ササミ入り、野菜たっぷりコンソメ風ドックスープでした」


「ギャップが激しいわね。飼い主が不健康すぎるわ。そんなんじゃ……満足にワンコ・ワールドを楽しめないわ!」


 ワンコ・ワールド……


「良い機会だから色々と教えてあげる。まずは……飼い主に遊んでもらう方法よ」


「ふむふむ。でも僕、ちゃんと遊んでもらってますよ。昨日もホッケを床に落したらワシャワシャされたし」


「……アンタがここに連れてこられた理由が分かったわ。聞きなさい、あの手の人間の食べ物に手を出しちゃ駄目よ。ビールのつまみは、一部の人間にとっては五つ星レストランの料理に見えるくらい尊いのよ」


 ふむぅ。つまり……あのホッケはそんなに美味しい物だったのか……。僕は骨が多いからあんまり食べたくないけども。


「いい? まず……なんでアンタは飼われたのかを考えなさい」


「何故……前の飼い主に育てられないって言われて砂浜に捨てられて……そこを如月さんに拾ってもらいました」


「あんた何してんの! そんな人のホッケを床に落とすなんて、神をも恐れぬ行為よ!」


「フフゥ、それほどでも」


「誉めてないわ! 滅茶苦茶罰当たりだわ! もっと飼い主を大事にしなさい! でないと……また捨てられるわよ」


「ひぃ! そんなのヤダ!」


「だったら、あのストレスで死にそうな顔してる飼い主の事も考えてあげなさい。今後は酒のツマミに手を出しちゃ駄目よ。ガン〇ムのプラモを棚から落とす程度にしなさい」


 人によってはそっちの方が激怒しそうだけども……


「そうね、まずは……甘噛みから覚えるべきだわ」


「あまがみ?」


「そう、人間は……あまがみされると鼻血を垂らして喜ぶ生き物よ」


 それって神無月さんの事?


「ほら、私の手を噛んでみなさい」


「ふむ……がぶ」


「痛い! 牙が食い込んでるわ!」


 えぇ、噛めっていったくせに。


「もっと優しく! 牙が触れるか触れないか程度で……カプっとやるのよ!」


「こう……? かぷ」


「まだちょっと牙が立ってるわ。前歯はさけて、もう少し奥の方で噛むようにしなさい」


「うー……でもなんか……」


 毛がむずむず……鼻に……


「は、ハクショアー!」


「ぎゃぁぁぁ! 盛大にヨダレを飛ばさないで! 私の毛がペシャってなるじゃない」


「だって毛が鼻に入ったんだもの。仕方ないわ」


「私の口調が移ってるわよ。ほら、言われた通りにやりなさい」


 前歯はさけて……かぷ


「イイ感じよ。それで何度かカミカミしなさい。優しくね」


「むん……こう?」


「よしよし、じゃあそれを早速実践してきなさい」


 よし、ならば行こう。

 如月さーん!


 如月さんの元へと走る僕。

 するとピスタチオ姉ちゃんが意味深な目を僕に向けてきた。


「むむ、ピスタチオの姉さんよ。どうしたの?」


「……眠い」


 なんか、如月さんの性格移ってない? 大丈夫?


「はー……私は昼寝するから。あんたは頑張って如月さんのご機嫌取りなさい。普段から迷惑かけてるんだから」


「大丈夫。今早速テクニックを教わったところさあ! 如月さん、如月さん! 手出して!」


 ハッ、ハッ、と如月さんのズボンにしがみ付いて手を出すよう催促する僕。

 すると如月さんは……


「どうした? ポテチ……あぁ、成程」


 なんと僕の気持ちが伝わったのか?

 って、なんか懐からボロボロの漫画本を……あれ、それって昨日僕が遊んだ……


「ポテチよ。この本は私の推しメンがラブラブになる神回が収録された聖書。しかし君はこれをヨダレまみれにした。この罪は重い。分かるな?」

 

 え、何この展開。


「つまり……君は示さねばならない。さあ、私が尊いと叫ぶようなシチュエーションを見せてみるがいい!」


 やばい、如月さんの言ってる事がいまいちよく分からない。

 まず尊いって何?


 ピスタチオ姉ちゃん知ってる?


「尊いっていうのは……萌えの進化系みたいな言葉よ。要は心にグっとくるシチュエーションね」


「それはどうすればいいの?」


「そんなの自分で考えなさい。私は寝るから……ふぁ……」


 あぁ、もう、そんな大きなあくびして……


「あああああ! ピスタチオ、おおきなあくび! 尊いわぁ!」


 なにぃ! こんなんでいいの?!

 それなら僕だって……おおきなあくびを!


「ん? どうしたポテチ。そんな口を大きく開けて。虫歯か?」


 何で?! 

 違うの! あくびしたの! 如月さん分かってない!


 うわーん! なんか知らないけどピスタ姉に負けた!

 助けてランさん!


 再びランさんの元へ駆ける僕。

 そのままランさんの背中に飛び乗り……ランさんの頭の上に顎のせ。


「ランさんランさん、聞いて聞いて! 如月さん酷いの!」


「あんた、それが人に話を聞いてもらう態度? 人(犬)の頭に顎のせとか……」


「だって、だってぇ……」


 ん……なんかムッチャきもちぃ……

 このモフモフ感……あったかくて、毛布よりも……


「Zzz……」


「って、人の頭の上で寝るな子犬! あんたの飼い主来たわよ!」


「んがっ、きもちよくてつい……って、あれ、なんか如月さんの鼻息が……」


 なんか凄い怖い顔して……スマホ構えてる。


「あ、あぁぁぁあ、尊い……ポテチ、ほら、もっとサドエモンお姉ちゃんに甘えて! もっふもふしなさい!」



 ……ぁ、はい。

 

 もふぅ……



 そのまま……僕は二度寝した。


子犬は尊い♡


余談ですが、先日、職場の片隅でノラ猫が子猫を産んでました。

知り合いが子猫ごと連れて帰りましたが、もう本当に可愛かったです。


子猫も尊い♡

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― 新着の感想 ―
[良い点] 最後まで読みました。 ページごとに色々な個性が感じられて楽しかったです。 ワクワクする作品集ですね。
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