シェフ:Lika様
誕生日でいただいたSSです。
Lika様とのコラボ作品『犬好きな俺と犬を飼ってる如月さん』の番外編ですが、単体でも読めます。
あとがきに、400字くらいのさらに番外編を追加してます。
あの日、僕は彼女と出会った。
彼女は公園のダンボールの中に毛布に包まれていて、僕がそっと手を伸ばすとビクっと震えるのが分かった。
「うち、来る?」
僕はそう彼女へ言った。
彼女が頷いてくれた気がして……僕はそっとダンボール事抱えて、彼女を我が家へと連れ帰ったのだった。
※
我が家へと連れ帰り、僕は彼女をダンボールから抱き上げまずはお風呂へ。
そろそろ分かってきてる人も居るとは思うが、彼女は人間ではない。犬だ。柴犬の子犬。
ちなみに我が家はペット可の安いマンション。いつか犬が飼いたくて引っ越してきたが、まさか公園で拾ってしまう事になるとは思わなかった。
「おーい、お体洗いますよー」
ぬるま湯を洗面器に溜め、そっと彼女を中へと。
少しずつ、手でお湯を彼女の体へと掛けながら洗っていく。
うん、なんか気持ちよさそうだ。ここか? ここがええのんか?
「……ゥー……」
つぶらな瞳を僕に向けてくる彼女。
やばい……鼻血が出そう……なんとか耐えなくては。
泥を落とし、ぬるま湯で彼女の体を洗浄する。
子犬用のシャンプーとか買っておけばよかった。今度……買ってこよう。
「さて、次はドライヤーを……」
彼女をタオルで包み、リビングへと。
新聞紙を敷いてタオルも敷いて……彼女をチョコンと座らせる。
「ドライヤーで乾かすからね」
弱めの風で彼女の体を乾かしていく。
だんだんとフサフサの毛並みが復活してきた。それにしても……痩せてるな。柴犬の子犬と言えば、もっと モッチリしたイメージがあったんだが。まともに食事をしていないのかもしれない。
「あ、食事……って、しまった。ドックフードとか無いよ……」
あぁ、どうしよう。
一応僕は犬好き。犬に関しての知識はそれなりにはある。
だからこそ今、この状況が不味い。今家には犬に与えて良い物など……無い。
「……ん? 待てよ……確か……」
そうだ、お隣さんが確か……子犬を飼い始めたとか言ってた気がする。
しかも柴犬の子犬が既に居るのに、だ。つまり、お隣には子犬が二匹……。
「でもあのお姉さん……なんか怖いしな……いや、でも子犬の為だ……お願いしてみよう……」
隣に住んでいるのはバリッバリのキャリアウーマン。
レクセクォーツという超有名IT企業に勤めていると聞いたことがある。
普段はポニーテールに、ちょっと怖い目つきをしているが……子犬を二匹も飼っているんだ。きっといい人に違いない。
そっと体を乾かし終えた子犬を抱き上げ、お隣さんへ。
緊張しつつインターホンを押すと、しばらくしてスピーカーから声が聞こえてきた。
『はい、如月です』
「え、えっと……こ、こんにてぃあ!」
やべ、噛んだ。
『……? こんにちは?』
「す、すみません、隣の森崎です……ちょっとご相談がありまして……」
『どうぞー』
するといきなりガチャっとドアが開錠された。
マジか。少しは警戒した方がいいですよ、如月さん。
そっと部屋の中へと入ると、いきなり子犬が一匹走り寄ってきた!
「キャン!」
ふぉぁあぁぁ! 可愛い子犬が……柴犬の子犬が!
この子が如月さんの子犬……なんて名前なんだろう、きっと凄く可愛い名前を……
「こらー、ピスタチオー、お客さんに迷惑かけない」
……なんて?
ぴすたちお?
奥から如月さんが部屋着らしきジャージ姿で現れた。
しかし思ったより目つきは普通だ。いつもはもっと……二日酔いみたいな目しているが。
「あがって。というか……その子……」
如月さんは僕に抱かれている子犬を見て首を傾げる。
僕は「かくかくしかじか……」と事情を説明。
子犬に何か食べ物を与えたいが、それが我が家には無いと……
「あー、成程成程。いいよいいよ、入って入って」
「お、お邪魔します……」
玄関からリビングへと移動。
むむ、なんか普通だな。もっとこう……ビールの缶とか散乱してるイメージだったのに。
「座ってまってて。子犬用のスープ作るから」
なにぃ! 子犬用のスープ?! そ、そんなのあるの?!
すげえ……僕も飲みた……いやいやいやいや、待て落ち着け。
そっと彼女を抱きながらソファーに座ると、ピスタチオちゃんが僕の隣へ鎮座してくる。
おお、人懐っこい子だ。噛んだりもしないし……。
「クゥーン……」
ピスタチオちゃんはジィーっと子犬を見つめてくる。
それに対して、彼女もピスタチオちゃんをジィーっと見つめ返す。
「……ゥーン……クゥー……」
「フンっ……フン……」
何やら会話しているようだ。
よし、ちょっと僕の脳内で翻訳してみよう。
『何か用か、こむすめ!』
『ごはんを頂きに……まいりました!』
イカン……僕疲れているんだ。
もっと可愛い内容の会話の筈だ、そうもっとこう……
『あら、可愛い子。貴方、お名前は?』
『まだ付けられてないッス』
いやいや、こんな会話……どこが可愛いのか……って、そうだ、名前……。
彼女に名前を付けないと……でも悩むなぁ……コツとかあれば如月さんに聞いて……いや、やめとこう……。
「ハフッ、ヒャン!」
その時、僕の足元にいつの間にかもう一匹の子犬が!
ピスタチオちゃんよりも小さい! か、かわええ……
「ヒャン! ヒャン!」
おお、テンション高めの子犬だ。
僕のズボンを上ろうとしている。あぁ、やべえ……鼻血出そう……。
するとピスタチオちゃんがソファーを降り、もう一匹の子犬とじゃれ始めた!
ぎゃぁー! ヤバイ! マジでヤバイ!
こ、こんな……こんな光景見たら……
「お待たせー」
と、その時子犬用のスープを持った如月さんが。
犬達は一斉に反応し、如月さんの足元へ。
「はいはいはいはいはい、ちょっと待ちな。その子、三か月は過ぎてるよね?」
「ぁ、はい、たぶん……」
「まあこの子よりは大きいし……大丈夫でしょ。はい、その子のスープ」
如月さんは僕に小さな器に入ったスープを渡してくる。
この器も犬用なんだろうか。底に肉球の絵が描いてある。
そして器と一緒にスプーンも。
「すこしずつ、すくって飲ませてあげて。美味しいって分かれば飲んでくれるから」
「は、はい……」
ちなみに既にピスタチオちゃんともう一匹の子犬はガツガツいっている。
なんかすごく美味しそうな匂いが……コンソメかな?
僕はそっと子犬を膝の上に乗せつつ、器からスプーンでスープをすくって……
「飲む?」
そのまま口元へ。
最初は警戒しつつ、フンフン匂いを嗅ぐ子犬。
チロっと一口舐めた後、如月さんの言った通り舌を使って飲み始めた。
おぉぉぉ、スプーンに彼女の舌が当たる振動が伝わってくる……。
あぁ、飲んでる……可愛すぎる……。
「所で森崎君。その子どうしたの? ペットショップで買った子犬じゃないよね」
「ふえっ、わ、わかるんですか?」
「うん。私こう見えてもペットショップの支店営業責任者だから」
あれっ?! IT企業のエリート社員って聞いたような気がしたんだけども。
あの……恐竜を飼ってる老夫婦から。
「えっと、実は公園で拾って……」
「また捨てた人居るんだ……。このちっさいほうも拾ったんだよ」
にゃんだと。
ゆ、ゆゆゆるせん! 子犬を捨てるとは何事か!
「まあ事情は人それぞれにあるだろうし……仕方ないかもしれないけど、森崎君みたいな人に拾ってもらえて良かったんじゃないかな」
「ぁ、はい……」
なんだろう……ちょっと今……ドキっとしてしまった。
「名前は?」
「ぁ、えっと……祐一です……」
僕が名前を言うと、如月さんは突然クスクスと笑い出した。
え、な、なに?!
「ご、ごめんごめん、犬の名前」
「ふぉぁ?! え、えっと……ま、まだ決めてなくて……」
ぎやぁぁぁ! 恥ずかしい!
自分の名前言っちゃったよ! もうダメだよ! 俺!
如月さんも凄い笑ってるし!
「あー、ごめんごめん、私も前に同じことしたから……大丈夫大丈夫」
そのまま如月さんは「コーヒー飲める?」と僕に尋ねてくる。
彼女へスープを飲ませながら、頷く僕を見て如月さんは優しい笑顔を向けてくれる。
「じゃあちょっと待ってて。淹れてくるから」
「は、はい……」
き、如月さんって……こんな人だったの?!
もっと……なんていうか……世の中全てを恨みに恨んだような目してると思ったのに……
「クゥン……」
するとお腹一杯になったのか、僕の膝の上の彼女はコロンと横になった。
あぁ、すぐに寝ると牛になってしまうよ。
牛……牛乳……ミルク……
「ミル……」
その瞬間、彼女の名前は『ミル』と命名された。
そっと僕の膝で寝ころぶミルの背中を撫でてみる。
……今日からよろしくね、ミル。
ミルはそっと、僕と目合わせて小さくアクビを。
次の瞬間……僕の鼻から赤い液体が噴出したのは言うまでもない。
≪さらに番外編≫
「ミルー、ミルー」
名前を呼ぶとパタパタと尻尾を振って駆け寄ってくるミル。
まだ身体が小さいので足元がおぼつかない。
それでも懸命に向かってくる姿は可愛い以外の何者でもない。
「ご飯だぞー」
そう言って、この前如月さんから作り方を教えてもらったスープをミルの前に差し出す。
待ってました! とばかりに勢いよくスープを飲みまくるミル。
ふふふ。
これこれ、あせるでない。
ああん、もう、ほら、こぼしてる。
こうして接していると、なんだかお母さんになった気分だ(僕は男だが)。
ものの数分でスープを飲みほしたミルは、「もっとないの?」という顔を見せてきた。
くうう、天使の可愛さとはこのことか!
首をかしげる姿は、愛しいの一言につきる。
でもごめん、もうないの。
本当はあるんだけど、あまり与えすぎると肥満になると聞いていたので我慢してもらう。
僕は空になったお皿を下げて、ミルを抱き上げた。
おかわりがないとわかったミルは、代わりに僕の指をカプカプしはじめた。
ふおおおお、なにこれ、なにこれ!
なんだこれ!
めっちゃ可愛い……。
僕はミルの背中に顔をうずめて一人悶えた。