シェフ:檸檬 絵郎様
詩や絵画の造詣が深いことで知られる檸檬 絵郎様よりいただきました!
ぜひご賞味ください。
「何によによしてんだよ」
「えっ」
川沿いの柳にもたれて「ザ・クール」を演出しようと試みたものの、によによ顔でスマホをのぞき込むことによってせっかくの雰囲気が台無しになっていることに気づかずにいた柳川くんは、立花さんの不意打ちによって、昨日機種変更したばかりのそのスマホを石の上に落っことしてしまった。
立花さんは慌ててそれを拾いあげると、ふーっとやってかっこよく砂を取り除けようとして、それでも結局最後は掌を使ってその砂を取り除けて、それから画面をのぞき込んで言った。
「あんた、こんなん読んでによによしてたの? うわ、ひくわー」
「なんだよ……、関係ないだろ」
スマホを取り返そうとして柳の根っこにけつまずいてよろめいた柳川くんに手を差し伸べようとしたけれど迷ってやめた立花さんは、柳川くんの視線が自分に戻ったのを感じて、「バカだな、本当」と軽口を叩いた。
「バカって言うなよ……」
「大体、なんでモンブランなわけ? なんか意味あんの」
「え、立花さんもこれ読んだの?」
「な……、今この画面ぱっと見ただけだよ、あたしがこんなん読むと思うか?」
「いや……」
「モンブランってなんだよ、そこガトーショコラとブラックコーヒーじゃないのかよ」
「え……」
「てか、なんで時代劇風のリアクションなんだよ、明智光秀か」
「立花さん、もしかして……」
「てか、こいつらいくつよ、どんな関係性よ。先生と園児とか? まさかどっちかが殺人犯とか?」
ここまで聞いて堪えきれなくなった柳川くんは、声を荒げて言おうとして多少かすれた叫び声をあげた。「あのっ……さぁ……っ!」
「……何?」
「立花さんって、もしかして……」
どきっ。
「好き……なの……?」
どきどきっ。
「……たこすさんの小説」
(くっ、こやつっ……、ほざいてないで、あたしをさっさと喫茶店へ連れ込んで……って、これじゃあたし、あのバカップルの後書き女じゃんか……うぅー……)
と、立花さんは顔を赤らめて……、かすれそうな声でこう言った。
「おい柳川、ちょっと裏来いや。そのまま喫茶店で手つなぎデートしてやるっ」
柳川くんは思案した。
(それは、たこすさんの作品じゃない……んだけど……、つっこむべきか、つっこむべからざるか、それが問題だ……)
思案の結果、恥ずかしそうに右手を差し出して……
ちなみに、彼はそれが……つまり、「生くべきか生くべからざるか……」というセリフが、ロミジュリのバルコニーでの名台詞なのだと勘違いしていたことに、手つなぎデートの数日後になってやっと気づいたのである。