~Time after time~
とある飲み屋街。
あちこちでスタッフが客を呼び込む声が響き、昼とは違う顔を晒している。
その中の一つ、居酒屋「みどり家」に、二人の男の影があった。
どちらもスーツ姿に、シルバーの腕時計。
一見してサラリーマンが仕事帰りに飲んでいると解る風貌だ。
片方は解りやすく酔い潰れており、顔を赤くして机に突っ伏している。
もう片方も少し顔を赤くしているが、ウィスキーを傾けながら悠々と楽しく飲んでいるのが窺える。
「随分飲んだな、もう馬鹿みたいな真似はよしとけよ。」
ウィスキーを置いて、男が話しかける。
聞いているのかいないのか、相手は突っ伏したまま動かない。
「何にもならないだろう、そんな事をしたところで。」
構わず、男は続けた。
相手はゆっくりと顔を動かし、男を見る。
その目には生気はないものの、涙が溜まり、今にも溢れそうになっていた。
「俺だって、そんなつもりもなかったですし、できるならやりたくなかったですよ。」
子供が駄々をこねるように、言葉を発した。
片手に持ったビールジョッキをガタガタとテーブルに打ち付けながら、盛大なため息を吐く。
「先輩みたいに、ポジティブに生きたいです。」
先輩と呼ばれた男は、グラスに少し残っていたウィスキーを空にし、再度同じ物を注文した。
「そう腐るなって、何も俺の人生が正しいって訳じゃないんだ。」
枝豆を口に入れながら、自分にも言い聞かせる様に話す。
後輩は腑に落ちない、という表情でボソッと呟いた。
「俺の人生、どこで間違えたんですかね」
その言葉には、深い後悔と、強い侮蔑の感情が込められていた。
「生き方なんて、自分以外に評価できないじゃないか」
誇りを持つも、恥に思うも、正しいも、間違いも、全ては自分の意思次第、と先輩は続けた。
後輩は苦虫を噛み潰したような顔になる。
どうして、そんな風に思えよう。
自分の評価は、間違いなく他人が決めるというのに。
恐らく、この考えこそ、先輩からしたら間違いなのだ。
「俺は、自分を見つめ直す必要があるのかもしれません。」
ゆっくりと、噛み締めるように吐き出した。
逃げ出した過去。
目をそらし続けた後悔。
全てを見つめ直すことが今、必要なのだと、後輩は感じていた。
「なんだよ、一人で割りきってないで話せって。」
ウェイターが持ってきたウィスキーを受け取りながら、先輩は投げ掛ける。
酔いも手伝って、今ならば何でも話してしまえそうだ。
「先輩、聞いてくれますか...」