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虚無


 影が動き出す。それは生き物の影。
 光が動き出す。死んだ者を利用して。
 遍くモノたちが光と影を持っている。しかしながら光と影は闇のその一部でしかない。
 総ては闇に帰す。どれだけ輝いていようと、どれだけ陰影を美しく持っていても。
 この物語はそのように闇に帰した人間のお話である。

 黒い学生服を着た男が学校の廊下を歩いていた。何故なら彼は学生であり、その学校の生徒であったからだ。
 通学用の鞄から水筒を出して、口に含む。そして、「あ、あ……」というような声を出して喉の状態を確認する。右手を櫛のような形にして前髪を整える。
 準備は万全。フーっと深い深い地底に潜るかのような深呼吸をする。男の眼には一人の女が捉えられている。
 華奢な身体にショートヘアがよく似合う、セーラー服を着た女。彼女もまた男と同じこの学校の生徒であり、クラスメイトである。
 男がごくんと唾を呑んでゆっくりと話しかける。
「ねえ、僕と付き合ってくれない?」
 数秒の間が生まれる。
 すると女が前髪をいじりながらこう答えた。
「嫌よ、あなたは弱いから」
 男はその言葉を聞いてショックで堪らなかった。弱い、というのが何を意味するのかわからなかった。何故なら彼は部活動では優秀な成績を残していたし、喧嘩はしたことがないので力で負けたこともないからだ。弱いと言われる筋合いは甚だ無いと男は考える。
 しかし、振られた。だからと言って恋心は消えない。
 呆然と立ち尽くす。学校の廊下は冷えている。
 気づくと、女は男の前から姿を消していた。
 男は廊下の窓から空を見上げた。雲の形が翼を持った少女のように見えた。
 その姿は男には何故か神隠しを連想させた。

 数日後、男は親が読んでいた朝の新聞の見出しを見て驚愕した。
 驚愕というよりかは絶望であった。
 女が自殺をしたというのだ。意味がわからなかった。
 彼女への思いが男の胸に理不尽なほど甚大に込み上げてきた。
 急激な目眩がした。暗くなった。儚くなった。昏くなった。
 光が失くなった。
 その絶望の大きさは、男に自殺を図らせる程大きなもので、そう彼はその新聞を読んだ数十分も経たないうちに自殺したのである。
 家にある凶器では一番身近で、十分に殺傷能力のある包丁を使って。
 親は止めようとするどころか、気が付かないようであった。
 最終的に、包丁で腹を突き刺して倒れた遺体が発見されることはなかった。
 遺体ごと家から消失したのだ。

 男が死んだ先には華奢な女の子が立っていた。男はそれを抱きしめようとした。
 しかし、女は消えていた。抱きしめようとした手もだんだんと消えていく。
 消える、消える、消える――――。
 消失という不可解な現象。
 だが、本当に消えてはいない。
 ただ単純に、男は闇に帰しただけである。

この小説は多忙により長く小説を書かなかったという理由で衰えた創作意欲へのリハビリを目的として書かれた。だがこの小説には短いながらに作者である私自身の価値観が多く反映されたものになったという評価を下している。

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