死んだ方と死んでない方
細かい設定や文章構成など、拙い部分は多いでしょうけれど、なにせ学生の初投稿小説です。「こんなもんだよな」と、温かい目で見てくださると助かります。
その上で本編を楽しんで読んでいただければ、これ以上の喜びはございません。
「死んだ方と死んでない方、どっちがいい?」
出勤早々俺を呼び出した刑事部長の梶山は、開口一番そう言った。
何だその質問は?いぶかしがる俺に構わず部長は続ける。
「昨日ここ貝々市で起きた事件の話だ。片方は被害者が死亡。もう片方は生きてはいるが重症だ。捜査一課長のお前にどちらかを担当してもらいたいのだが、どちらがいい?」
なるほど、そういうことか。
俺、神山透の住んでいる貝々市は、昔甲斐甲斐しい貝の養殖で名を馳せようとしたが、広島市の牡蠣養殖の影に霞んでしまい、今では取り立てた特徴もない海沿いの田舎町だ。そんな辺鄙なところで、昨日は珍しく立て続けに2件の事件が起こった。俺の記憶では、一方が取っ組みあいの末の絞殺、もう一方が刺殺未遂だったはずだ。それなら…
「死んでない方でお願いします。」
そっちのほうが捜査が楽に決まっている。
「わかった。これが昨夜の事件の詳細だ。」
数枚の書類を俺に渡した部長は、「よろしく頼む」とだけ俺に言うと、さっさと自分の職務に戻ってしまった。
全く、面倒な仕事を頼まれたもんだ。だがまぁ自分の管轄で起こった事件だし、捜査一課長の俺が動かないわけにもいかないか。小さくため息をついて、部署を見渡す。
奥のデスクで作業に没頭している、一人の若い部下が目に入る。ここからではよく見えないが、何かのポスターを作っているようだ。よし、これは手が空いてるってことでいいな。
「おい、里田。」
近づいて声をかける。捜査一課の若手巡査、里田誠はゆっくりとこちらに向き直った。
「何すか、神山課長。」
綺麗に整った長めの茶髪と大きめの瞳は、女子社員の憧れの的だが、それだけに俺は気に入らない。この軽い物腰もそうだが、見た目は正直ちょっとイケメンの大学生だ。そのくせ、根は真面目でやることはきっちりやってくれる。信頼できる部下の一人だ。
「来い。これの捜査だ。」
俺はさっき部長にもらった書類を里田に手渡す。それにざっと目を通した里田は、パソコンに向き直って言った。
「わかりました。この婦女暴行魔撲滅のポスターが終わり次第ご同行します。このキャラクター『フクメン君』を挿入したら終わりなんで。」
どうやらこいつが作っていたのは、最近話題の覆面暴行魔撲滅のポスターだったらしい。それはともかく、
「後にしろそんなもん。どう考えても障害事件の捜査が優先だろう。あと、犯罪者をキャラクター化するな。不謹慎だ。」
そういうと里田は、「えー…」と言いながらパソコンを閉じた。本当にこいつでよかったのか?疑問に思ったが、声をかけた以上仕方がない。
「わかりました、行きましょう!最初はどこに向かうんですか、課長。」
やる気がないわけではないんだよな、こいつ。
「被害者の加藤かおるに話を聞きに聞く。貝々市立病院だ。」
捜査開始だ。俺は愛車、ホンダのCRZのキーを取りだし、里田とともに貝々市立病院へ向かった。