90話 神殿
久々にまったりゲーム回です。
疑問を共有できた俺と姉は、さっそく教会の怪しい点について確認し合う事にした。
「そういえば……クラン・クランのスキルのさ、錬金術で造ったアイテムとすごく似てるモノを今日、もらったんだけど……」
その話し合いの中で、俺はシスター・レアンからもらった『閃光石』を姉に見せてみると、予想通り姉は驚いた。
「これって……」
ゲーム内での『閃光石』の効力と、シスターレアンから聞いた実際の性能を姉に説明していく。
「効果もほぼ同じような感じだけど、かなり強力になってるらしい。人間の視力に異常をきたす程の光量を発生させるんだってさ」
「太郎……わたしはもう、何が何だかわからなくなってきたぞ」
「でもさ、単純に俺達が現実にこんな石があるって事を知らなかっただけかもしれないよ。よく軍隊とかで使う閃光弾? みたいに視界を奪う軍用機器とか武器なんてたくさんあるだろうし」
「それはそうだけど……確かに、現実にあるモノをモチーフにしてゲーム内の設定に組み込むことはよくあることだが……」
じゃあ、キリスト教が消失して、それに成り代わるようにして台頭し始めた『虹色の女神』教会はどう説明する? 姉の言いたいことは痛いほどにわかる。
だけど姉はそれ以上、口を開かなかった。
それは俺も同じだった。
だって、普通に考えたら受け入れ難い状況だ。
たった、数日の間で世界が、歴史が変わっていたなんて到底信じ切れない。
今でも何かの間違いではないだろうか? と思っていたりもする。
「とにかく太郎、何が起こっているのかだけは把握しておかないといけない」
「そうだね……」
「何が敵で……どの情報が信用できるか、わかったものじゃない」
物騒な姉の意見だけど、これにもまた、俺は同意できた。
「それでも一つだけ、情報を確実に掘り出せる場所がある」
姉の切れ長の瞳が、神妙な光を帯びて俺を見つめてくる。
「クラン・クランの世界だ。あそこで起きること、あることは……少なくとも私たちが認識している違和感、現実での変化に多少なりとも関わっている」
教会にしろ、閃光石にしろ、確かにその通りだ。
「だから、私たちはクラン・クランをプレイし続けるのよ」
――――
――――
というわけで、クラン・クランにインした俺だけど。
「一体、どうなってるんだろ……」
ゲーム内で自分のステータスを確認して、嘆息した。
タロ Lv6
HP80 MP80(+10)
力1 魔力14 防御2 魔防8 素早さ180
知力255
称号
『老練たる少女』
【レベルアップ時、取得スキルポイント3倍】
『先陣を切る反逆者』
【開戦初撃、クリティカル率50%】
【上位者へ、与ダメージ1,2倍】
スキルポイント 35
スキル:『錬金術』Lv30
:『風妖精の友訊』Lv16
最近、現実で不信に思う機会が多かったのだけど、ゲームの中でもさっそく同じような思いを味わうとは……。
わからないのは、何も『虹色の女神』教会の件だけではなかった。
「……どうして、錬金術スキルのレベルが上がらないんだ?」
俺は称号、『老練たる少女』の恩恵でスキルポイントが現在、有り余っている状態だ。それをいいことに、錬金術スキルにポイントを振りまくろうとしたのだけど……。
どういうわけか、錬金術スキルのLvが30以上にならないのだ。
:現段階では、傭兵タロは錬金術スキルを更に上昇させる事はできません:
というログが流れてスキルポイントをつぎ込むことができない。
現段階では、という箇所がどうも引っかかる。
錬金術スキルを30より上げるには、何か条件などがあったりするのかもしれない。
「だけど、それが何なのか皆目見当もつかない……」
錬金術の更なる深淵を覗きこむには、一人では限界があるようだ。
なので、やはり錬金術のまだ見ぬその先、可能性の感じられる、あの隠された都市ヨールンへと赴くのが一番だと決断する。
なにせ、あそこには『滅びと再生の錬金術士リッチー・デイモンド』とかいう、大層な名前のついた錬金術士の遺産、人造生命体が闊歩しているのだ。
再び探索し、何か錬金術に繋がる手掛かりが見つけられるかもしれない。
というわけで、全滅覚悟でまだ見ぬ地下都市の領域に興味のある人はいないかと、同好の士をフレンドチャットで募ったわけなのだけど。
「……天士さま、どうしてリリィさんがここにいるのですか?」
黒と白の修道服を着込んだミナが、メイスを片手に握りしめ、俺の隣にいるリリィさんを見つめている。
「貴方……やっぱり、どこかでお会いした事がありませんこと……?」
なんとなく棘のあるミナに対し、リリィさんはうちの金髪神官娘を凝視して、そんな疑問符を放った。
「ふ、二人とも落ち着いてよ」
ミナの態度は少し気になる点はあったかもしれないけど、リリィさんの返しも半端ない。つい最近、一緒に同じダンジョンを探索したPTメンバーであるミナを忘れてるはずがないのに、堂々とそんな白を切るような発言はやめて欲しい。
「そうですか。わたしは、貴方みたいな感じの悪い人とは会った事もありません」
険呑な口調でミナがリリィさんにやり返す。
「そうかしら? ……あぁ、そう。私の言い方がよろしくなかったみたいですわ。私、昨日に日本の名家である、三条家の方々が催したパーティーに招待されましたの。その際の立食会にいらしたような……」
「……」
ん?
現実での話だったのか?
というか、ミナがリリィさんの顔をまじまじと見て、『アッ』と何かに気付いたかのように口を開け、そして閉じた。
ちょっとパクパクしてるミナが可愛いけど、不自然に黙り込んだので、俺はいぶかしむ。
もしかして、この二人って現実で顔を合わせた事があったりするのかな。
リリィさんの疑問は今や俺のものにもなりつつあるけど、ミナが答えないという事は、何かそれなりの理由があるのかもしれない。少しだけ、困っているようだ。
「ミナヅキさん? 私たち、やっぱり――」
再び確認しようとするリリィさんを俺は遮り、逆にリリィさんへと気になった部分を突っ込んでみる事に決めた。
「えーっと、リリィさん。質問があります」
「あら? た、た、タロさん、何かしら?」
俺の突然の介入に、リリィさんは少しだけ驚いたようで肩をピクリと揺らした。赤面する彼女には悪いと思いつつも、ミナが俺にだけ聞こえるように『ありがとうございます』とポソリと呟いて、袖をそっと掴んできたので、どうやら俺の判断は間違っていはいなかったようだ。
誰にだって、詮索されたくないことの一つや二つあるだろう。
現実で突然、銀髪女子に変異した俺にはその気持ちがすごくわかる。
「リリィさんはさっき、わざわざ日本のって言いましたけど、外人さんだったりするの?」
これぐらいの質問ならプライベートとはいえ、許される範囲だろう。
とはいえ、外人さん? などと質問したみたものの、リリィさんは日本人風の顔の作りをした美少女だ。どことなく西洋人さんっぽい顔立ちはしているけど、日本人だと思う。
「ええ、そうですわ。私の母国は英国ですわ」
そんな俺の予想はあっさりと覆された。
そっか、そうだよな。
リアルモジュール、現実の自分の姿をコピーしてキャラクターを作成した傭兵なんて、早々いるもんじゃないよな。俺の周りが、たまたまリアルモジュールを選んだ人が多いだけだ。いつの間にか、それが自然だと思っていたけど、ネットゲームの世界じゃ現実の自分とは異なる姿のキャラを操作するのが当たり前だって晃夜から聞いた事を失念していた。
「そうなんですか。というかリリィさん、凄く日本語上手ですよね」
「それはもう、熱心に勉強しましたもの。言葉遣いも上品かつ洗練された上流階級の淑女らしいものを選びましたの」
そうかそうか、その変なお嬢様口調はそういった理由で使っていたのか。
「祖母が生粋の日本人で、お父様も日本人ですもの。私にとって、日本語は必修言語ですわ!」
というと、うん?
英国人としての血は、四分の一?
クォーターってやつなのか?
「すごいですね。こっちは英単語を覚えるので一苦労してますよ。というか、リリィさん、クラン・クランって海外でもサービスしてるんだ?」
「残念ながらしてませんの。ですから私は今、日本にいますのよ」
おおう。なんとイギリスから、わざわざ日本に来ているのか。
「へええ。すごいな」
「別荘ぐらい、大した事ないですわ」
平然と答えるリリィさん。
もしかして、もしかしなくてもお金持ちなのか?
学校とかは、どうしているのだろうか。
あ、夏休みなのか? それとも専属の家庭教師的なのがいるのかもしれない。
「ですが、安全や警備の関係で一歩も外に出してもらえませんけども……」
「ほぇー」
どの辺に別荘とやらがあるのかちょっとだけ気になりますな。
おっきいのかな。
と、そんな感じで雑談を交えながらも、気付けば奴隷王ルクセルの案内を終えて、地下都市ヨールンへと到着した俺達。
「さて……今回はこの四人だけだから、前回より難易度は上がるかもしれないけど、みなさんどうかよろしくお願いします」
俺の呼びかけに応じてくれたみんなに、改めて挨拶を送る。
「天士さまのお役に必ずたってみせます」
「私は、あの光るモンスターにやられっぱなしが嫌でしたので、来てさしあげただけですわ」
ミナとリリィさんはやる気満々のようだ。
そして、これまでの道中ずっと黙っていた、おそらく一番の年長者であるアンノウンさんも頷いた。
「女子会でありんすね」
彼女は年下の可愛い後輩達から一歩引くように、涼しい微笑みを浮かべてそんな事を言ってくる。
いえ、女子会ではありませんよ。
ハーレムです、きっと。
俺の独り勝ちです。
そうだと言わせてください。
というか、アンノウンさん。
俺達のお守り、ありがとうございます。
中身は高校一年生である俺と大して変わらない年齢である彼女に、内心でぺこりとお辞儀をしておいた。
――――
――――
「タロん? あのでっかいのやっつければいいのー?」
「やっつけなくていいよ、フゥ。あいつらからはどんどん離れていこう」
「はーいッ!」
風乙女である『フゥ』を、万が一に備えて召喚しているものの、地下都市ヨールンの探索は順調を極めていた。
「私がいる限り、あんな腐った木偶の坊、敵ではありませんことよ」
自信に満ち溢れるリリィさんの横で、ミナが呆れていた。
「天士さまのおかげですよ」
やはり、エンカウントする巨人のアンデッド『巨人の系譜の屍』は俺がリリィさんの矢に施す『悪食の黄色』のコンボで『飢餓』の状態異常を発生させると、お腹をすかせてしまうのか俺達を避けるようにどこかへ散って行く。
「ただ、気がかりなのは……タロ氏の色が、効きづらくなっているでありんすね……」
それは俺も思っていた。
というのも最初はリリィさんの放つ矢が一本で事足りていたのに、たまに二本、三本と追加で撃たないと効果が発動しない個体も現れていたのだ。
「巨人にも序列みたいのがあったようです」
『悪食の黄色』の効果が発動しにくいのは、決まって身体がより大きい巨人たちだった。
気になって写真を撮って、説明文を読んだところ案の定という結果だ。
『巨人の屍』【写真】
【〈闇月の誓い〉に縛られている、東の巨人王国の巨人。10メートルから15メートルの巨躯を誇る彼らは、知能が低いとはいえ屍となった今でも、その破壊力は健在である。生前は『高貴なる巨人』の兵として仕えていた身ゆえ、『巨人の系譜』よりもあらゆる戦闘面で優れている。地下都市ヨールンに侵入する者に、巨人の鉄槌を振りかざすために彷徨い続けている】
「たまに大きめの巨人がいますよね。どうやらランクの高い巨人のようで、『飢餓』への耐性が強いみたいです」
「ですが、た、た、タロさんの、光る石と私の矢があわされば、敵わないモンスターはいませんことよ?」
「タロ氏の『閃光石』にも限りがありんす」
今回はPTの人数的に前回より少数なため、避けられるリスクは全力で回避している。だから同時に数体の巨人ゾンビと遭遇してしまった場合、躊躇うことなく『閃光石』を行使してすぐにその場を離脱するようにしていた。
ほんの数秒とはいえ、あの巨体たちの動きを止めるのには十分な効力を発揮してくれる、このアイテムに感謝の念が尽きない。
だが、アンノウンさんの言う通り、数には限りがある。
地下都市ヨールンの攻略に備え、『閃光石』をたっぷりと作ってきてはいるけど、その残りも既に10個を切っていた。
余談だが『閃光石』の元となる太陽光が得られる、コムギ村周辺の小麦畑が荒れていて採取に時間がかかった。というのも未だに『タフ・スライム』が出現するらしく、前よりはだいぶ規模が少なくなったらしいのだが、ミケランジェロ目指して『ビック・スライム』へと進化した集団が数十体の規模でたびたび押し寄せているらしい。
「太陽光が前より採取困難になってきたからなぁ……」
一番レアリティの高そうな色『お日様と金麦色』の使い道は未だに見つかってないしなぁとぼやきながら、左手で『閃光石』を握り、右手で『射ろ筆』を持つ。
「天士さまの負担は軽減しないとです」
「はらはら、注意して家々を経由して探索していくしかないでありんすねぇ」
「この前のように海月に見つかっては、同じ結果になりますものね」
「海月さんは、強いのです」
現在の俺達は、東の巨人王国に侍っていた奴隷人間たちの居住区まで難なく攻略の足を伸ばしていた。
前回、8人PTで挑んだ時もここまでは到達できたものの、闇空に浮かぶ青白い光を巨人たちへと降り注ぐ『海月』に見つかり、大量の『月に焦がれる偽魂』に囲まれ、あえなく全滅した。そんな経験を活かし、十分に警戒しながら進んでいる。
「外の様子を見る時は慎重にいきましょう」
また夜盗紛いな移動方法にはなるけれど、かつて奴隷人間たちが生活していた建物に身を隠しながら移動していく。たまに、生前は家主と思しき『骸骨』などが出没するけど、アンノウンさんが薙刀の一振りで屠っていく。
「たろん~フゥの出番ない~」
自由と遊戯をこよなく愛する風乙女のフゥは、このダンジョン攻略を退屈だと訴えてくるが、無駄な危険をなるべく避けるのは傭兵の常套手段だから、ここは我慢してもらうほかない。
前回の全滅パターンを考慮し、高所からは『海月』に捕捉されやすいので、建物二階に備え付けてある窓からそーっと街並みをマッピングしながら攻略している。
「いよいよ、あの建造物に近付いてますわね」
「あれは、やはり神殿でありんすか?」
「大きすぎて、てっぺんが見えません」
三人が指摘するのは、この地下都市ヨールンに入った際に一番奥に見えた巨大な神殿のことだ。
「あの神殿、この地下空間の天井まで届いてたりしてね」
そう言ってしまう程に、あの建造物は大きすぎた。
形状は似ても似つかないけど、高さだけでいったら、スカイツリーぐらいはあるんじゃないだろうか。
石を積み上げて作られた重厚な作りの神殿は、ぼんやりと全体が白く発光している。まるで闇夜に浮かぶ巨城のようにも見えた。
そうして、じっくりと隠密で地下都市ヨールンの奥へと進む事20分。
ついに俺達は、神殿の入り口と思われる場所まで辿り着いた。
とは言っても、神殿の前に立っているわけではない。
下手に姿をさらせば、『海月』に見つかってしまうかもしれない。
なので、俺達は神殿近郊に建っている家の窓からこっそりと顔だけ覗かせて、神殿の様子を観察しているのだが。
「あれはやばいよね」
「はい、天士さま。あれはやばいですね」
「はらはら……軽率な行動は控えるべきでありんすね」
「あの両脇に立ち並んでいる巨人たちは、厄介ですわね……」
一目見ればわかる、わかりすぎるぐらいに神殿への扉は大きかった。
神殿前は広く、芝生が敷き詰められた空間が広がっており、緑の面を縦に一筋の白い線が入っている。白い石か何かで舗装された道だ。
その道幅は5メートル前後と太い。
そして、その白い道の両脇を固めるように立っている巨人たちがマズイのだ。
目算にして、20メートルから30メートル前後の巨人が8人、神殿の扉へと繋がる道に列をなして、等間隔で配置されていた。
今まで見てきたどの巨人たちよりも、でっかい。しかも、全員が立派な鎧に身を包み、ある者は剣を腰に吊るし、ある者は矛を握り、ある者は槍を構え、ある者は斧を肩にかつぎ、そして全ての巨人が自分の半身を隠せる程の大盾を所持していた。
「微動だにしないでありんすね」
もちろん、『海月』の光は神殿前も照らしているわけで、あの光を浴びているのだから動けないはずがない。
「不気味だ……」
一本の道を挟んで、そびえ立つ完全武装の巨人たちが列を成す様は威圧的と感じるのが普通なのかもしれないが、静寂と暗闇が支配するあの場で、一切の動きを感じさせない雰囲気は非常に近寄りがたい。
まるで、あの一本道を通れと手招きしているようにも見える。
「わざわざ、左右を挟まれるように道を歩かなくても良いのではないかしら?」
「芝生のエリアから接近するってことですか」
リリィさんの言葉は確かに一理ある。だが、神殿事態が白く発光しているので、周囲は明るい。誰かが神殿に接近したら、あの巨人たちは間違いなく見逃さないだろう。
「でも、あの様子だと絶対襲ってきそうな雰囲気がするんですけど……」
「ですわよね」
しかも、物凄く強そう。
あれがもしかしたら、『高貴なる巨人』なのかもしれない。
「た、タロさんの色と私の矢が通用するかしら……」
「したとしても、一体につき5本から10本は必要になりそう」
『巨人の屍』ですら三本を要したんだ。その上位種となれば、『飢餓』を植え付けるのに、それ以上の本数になるだろう。
いざ、あの集団と戦闘になって、リリィさんがそんなに連射している時間はない。5本の矢を撃ち終わる間に、あの四階建てマンションよりも大きな8体の巨躯が繰り出す攻撃が、俺達を瞬時に押し潰してしまうのは目に見えている。
「やっぱ、これしかないよな」
黄色の石を握りしめて、決意を固める。
「残り9個ですが、扉に辿りつくまでに足りるか心配なんですけど、行きますか?」
俺はここまで付いて来てくれたみんなに確認する。
ここからは正直、生き残れるかわからない。
キルされたら失われる経験値はバカにならない程に多い。
そのリスクを背負ってまで、みんなが無理にあの神殿に入る必要はないのだ。
「もっちのろーん、たろろーん♪」
「わたしは天士さまと、ずーっと、いつも、常に一緒ですからね!」
「わ、わた、私だって、ここまで来て引き返す程の臆病者でも卑怯者でもないわ」
「はれはれ、行くしかないでありんすねぇ」
フゥの威勢のいい掛け声に続き、みんなが同意してくれる。
それなら、決まりだ。
「じゃあ、全力疾走ですよ。作戦は『閃光石』を俺が使用し続けるので、巨人達の動きを止めている間にあの白い道を走り抜けるって感じでいいですか?」
「天士さまの御心のままに」
「どちらにせよ、それしかないですわ」
「心得たでありんす」
みんなは緊張を滲ませた顔をしつつも、ふわりと笑顔を浮かべてくれた。
頼もしいな。
嬉しくなって、俺も思わず笑みを返してしまう。
「天士さまぁ……」
「た、タロさん。とろけるスマイルなんて放ってないで、さっさと行きますことよ!」
とろけるスマイル……?
ミナとリリィさんが、俺を見て何故か赤面している。
「タロ氏は罪な女でありんすね」
クツクツと忍び笑いを漏らすアンノウンさんに、女じゃないですよとツッコミを心の中で入れておく。
よく分からないけど、みんな準備は整っている様子だ。
「じゃあ、行きます」
俺達はせーので家屋から飛び出した。
すると、一番手前にいた剣と大盾を持った巨人が、こちらへチラリと顔を向けた気がする。
それが勘違いじゃないということが、ズシンという地鳴りと共に証明される。
奴らが動き始めたのだ。
「フゥ、お願い!」
「まっかせてー!」
俺はフゥの突風に背中を押してもらい、木の葉が吹き飛ぶように、誰よりも早く神殿へと続く白い道へと到着する。
転ばないように必死で駆けつつ、上を見上げれば、巨人の動きが想像以上に俊敏だと思い知らされた。
鈍重そうな巨体からは信じられない程、なめらかな動きで長大な剣を鞘から抜き放っていたのだ。その流れるような動作で、重く太く、鈍い光を放つ刀身が、今にも俺へと振り下ろされようとしている。
迫りくる圧倒的な質量による恐怖に打ち勝つために、俺は足元に広がる白い石で作られた道を見つめた。
「一撃目、いきます!」
右手で閃光石を下へと激しくこすりつけ、俺は眩い光を目に入れてしまう前に、瞼を閉じて一直線に走り続けた。
どの灯りよりも強い輝きを秘めた、光を紡ぎ。
錬金術のヒントを探し求めて。
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