75.5話 リリィの追跡
今回はリリィ視点です。
短めです。
信じられませんわ……。
あの子は一体、何者ですの?
私、リリアーナ・フォン・リコリスは、今日で何度目になるかわからない驚きの念を胸中で呟いてしまいました。
偶然にも友人たちと共にいる彼女の姿を見かけ、たまたまお暇してましたので、私の『隠密』スキルと『隠蔽魔法』スキルで、天使と呼ばれる彼女とその一味を尾行してみれば……。
目をむくような、非常識な成り行きのオンパレードでしたわ。
気になる……コホン。にっくき天使が、虚空に向かって何かを話しかけているところを見た時は、やっぱりタダの頭のおかしな少女かと確信しましたのに。
それが……アレは一体何なんですの……。
彼女が手にした何かが、激しく発光したと思えば……。
急にこの世の終わりを嘆く、怨念のこもった呪詛めいた声がざわめいたかと思えば、『浅き夢見し墓場』がうごめき、あれよあれよという間に、最奥へと到着しているではありませんか。あたかも彼女が進むため道を作り出していくように。
天使のような可憐な彼女が、骸骨ひしめく不気味な墓場を意気揚々と歩き進む姿は、その、ひどく不可思議に思えましたわ……あまつさえ、ダンジョンを自分の手足の如く動かしていくのですもの。
しかも、しかもですわよ。
彼女が作り出した道で遭遇したモンスター達は、一切襲ってくる気配がありませんの……。『浅き夢見し墓場』のボス級モンスター『夜のうつろう巨兵』でさえも、彼女たちを目の前にして微動だにしませんでしたの。
それほどまでに彼女が扱う錬金術とは凄いものなのでしょうか? いえ、でも巷で聞く錬金術スキルは途方もなく使い物にならない産廃だとお聞きしておりますもの。きっと、あのパーティーメンバーのうちの誰かが優れているのかもしれませんわ。
そう思いたかったのですが……。
やっぱり彼女が眩い光を放った直後、最奥にあった巨大な石碑が割れたのです。
そして姿を現したのが、未だ聞いた事のない地下への入り口。
『浅き夢見し墓場』にこんな隠しダンジョンがあったなんて、聞いておりませんの。
彼女は一体、どこまで私の予想を上回る事をやってのけるのでしょうか。
あの平原での一戦でも終始、天使は私の先をいき、あまつさえこの身を案じ助けてくれましたわ。数多の男性傭兵のように、下卑た目つきで私を見るのではなく。一部の女性傭兵のように、私に嫉妬と嫌悪の目を向けるのではなく。最後にいたってはひどく紳士的な対応までしてくれ、本当に素敵な……ぁぁああ!
私とした事がなんてことでしょう。
何を彼女に対して、抱いたのでしょうか。
いけませんわ。
私があの子を気にするのは、純真そうに振舞って周囲の目を騙しているからですとも。同じ女として、気にならない方がおかしいではありませんか。
とにかく、可愛こぶった天使の化けの皮を剥ぐためにも。
背後から、文字通り一矢報いてあげましょう。
私は背中にかけた『アリスの黒弓』をこの手に掴み、矢をつがえます。
そして、彼女たちが通った、地下へと続く怪しい階段へと降りていきますのよ。
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