74話 幽霊、再び
「あー……つかれた」
ビッグ・スライムの掃討作戦後、結局ジョージにリアルで予定がある事や、俺達も疲れてしまったので、今回は『浅き夢見し墓場』の謎に迫るのを延期することにした。
そうなればと、勝利を祝うのもほどほどに、俺はそそくさとクラン・クランをログアウトした。
「あの場の全員とフレンドになるのはちょっとな……」
戦闘は終わったのに、戦いはこれからだと言わんばかりに、ギラついた目を向けてくる生き残り傭兵を避けたってのもある。
ユウジことRF4-youのよく分からない宣誓のおかげで、なぜか俺がフレンドになるという流れになっていたため、後で小言の一つや二つはアイツに言ってやらねばならないだろう。
奴の事を思い浮かべた傍から、ラインの通知がユウジから飛んできた。
ユウジ『天使閣下、小官は質問があります』
きたか。大方、コンビニでの一件だろう。
訊太郎『どした?』
ユウジ『ユウ大佐やコウ大佐からお聞きしていましたが、閣下のキャラクターにおける風貌はゲームが引き起こしたバグとの認識でお間違いないでしょうか?』
夕輝『そうだねー。そういえば、まだキャラバグってなおらないの?』
晃夜『早い話が、運営の怠慢か』
ユウジが仕掛けた話題に、旧友二人も即座に加わってくる。
今まで、俺と晃夜、夕輝の三人だけだったグループに、今では同じゲームをする者同士という名目で、ユウジも同じグループに招待することになったのだが……予想通り、この話は避けられなかったか。
訊太郎『なおってない』
ユウジ『では、質問を変えさせていただきます。先日、近くのコンビニでタロ閣下に似ている少女をお見かけしたのですが、それは閣下ご本人ではないのですか?』
ストレートに聞いてきたな、ユウジよ。
晃夜『何言ってんだよユウジ。アニメの見過ぎじゃねえのか?』
夕輝『うーん……?』
晃夜『なんだ、夕輝までおかしな事を言うんじゃないだろうな』
夕輝『いやさ、この間ラインで訊太郎に通話かけた時にミシェルちゃん? っぽい声が一瞬聞こえてさ。すぐ切れちゃったんだけどね?』
そういえば身体が変化した当初、うっかり夕輝の通話にでちゃった時があったな。
ミシェルがでたって、見当違いをしてくれたおかげで何とかごまかせたっけ。
晃夜『あぁ、訊太郎の妹さんだったか』
夕輝『そうそう。ユウジはミシェルさんの事知らないよね? ミシェルさんと勘違いしてるんじゃないかな』
あれ。
なんか夕輝がまたもや、いい感じに勘違いをしてくれてる?
ユウジ『ミシェルさんとは、どのような人物でしょうか?』
夕輝『それは、そのね? 訊太郎の家族の話でもあるし、ボクが語ってしまっていいものなのかな』
渡りに船とはまさにこの事だ。
訊太郎『えっと、だいぶ前に父さんと母さんの知人が亡くなってな。その知人の娘さんがミシェルなのだけど、今では俺の妹になってる』
ユウジ『義理の妹でしょうか!?』
訊太郎『うん、まぁ。詳しい事は知らされてないけど、うちで面倒見るって事になって。あと、ロシア系の生まれだから、髪の色とかもけっこう白に近かったりする』
ミシェルの髪色は、正確には白金髪だけど。
さらに言えば、未だにミシェルは海外にいる父さんと母さんと一緒に行動しているから、日本にはいない。
俺がこんな姿になってしまった事を知り、慌てて帰国準備をしている両親と共に帰ってくる的なことを姉からチラッとは聞かされているけど。
ユウジ『左様でしたか! 閣下には無粋な質問をしてしまいました……』
訊太郎『いやいや、全然いいんだ。別に』
ユウジ『では、小官がコンビニで遭遇した閣下似の美少女は、ミシェル少尉ということでよろしいので?』
訊太郎『たぶん? 今度あいつに聞いておくよ』
ユウジ『サァーイエスッサー!』
晃夜『ところで、ユウジよ。お前、けっこうな傭兵に文句を言われてなかった?』
夕輝『あぁー天使ちゃんとフレンドになれなかった、とかなんとか?』
ユウジ『そちらの問題は速やかに対処済みであります』
晃夜『というと?』
ユウジ『貴様らの気概が足りんからだ! と一蹴しておきました』
夕輝『え、それで大丈夫だったの?』
ユウジ『…………』
なんだろう。ユウジの無言がやけに重い。
何かされたのかな? ほんの少しだけ不憫に思えた。
晃夜『傭兵稼業も一筋縄ではいかないな』
訊太郎『やっぱり、フレンドになった方が円満解決するのか?』
夕輝『うーん。フレンドになる、ならないは傭兵の自由だしさ。そこは訊太郎が気にしなくてもいいと思うよ』
ユウジ『小官は自分の言葉に責任と誇りを持っております!』
晃夜『早い話が、あの場で奴らをその気にさせる台詞を言っちまったユウジの責任って事だな』
夕輝『ただ、あそこでユウジがみんなを鼓舞しなかったら大変なことにはなっていたから、そのへんボクたちはすごく感謝してるんだよ?』
ユウジ『サァーイエスッサー!』
ユウジには一言、文句を述べるつもりだったけど、夕輝の発言も一理ある。
なんだかんだユウジは悪い奴ではないのだ。
美少女化の件もごまかせたし、この調子ならフレンドになって一緒にクラン・クランで冒険をしても問題はなさそうだ。
――――
――――
「天使閣下! 再び、拝謁できて光栄でございます!」
前言撤回。
やっぱり、なんだかヤダな(笑)。
ピシーンとした敬礼をするRF4-youこと小柄な美少年へと転じたユウジだが、やはり俺を見る目がやけに粘っこい。
これさえ、なければな……。
内心の表れが具現化してしまうのか、俺の態度もクラン・クランでは硬化してしまう。ギギギッと首だけを動かし、作り笑いを浮かべて手早くフレンド申請をクラスメイトに送っておく。
「小官などが、閣下と知己を交わせる機会を賜れるとは……恐悦至極に存じます!」
「だぁーっはいはい。アールはうるさいっての」
「さてさて。前回はごたごたして行けなかったけど、『浅き夢見し墓場』に行くんだよね?」
晃夜がユウジを遮り、夕輝がこの場に集まってくれたメンバーの意思を確認するように俺へと問い掛けてくる。
「あぁ。そのために、みんなに集まってもらった」
「天士さまと私はいつも一緒ですので」
「何も起きないかもしりん、起きるかもしりん……楽しみでありんすねぇ」
「今日こそはタロちゃんと一緒に遊ぶよー!」
ミナ、アンノウンさん、そしてゆらちーの女性陣3人は張りきった声で返答をしてくれる。それから各々が、手早く冒険の準備を済ませていく運びになった。
俺はアイテム整理に加え、前回のビッグ・スライム戦の恩恵でレベルアップを果たしたわけだし、さっそくステータスポイントをふりわけていく。
タロLv6
HP70 → 80 MP60(+10) → 80(+10)
力1 魔力14 防御2 魔防8 素早さ160 → 180
知力205 → 255
残りスキルポイント 47
スキルポイントが大変な事になっている。
称号【老練たる魔女】のおかげで、通常の3倍の勢いですぐ溜まって行くスキルポイントを使ってやらなければ。
というわけで、今回振り分けていくスキルは最近大活躍の『風妖精の友訊』に決定しておこう。
こちらに11ポイントふっておく。
:スキル『風妖精の友訊』Lv4 → Lv15にアップしました:
:風妖精の風力が10から35へとアップしました:
:風妖精が固有妖精、『風乙女』へと進化しました:
:妖精召喚時に『優雅なる風の囁き』、『風の守り手』、『風の担い手』の三つのバフが、召喚者には自動で付与されるようになりました:
わ。
なんだか、色々と凄そうな効果がついたようだ。
スキル『風妖精の友訊』をくれたミソラさんには感謝してもしきれない。
「じゃあ、さっそおく出発進行だね!」
森の賢者へ、俺が感謝の念を抱いていると、ゆらちーが『大輪火斬』を背中から抜き、勢いよく前方へと掲げた。彼女の元気な掛け声に引っ張られ、総勢七名によるパーティは夕方から夜にかけてしか出現しない『浅き夢見し墓場』が現れるであろう地点へと向かうことになった。
――――
――――
「そういえば天士さま、わたしLv9になりました!」
『浅き夢見し墓場』までの道中、ミナがほくほく顔で自分のレベルアップを告げてきた。
「お、よかったなー。おめでとう」
「はい! それでですね! MPをついに増やしたのですよー!」
「おお、どれぐらい?」
「50です! あとは魔力に50です!」
お、おう。
俺も知力に極振りだけど、ミナさんは本当に魔法一徹なステ振りですよな。
そういえば、ミナって風にまつわる『緑魔法』スキルはLv7だったよな。
『風妖精の友訊』と『緑魔法』って比べてみるとけっこうな違いがありそうだ。また、先程習得したばかりのバフで気になったこともあったので、そこらへんを聞いてみようかな。
「そういえば、ミナって『緑魔法』Lv7だったよね」
「はい。でも今はLv8に上がってますよ」
「おお。やっぱりレベルが上がるごとに引き起こせる現象? というか魔法の種類って決まってるよね?」
「そうですね。扱う魔法によってMPの消費量も違います」
『緑魔法』は発動できる効果の内容が明確に決まっている。そのため、戦闘中での作戦行動や、次の一手に繋がる連携を組みやすい。対して『風妖精の友訊』は俺の思考パターンや、お願いの内容を妖精が反映して風を引き起こしてくれる。だが、実現可能な範囲になるのかは、あいまいな部分が多い。妖精が俺のリクエストに応えられるだけの風力? にもよるだろうし、俺の伝える思いの精度によっても左右されるだろう。つまり、思った通りの効果が望めないこともしばしばある。
エセ侍の髪の毛を揺らすだけに終わった時がいい例だろう。
「俺の『風妖精の友訊』も、妖精に何かしてもらうとMPは消費するから、そこは同じなんだな」
「天士さまとお揃いで、ミナは嬉しいのです」
俺はミナの喜ばしい一言に顔をによによさせながらも、習得したばかりのバフについて考えを巡らせていく。
『優雅なる風の囁き』
【妖精による独自の知識や見聞を、召喚した妖精がささやいてくれる事がある。内容は召喚者のステータス『知力』によって補正される】
こちらのバフは、フゥが俺に何らかのアドバイスをくれる事があるだろう。しかも俺の知力が高ければ高い程、有益な情報を教えてくれるに違いない。知力さまさまなバフを手に入れたので、こちらは大満足している。
そして、二つ目のバフはこれだ。
『風の守り手』
【風の加護を得る。飛翔物に対する回避率が上がり、飛来する物体からのダメージを軽減してくれる】
文字通りなら、投擲系の攻撃を和らげてくれるなどの効果が望めるのだろう。こういうのは緑魔法にも存在しそうだ。
「『緑魔法』には、弓矢とか、飛翔してくる攻撃を弱体化する魔法とかってあるの?」
「ありますね。弱めるというよりは、矢などを弾く魔法『風のお守り』をスキルLv5で習得できます」
攻撃を軽減どころか、無効化か。
まぁ緑魔法はMPを消費しての発動。こっちはあくまで自動で付与されるバフだし、それが妥当な効果だろう。
ここまでは納得のできる、いや素晴らしいバフではある。
だが、最後のバフが俺にとっては厳しいものだった。
『風の担い手』
【風の道筋に妖精を配置することで、『風』に関する事象や魔法などの威力を5%~10%増大させることができる。ただし、風妖精の起こした事象にこの効果は含まれない】
これはつまり、自分で風に関するアビリティや魔法を習得している必要があるということだろう。風に関連する魔法などを発動する場所へ、妖精を動かす。それだけで、威力が増大するって内容なのだろうけど、残念ながら俺はミナのように緑魔法を習得はしていない。これを機に覚えるべきなのだろうか?
「うーん……」
「どうしました? 天士さま?」
「あ、いや……なんでもない」
そんなことを悶々と悩んでいるうちに、俺たちは夕日が差し込む大地にうっすらと姿を現した墓標の前に到着していた。
――――
――――
「おーいかにも出そうな雰囲気だな、ここって」
晃夜が『浅き夢見し墓場』を見渡し、メガネをクイッと持ちあげては呟いた。
「小官は目に見える無機物などは信じておりません!」
そこへ否定の言葉を、ハッキリと紡ぐユウジ。
「あれ、アール、もしかして怖かったりするの?」
「いえっ! そのような事は決して!」
夕輝のからかいに、アールが毅然とした態度で受け答えをしていくのを横目に、俺はここに初めて来た時の事を思い出す。ミナが年相応な反応で、やたら怖がっていたなぁと。ふと、彼女の方を見れば、ウチの神官ちゃんはギリっとメイスを握りしめ、辺りを警戒していた。
彼女の武器を構える姿が、恐怖心からくる力の入りようなのかもしれないと思った俺は、ミナの頭をぽんぽんしておく。
「て、天士さま……」
若干、強張っていたミナの表情が緩んだところで、俺の目にとある看板が入ってくる。ご丁寧にも、『この先、幽霊に注意』という文字付きだ。
そうそう、この不気味な雰囲気。
なかなかに久しぶりの感覚だ。
そういえばと、いつぞやの幽霊くんは元気にしているのだろうか。
あの時は、ニューエイジ・サンジェルマンという謎の錬金術士について少し話をしてもらったぐらいで終わったけど、今回も何か有益な情報を引き出せるのではないだろうか?
俺は、何とはなしに『妖しい魔鏡』を持ち、『実体なきモノを映しますか?』という項目をタップして、鏡越しに周囲を観察していく。
「おまえ、何やってんの……光る手鏡とか……」
「タロ……自分のキャラでも見て、悦に浸ってるんじゃないよね?」
失敬な。
鏡に映る幽霊を探している俺に、旧友たちが見当外れな台詞を吐いてくるので、『違う』と否定だけはしておいた。
そうして幽霊を探すこと数秒、上半身は少年だけど下半身はウニョウニョしている存在を鏡越しに捉えることができた。
:魔鏡が幽霊を映しだしました:
:捕捉した幽霊を1分間だけ、魔鏡を手にしている傭兵の目に映るようになります:
青白く光る懐かしの少年霊を前に、俺は手を振る。
『視えちゃあいけないよ』
「久しぶり」
見覚えのある幽霊に、俺は緊張が解けるのを感じた。
どうやら、前回ここに来た時に会話を交えた幽霊と、目の前の幽霊は同一人物のようだ。
自分の透明な身体を活かし、こちらの身体を遠慮なく通過してくる性格も何ら変わってない。
『おやおやおや? またまた一段と、視ちゃいけないものをその目に宿してきたようだね。ますます分別のある錬金術士になってきたんじゃないかなぁ?』
「そうかな?」
俺が幽霊に挨拶を交わしていると、晃夜が不信な顔で俺に近付いてきた。
「おい、タロ。お前、さっきから誰と喋ってるんだ?」
「それは私も気になりんした」
続いてアンノウンさんも質問してくるものだから、俺は正直に答えておく。
「幽霊だけど?」
「は? 幽霊!?」
「ん? どこにいるのかな」
「えーどこどこ?」
「て、て、天士さま!?」
「小官は信じないでありますますッ!」
「はらはらぁ、それはそれは……げにあやしきことかな」
七者七様の反応を返してくれたメンバーには『錬金術で対話してるんだ』と、最低限の説明だけをしておく。みんなは『錬金術って……』とか『ほんとに幽霊なんかいるの?』などなど、それぞれが驚いているようだった。詳しい説明をしてあげたいけど、幽霊との会話時間は一分だけと限られているのだ。前回の邂逅でわかったことは、彼は気まぐれな部分がある。そのため、また見つければいいと、たかをくくって会話に臨むのは悪手だろう。
今のうちに聞き出せることは聞きだしておいた方がいいはずだ。
『だいぶ、見聞を広めたのかなぁ』
「どうだろう? まだまだ知らないことだらけだよ。例えば、ここの墓地の事とかね?」
この霊は、墓地の何かを知っている。
それは初めて会った時からなんとなく感じていた事。
『ふーん? 興味あるんだ?』
「うん、それは興味津々だよ。ここが巨人の墓地で、さらに奥には巨人が残した何かがあるんじゃないかってな」
何かヒントになる言葉でも拾えないか、それを狙って言葉を紡いでいく。
『ふぅん? どうしてそんな事をボクに言うのかな』
だが、幽霊は気難しいところがある。会話は慎重に持っていかなければならない。
この墓地が巨人王国の墓地であることは、錬金術によって撮れた【写真】や素材の説明欄で予測はできている。まず、それらを匂わせる話をしていこう。
「この墓地の最奥にある大きな石碑、そこに『我らが巨人族の栄光は不滅。大地を照らし出す、大いなる光をその意志に宿し者にのみ、巨人の道を示さん』と彫られていたんだ。つまり、その光っていうのは太陽の事じゃないかなと」
『だとしても、キミは何もできないんじゃないかな?』
む。
やはり、簡単には情報を渡してはくれないようだ。
「それはどうかな?」
だけど、こちらには切り札がある。
そろそろかな?
幽霊が消える少し前の瞬間を見計らい、俺はスッとアイテムを取り出した。
目の前の幽霊に再び姿を現してもらうため、最後の最後で知的好奇心をくすぐるような会話の終わりを作ったのだ。
『ん? それは――っとそろそろ時間だね』
案の定、少年霊は興味を惹かれたようだ。
だが、そのまま彼の姿はかき消え、認識外の存在に戻ってしまう。
俺は再度、『妖しい魔鏡』を使用して先程の幽霊を探し直す。
ものの数秒で姿を発見できたことから、こちらの誘いに乗ってくれたようだ。
『視えちゃあいけないよ、それなのにキミといったら』
「さっきの続きだけど、コレがあるから、どうなることやら」
俺は『硬石』と『太陽にたなびく黄色』を合成して造り出した、『閃光石』を幽霊にハッキリと見えるように掲げる。
堅いモノへこすりつけると発光し、その光を目に入れた者の視界を3秒間だけ真っ白に染めるという目くらまし用のアイテムだ。
『それは?』
「こう使うんだ」
手近にあった小さな石碑に『閃光石』を勢いよくこすりつける。
瞬間、眩い太陽の光が発生し、俺を含め、みんなの視界を白へと焼いた。
「まぶしっ」
「閃光弾を確認! 至急、視界の回復に尽力すべきかと!」
そしてそれだけではない。
『『『『オォォォォオオオォオオォォオオ』』』』
地の底から響いてくるような、いくつもの低い声が不協和音となって辺りにこだました。
「え、今の声ってなに!?」
「わッ……こ、こ、こわいです」
「はらはら」
「おいおい、マジかよ」
「なんだろうね、この声」
他のみんなにも聴こえたのか、ゆらちーやミナなどが動揺している。
『『『オォォォオオォォオオオォオオオオォォオオオ!』』』
『……静まるんだ、みんな』
そんな少年霊の言葉に、幾重にも響いていた幽霊たちの声はピタっと止んだ。
「ん……あれ?」
白に浸食された視界が戻ると、俺と会話をしていた幽霊少年の姿が少しだけ変わっていることに気付く。
姿というか服装が変化していた。
彼の肩にはマントが羽織られており、頭の上には王冠じみた装飾品が載せられている。少年なのに、その威厳めいた恰好はいささか不自然にも思える。
『尽きぬことのない夜闇に支配され――』
『決して、朽ち果てた墓地には昇ることのない太陽の光――』
『その輝きを持つ者こそ、呪われた我らが国に終焉をもたらす……』
少年霊は何かの詩を急に諳んじた。
『……ボクらの王の予見は正しかったようだ』
そう、もらした。
『さてさて、今のキミになら申し分ない』
俺の方をジッと見つめ、意味深なことを言ってくる。
『改めて、こちらから名乗らせてもらう』
幽霊の少年は、その身にまとった服装に相応しい優雅な所作でお辞儀をしてきた。
『ボクの名は奴隷王ルクセル。東の巨人王国ヨールンの僕にして、彼の偉大な国の人間たちを統べた者』
「え……王、さまだったんだ……」
彼の正体は何となく掴んではいたけど……。
『透明な灰暗色』を探し求め、この墓地のモンスター骸骨の魂を【写真】にして抜き撮った際、【写真】の説明欄にスケルトンは巨人王国に仕えていた奴隷人間と記されていた。そんな骸骨に対し、幽霊の少年が『妄執に駆られた同胞』と呼んでいたのを俺は忘れていなかった。
つまり、かつては巨人たちの奴隷だった人間と、何か縁のある存在だと目ぼしを付けてはいたのだが……まさか奴隷人の王だったとは夢にも思わなかった。




