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37話 集められた光たち



工房(ここ)が、天使ちゃんのお望みの場所かしらねぇん」


 水晶の輝きに照らしだされたジョージが、両手を広げて工房を指し示す。

 そこかしこにある金属製の器具が水晶の光に妖しく反射している。


「でも、ここはジョージが輝剣(アーツ)を作る工房なんだよね……それに全然、暗くないと思う。光がたくさんあるよ」


 魔鏡が(たくわ)えた光の抽出には暗がりが適している、らしい。

 ここは淡い光源に満ちていて、その条件には当てはまらない。


「そうねぇん。でもこれらの水晶は、わたしだけに反応するのよぉん?」


 ジョージが右手をパチンっと鳴らすと、先ほどまで水晶光が溢れていた部屋は一瞬で暗黒に呑まれた。


「こ、これって……」


「こういうこと。水晶たちの力と目を覚まそうとする装飾アビリティ、『宝晶と語り部』を発動しない限り、ここの子たちは大人しくしているわぁん」


「なるほど……これなら光の届かない暗がりだね。でも、ここはジョージの工房でしょ? 俺はここで錬金術を試そうとしているんだけど……」


 人払いをしたことからも、ここがジョージにとって重要な施設(ばしょ)だと言うことがわかった以上、無理な頼みはできない。

 ここは職人にとって、自分の居城であるのと変わりないはずなのだ。

 それを他人である俺が使っていいのか……?


「わかってるしぃん、構わないわよぉん?」


「本当に!?」


「えぇん! もちのロンッ☆」


 俺の懸念を払拭するように、笑みを浮かべて快諾してくれるオカマ。


「ジョージ、ありがとっ!」


 思わずジョージの手を握ってブンブンと上下に振ってしまう。

 やっぱり、こいつはいい奴だ。

 これで『妖しい魔鏡』が吸収した光を抽出できるかもしれない。

 

「じゃ、じゃあ、さっそく錬金術をしてみても?」


「いいわぁん。わたしも天使ちゅわんが、今度は何をしでかすか楽しみで仕方ないものねぇん」


 ジョージはオカマの割に、未知に対する探求心をわかっている。

 いや、オカマだからこそ、世間の道理に縛られない自由な恋愛観念を持っている故に、錬金術(おれ)の良き友であるのかもしれない。


「じゃあ、さっそく!」


 光が閉ざされた工房で、俺は《妖しい魔鏡》を取り出す。


:実体なきモノを物質化しますか?:


 迷わずイエス!

 光を物質化とか、何ができるのだろうか。



:魔鏡をゆっくりと、横へとふってください:

:出現した延べ棒(・・・)が崩れないように注意しましょう:


 アシストログを読み、俺は推察する。

 金の延べ棒でも出てくるのか? 速く振りすぎると崩れる?

 

「ふるふる……振るのですな」


 失敗はしたくないので、細心の注意をはらい、手鏡をしっかりと構える。

 そして、慎重に横へと振ろうとした。

 

 瞬間、鏡面から光り輝く紅(・・・・・)がニョキリと出現したかと思うと、サッと砂のように崩れていった。


「なっ!」


 流れ落ちる砂粒を凝視する。

 それは地面に落下すると、不思議な事に跡形もなく消失していった。


 ……なぜだ。


 振るのが早すぎたのか!?

 焦った俺は、ピタッと魔鏡を動かす手を止める。

 生成されるはずだった紅色の延べ棒は崩壊を止めはした。が、同時に出現も停止した。


 失敗、したのか?



「はふぅん……」

 

 オカマの吐息が背後で聞こえる。その息づかいは、突然の発光に対する驚きと緊張がはらまれていた。

(かたわ)らではジョージ()が息を呑みつつ、見守ってくれている。


 その音で俺は冷静さを取り戻す。


「ふぅ……」


 そうだ。

 まだ失敗のログは流れていない。

 ということは、錬金の途中であると言うわけだ。


「ここからだ……」


 先ほどよりもゆっくりと、ゆっくりと魔鏡を横へと振っていく。

 もはやその速度は振るというよりは動かすに近い。


 手鏡も持つ腕がぷるぷるする。


 俺の手の動きに合わせて、鏡は右へと移動し、鏡面から四方2cmに及ぶ棒がニョキ、ニョキ、ニョキリと形を成して、出てくる。


 慎重に、崩れないように。

 どう言い表していいのかわからないが、延べ棒が出てくる重さ(・・)で、手鏡を振る最適の速度が決められるのではないかと予測できた。

 

 確かな手ごたえを感じつつ、俺は延べ棒をついに出しきった。


朽ちゆく紅色(ロット・スカーレット)【延べ棒】【小】が生成できました;



 俺は見事、オカマ(・・・)の工房で()を取り出すことに成功した。


 (しゅ)と金が交り合った棒は熱く、危険な輝きを放っていた。

 強欲と血の色をはらんだ黄金(たそがれ)の延べ棒を、俺は両の手で持ち、アビリティ『鑑定眼』で見定める。


朽ちゆく紅色(ロット・スカーレット)【延べ棒】【小】』

【光の終わりを告げる紅色が込められている、魔鏡によって集束された延べ棒。『インク』と合成すると、塗料として使用できる。また、このままでも武具の素材になる金属として扱える。この金属に含まれる成分は紅い血の祝福か、それとも紅い血の呪いか。それは創造する職人の手に委ねられる】


 まじか。

 まさかの金属、造れちゃいました。


 塗料にして、気軽に俺色に塗り尽くすもよし。

 はたまた、金属として高値で取引するもよしってところか?


 この延べ棒がどのような効果を秘めているか詳細は不明だが、期待は膨らむばかりだ。



「天使ちゅわん……それって」


 いつの間にかジョージが装飾スキルを発動していたのか、気付くと工房は水晶の光に包まれ、俺が手にした紅い延べ棒をオカマは凝視していた。


「延べ棒っぽい」


「金属を生みだしたって言うのぉん? 鍛冶師のスキルすらない貴方が? 採掘スキルのない天使ちゅわんが?」


「う、うん。まぁ」


 塗料としても使えるらしいけどね。


「クラン・クランで……『ツキノテア』で金属を最初に生みだした錬金術士ちゃんになったわけねぇん……」


「それはどうだろう……他にもいるかもしれない」


 おそらく、神智の錬金術士ニューエイジ・サンジェルマンとか、創世の錬金術士ノア・ワールドとか。どちらもNPCキャラだけど。


「いいえぇん。クラン・クランの錬金術スキルで金属が生成できた、なんて情報は聞いた事がないわぁん」


「それは傭兵(プレイヤー)の中ではそうかもしれないね」


「それは一体……」


 どういう意味? と続く言葉を消すジョージ。

 俺の表情を見て、それ以上の質問をすることをやめたオカマ。


 賢者ミソラさんの言葉を思い出したのだろうか。

 他言はできない状況にあるという俺の立場。


 今回の話の内容は直接ミソラさんと関係のあることでないため、言っても問題はないのだが、俺の目標ともなるべき存在についての話題を出すのも何故か気が引けた。


 黙る俺にジョージは、分厚い唇をつり上げる。


「いいわぁん♪ もともと、そのつもり(・・・)で天使ちゅわんに工房(ここ)を明かしたわけだしぃん? 今まで天使ちゃんばかり錬金術を披露してくれていたものねぇんッ☆」


「んん。それは一体……どういう意味?」

 

 ジョージが飲み込んだ言葉を、俺は吐き出す。



「わたしのぉん、装飾スキルを魅せて、ア・ゲ・ル、わぁん!」


 装飾スキル。

 気になってはいたが一度もオカマがそれを発動している姿を目にした事はなかった。


 ついに、隠されたオカマの秘業が明かされる時がきたのか?






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