346話 神格の一歩
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【神属性】
【神血 90】
【神意 50】
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神属性……確か、俺が神獣融合のために活用する化石にもそんな単語があったような……。
とにかく、見覚えのないステータス数値を発見した俺は【神属性】の項目をタップする。
【神属性】
『神獣と混じりし者にのみ発現する属性。熾天種3体以上から神意物を授かると、隠しステータスとして開放される』
『レベルポイントでの上昇は不可』
『熾天種から授かるか、自我にまつわる物の収集、イベントなどで加算や減算される』
『特定の熾天種が強い干渉を施すエリアにいると、自動で上昇し続ける場合もある』
熾天種……クラン・クラン内を暗躍する最強のNPC、『天滅の十氏』を指す単語であるはず。
もし仮に『賢者ミソラ』さんが熾天種だったとして、俺が出会った熾天種に該当しそうなNPCは『千銃の放浪王オリンマルク・サーフェイス』以外にいないはず。
この2人からは確かに貴重な品々を受け取った。
しかし、この隠しステータスが開放されるにはあと1人から何かをもらってるはずだけど……まさかリッチー師匠が?
いや、しかし師匠が熾天種である可能性はかなり低い。というのも、師匠は『創世の錬金術士』を冠するのは叶わず、代わりにノア・ワールドという存在がいるからだ。
それに【神血】と【神意】で、同じ数値じゃないってのも気になる。
何が原因で【神意】の方が低いのだろうか……?
とにかくステータスの詳細項目に目を通してみるか。
【神血 90】
『神々の血を宿す因子の濃度を現す』
『数値が高くなればなるほど、様々な神力を得られる。また、数値の減少によって消失する』
『【神力:万民による誠義】、【神力:英雄への道のり】発現中』
『……あと30ポイントで【神力:写し世の伝承】も発現します』
ふむふむ。
【神力:万民による誠義】は、無条件で全NPCの好感度が圧倒的に上昇しやすい?
それに【神力:英雄への道のり】はレベルアップ時の取得ポイントが10ポイント増加……【神力:写し世の伝承】は、まだ発現されてないから効果まではわからない、か。
現在、発現中の神力とやらがどちらも強力すぎるので、おそらく【写し与の伝承】とやらも物凄い効能であるのは間違いない。
ステータスポイント+10とか実質、普通の傭兵の成長率1.1倍であるのと同義だ。俺は知力の伸びが2倍になる『全治なる伝道師』という自然称号も持っているため、これと合わせれば成長率お化けになる。
そして好感度が上昇しやすい、という神力。
思えばこの街のドンとして恐れられているラッキー・ルチアーノにしては、俺に対する態度が一貫してぬるかったような気がしなくもない。
別れ際にやさしく頭とか撫でられてしまうほどだったし……。
口では辛辣な言葉を並べていたけど、どうにも孫を見る温かい眼差しが……いや、さすがにそこまでじゃないな、うん。
神血について謎は尽きないけれど、神意の方も気になるので俺はそちらにも目を通す。
【神意 50】
『神々の意を汲める者のみが耳にする神託の波長域の深さと広さを現す』
『数値が高くなればなるほど、【神意】による精神干渉が発生し、その度合いも強まる。また、数値の減少によって消失する』
『【神意:個より全】』
『……あと50ポイントで【神意:祈りし存在】が発現します』
「ひぇっ!?」
力を得る代償に……精神干渉……?
ちょ、【個より全】って、個人より全体を重んじる心だって……?
【神力:万民による誠義】でみんなに好かれる分、【神意:個より全】でみんなのために動けってこと?
そんなのはまるで、まるで人々に祈われ、請われ……願いを聞き遂げる神そのものじゃないか。
精神干渉とかそんなバカげた事、ありえるはずがない。
……とは言い切れなかった。
なにせこのゲームは既に、ゲームをプレイしていない人々の認識や記憶、価値観すら塗り替えてしまっているのだから。昔から妖精は存在していたとか、そういった点が常識になってるのがいい例だ。
今さら精神干渉の1つ、驚くべき事象じゃない。
「いや、普通に怖いです」
しかもその対象が自分とか、この【神意】ってステータスは今すぐ消したいです、はい。
えっと、【神意】ポイントを減らすには……『熾天種から授かるか、自我にまつわる物の収集、イベントなどで加算や減算される』だっけか。
これって、授かってみないとプラスされるかマイナスされるかわからないヤツじゃん!
そもそもこの都市が、熾天種の強い干渉を受けるエリアだったら、俺って【神血】と【神意】が自動的に上昇してくよね!?
神域に足を踏み入れ……莫大な力を手中に収める代償が、自我の崩壊を徐々に招くとか……まさに神格化そのものを体現していて怖くなる。
「……入念に自分のステータスに変化がないか、定期的にチェックする必要がある、か……」
でも悪いことばかりではない。むしろ俺の【神属性】が上昇したり下がったりすれば、どこが神域であり、熾天種が深く関わるエリアだと認知できるからだ。
まさか、自分自身を実験体のごとく観察する日が来るなんて……これも錬金術士としての宿命か。
魔物と融合したリッチー師匠と同じ道をたどっているようで少しも笑えない。
「ははははは……」
「んん? どうしたのタロちゃん」
「ステータスの教え合いっこが怖いかな?」
乾いた笑いを浮かべる俺に、クラルスの2人が心配気に尋ねてくる。
「あ、いえ……ただ、レベルポイントを振ってなかったので、何に振るか決めあぐねていて……それでどうしようかな、とか……振るの失敗しちゃったら怖いなぁとか……」
「そかそか。それなら私たちのステータスを聞いてから決める?」
「参考になるかもだし?」
とっさに出たごまかしに、2人は誠実に対応してくれる。
「私、傭兵クララはLv18です。ステータスは——」
「私、傭兵ルルスはLv17です。ステータスは——」
2人のステータスを聞きながら、ゆっくりと気持ちを切り替えてゆく。
……ふむふむ、予想外なことにどちらも遠距離特化型の傭兵に多く見られるステータスだった。
「クララさんは近接でバチバチ相手をなぎ倒すと思ってました」
「んん? あぁー私は魔力重視のステ振りだけどガンガンに近・中距離系の戦闘スタイルだよ」
ふむ?
魔力がずば抜けて高いのに、近・中距離とな?
「私は見ての通り、典型的な遠距離型の傭兵です」
ルルスちゃんの方は予想通りというべきか、遠距離を主軸とした戦闘スタイルだそうだ。
こうして2人の戦術を聞いた俺は、自身のステータスを振り分けてゆく。
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傭兵タロLv14 (レベルポイント200消費)
【HP 151 → 161】
【MP140→150 (装備による補正+150)→300】
【力10】
【魔力14】
【防御2 (装備による補正+30)→32】
【魔防8】
【素早さ360 → 460】
【知力705 →(+80×2)→865】
【神属性 神血90 神意50】
スキルポイント37
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一応、彼女たちが中・遠距離を得意としてるっぽいので、俺は敵を彼女たちに近づけない役割を担うことにする。そのためにはやはり相手を翻弄する素早さが大切なので、知力よりも素早さに比重を置いたポイント振り分けにしておいた。
「ふう。ざっとこんなものかな。2人とも、俺のステータスですが——」
【神血】と【神意】の項目は伏せて、嘘偽りない数値を口にする。
「ふんふん、なるほどね。タロちゃんはスピード重視の傭兵さんなんだね。私たちと相性ばっちりだ」
「知力は戦闘とは関係ないのかな、えっと……え!? タロちゃん、知力、高過ぎ……?」
2人は一瞬だけ、時が止まってしまったかのように微動だにしなくなってしまった。
「知力は、そうだね。直接的には関係ないかな」
「いやいやいや!? 待ってよ、タロちゃん! Lv的にもこの知力の高さはおかしいでしょ!?」
「ステータスがアップするアイテムを使ったとか? ララ姉も【魔力の実】ってアイテムをクエストでゲットして、10ポイント分魔力をアップさせてたよね」
本当は称号の効果だけど、そこまで詳しく開示すると大騒ぎされそうだから……心苦しいけどここは無難に曖昧に肯定しておくが吉。
「ま、まあ、そんなとこかな」
「どうしてゴミステータスをそんなに上げちゃったの……?」
「錬金術に必要だからかな」
ふふふ。
ここぞとばかりに錬金術アピール!
知力は決して無駄じゃないのだ!
「錬金術って重いんだね……ステータスポイントを知力に振る犠牲が重い」
「重すぎるね……でも、そんなスキルをめげずに頑張ってるタロちゃんは偉い!」
「あ、いや……そうじゃなくて」
「でも、まータロちゃんがこれだけ知力ステータスが高いのは、錬金術あたりが関係してるってわけだよね?」
クララさんの問いに俺は頷く。
すると彼女はニチャーっと黒い笑みを向けて、俺にくっついてきた。
「お願いしますよ旦那ァ。その方法を詳しく教えろとは言いません。けれどもステータスをアップできる実とか? そーいうのを創れたら、あっしらにも流してくださいな」
「ほほーう、おぬしもワルよのぉ」
「いやいや、お代官様には負けますって」
クララさんは悪代官ノリが大好きらしい。
「ではでは、お代官様! その際はどうかよしなに。勿論、手付金とは申しませぬが今後もよろしくという事で、こちらの物をお納めくださいませ」
「あー、ララ姉。もしかしてタロちゃんに装備をあげるつもり?」
「ステータスを強化するのに手っ取り早い方法は装備の変更ですからね!」
「たしかに。じゃあ、その、タロちゃん。私たちのお古でよければ、なのだけど」
「うけとってもらえるかな?」
「え、えっと……?」
動揺する俺に対し、クラルスの2人は装備変更の必要性を理路整然と説いてくる。
「ちょっとタロちゃんは防御力に不安がありそうだから」
「タロちゃんが強いのは知ってるけど、私たちは気づいたのです」
「タロちゃんって、攻撃を一撃も受けないように立ち回ろうと全力だよね」
「それは防御力が低いから、でしょ?」
「レベルの割にHPもだいぶ低めだもんね」
「とゆーわけで、私たちがタロちゃんの戦闘装備をプレゼント、です」
そうして俺がクラルスの2人から受け取った装備は、なんとも、なんとも形容しがたい逸品だった。
:クララより【双星に輝く演舞衣装:胴】【双星に微笑む演舞衣装:頭】を譲渡されました:
:ルルスより【双星と煌めく演舞衣装:腕】【双星と走る演舞衣装:足】を譲渡されました:
こ、これは……着なくとも理解できてしまった。
装備のアイコンからして確信を持てる。
物凄く可愛い衣装であると……。
「それねー、配信が決定したときに運営さんからもらった特別装備なの」
「限定品のプレミアなのです」
「見た目のわりにステータス強化もぴかいち!」
「たぶん運営さんからの、可愛い服で見栄えよく配信してほしいって要望も含まれてると思います」
「でも、今の最高装備はこっちだしね」
「うん。ちょこっと薄汚れてるけど、この都市にいる限りステータスボーナスが入るっていう、すごいレア装備なのです」
そう言ってクラルスは地味めのケープと短パン姿をアピールする。
なんというか、孤児の中でも怪しい大人たちと協力関係を結び、路地裏街を牛耳ってる少年団のリーダー格って雰囲気のある服装だ。
「ちなみに【双星シリーズ】は予備が6着もあるので、私たちと色違いお揃いコーデもできます」
「あ、ありがとう」
「ふふふ……これで次の配信のサムネは決定。再生回数もバッチリ……タイトルは『天使のお着換え』とか、イイッ!」
クララちゃんが漏らした悪魔の呟きは聞かなかったことにした。
新作始めました!
『古代帝国【日本】を知る最強の錬星術士~「ペテン師」と馬鹿にされ竜の巣に捨てられるも、究極カードスキルに目覚めたので神罰少女を作って無双する。ん? 星遺物が暴走して国が滅ぶから戻れ? だが断る~』
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ファンタジー成分がだいぶ多めの物語です。
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