345話 神血を継ぐ錬金術士
『神展開キターーーーーーー!』
『究極の美少女3人による配信! 伝説の幕開けやん』
『おれ、この時代に生きててよかった』
『クラン・クランやっててよかった』
『タロちゃんの趣味は!?』
『タロちゃんはどうしてそんなに強いの?』
『皇太子殿下とご結婚なさるおつもりですか!?』
『フレンドになれますか!?』
『彼氏はいますか!?』
『おい、小学生に何聞いてんのよ』
『いや、気になるだろー!?』
俺が配信に参加した途端、コメント数が物凄く多くなったようだ。
クララさんは目まぐるしく羅列するコメントを、素早く吟味してどれを拾うべきか秒で判断しようとしている。
ちなみに俺からはコメントは視れないので、その辺は全部クラルスにお任せ状態である。
「タロちゃん! ご趣味はありますか? だって!」
「あっ、えっと……」
趣味、趣味、趣味……!?
えーっと、あー……。
「タロちゃんは『ショコリキサーショコラフレーズン』が好きだったよね?」
「ひぇっ!? ああああああれは、たしかに、そのっ」
言葉に詰まる俺に助け船を出してくれたのはルルスちゃんだったけど、男子としてそんな物が好きと言われるのはちょっと、なんというか複雑だし、他の人達にも見られてるわけで。
『ショコリキサーショコラフレーズンってなんだ?』
『高級チョコレート店のゴディヴァで売ってるドリンクじゃね?』
『女子だな』
『まごうことなき女子だな』
『というかタロちゃんの好みを知ってるルルスちゃんって、一緒に飲みに行ってるってことじゃないか!?』
『あの2人がフラペチーノをすすりながら談笑をしている……』
『なんと微笑ましいひと時……』
『ルルスちゃんがさりげなく仲良しアピールして、クララちゃんを牽制している姿がいじましいぞ』
『謎に包まれていた【白銀の天使】が、自分の好みを暴露されて恥ずかしがっている姿も神だぞ』
どんなコメントが繰り広げられているかは謎だけど、雰囲気を読むかぎり早めに答えた方がよいのは確かだ。しかし、とっさにされた質問に返答するのがここまで難しいとは夢にも思わなかった。
なぜなから、不特定多数が視聴している状況下で、どこまで自分のことを語っても問題ないかと思考する必要がある。しかも俺は『クラルス』の友達枠で出演しているわけで、『クラルス』の印象を損なわない答えを出さなくちゃいけない……!
「ふふふ、どうやらタロちゃんは恥ずかしがっている様子! じゃあここで、タロちゃんの趣味がどんなものか、当てていこー! どんどん投票を受け付けるよー!」
「手編み、お菓子作り、あっ、一番多いのは語学のお勉強だって。それにペット屋さんめぐりに、服屋さんめぐり、ウィンドゥショッピングかな?」
「あれれ? アニメや漫画って意見もちらほらあるねー」
その場を繋げてくれるクラルスの2人に感謝しつつ、俺はその答えを口にする。
「えっと、クラン・クランが1番の趣味です。中でも錬金術が大好きです」
嘘偽りのない答えに、果たして視聴者のみんなの反応は――
『それもそうかwwww あんだけ強いもんなww』
『かなりやり込んでる証拠だよな』
『え、白銀の天使もクラン・クランの広告?』
『いや、心からこのゲームを楽しんでるってことだろ』
『まてまて、エアプじゃないのか? 錬金術って屈指のザコスキルだぞ』
『おまえ、さっきの彼女の戦いを見てないのかよ』
『でも錬金術ってよ……』
クラルスの顔色を窺えば、ちょっと微妙な空気になってる?
「えーっと、本当にクラン・クランが好きなのかな? って疑問の声が上がってるというか、ほら、錬金術ってちょっと弱めのスキルだから?」
「うーん……でも傭兵スタイルや好みは人それぞれだし、タロちゃんが気にすることはないよね」
「ほう……」
クララさんの台詞とルルスちゃんのフォローを聞き、俺の中で火が付いた。
「錬金術の素晴らしさを、この俺が証明してみせよう!」
俺は試しにスキル【合成獣の羅針盤】を発動してみる。
すると例のごとく、俺の背後には巨大な羅針盤が出現。
うんうん、ビジュアル的に地味すぎず派手過ぎず、配信としては良いデモンストレーションになるはずだ。
そう確信した俺は羅針盤に『腐竜の尻尾』という素材をセットする。これは素材集めで、ミナとたまに行く『竜鳴の谷』に生息する『大トカゲ』からドロップする『竜譜の尻尾』を、『錬成:希少化』にてレア度を数段階アップさせたものだ。
「右上、左下ッ……左、左、上ッ」
輝くノーツが正面から飛来するのに合わせて、自らの四肢を懸命に動かす。羅針盤の指針は俺の運動に合わせて稼働し、背後の羅針盤へぶつかろうとするノーツが指針に触れれば煌めきは一際増す。
「んっ、くっ、左下っ、えっと、右っ!」
いつもの俺であればこれぐらいのダンスはきっと余裕であったはず。
しかし、どうにも視線やらプレッシャーが気になってしまい、思うように集中ができない。
特に『クラルス』の護衛傭兵たちが、さっきまではかなりの距離を保っていたのに、いつの間にか半径4メートル以内に集まっているのでビックリだ。
それに錬金術をお披露目するにしても、もっと簡単でわかりやすいものにすれば良かったのでは? とか、ダンスと歌のプロの前で素人の俺がダンスするとか……滑稽でしかないのでは……。
なんてマイナス思考ばかりが頭をよぎり、集中もそぞろのまま魔物を召還できるアイテム生成に失敗してしまった。
周囲は何が起きたのか全く理解できてないだろう。
ただただ、俺が急に踊りだした。そしてキラキラと光るノーツが立て続けに発生して、何も起こらずに終わったように見えたはず。
どう収集をつけていいかわからず、混乱しそうになるの必死に堪えて白状する。
「あっ、えっと……今のは失敗しましたが、こっちのを、見てください!」
顔が熱くなるのを感じつつも、俺はアイテムストレージから『翠玉の涙』を取り出し2人に見えるように天高く掲げる。
「錬金術を極めれば、こんなポーションも作れちゃうのです!」
正直、ごまかし恥ずかしの連続で泣きそうになる。
それでもぷらぷらとポーションを揺らしては、無理やりに錬金術アピールをする。
「レ、レシピは秘密です。みなさんで、ぜひ研究してみてください!」
もう死にたい。
どこかに閉じ込もりたい気持ちでいっぱいになり、俺はクラルスの2人に『ごめんね』と目だけで合図を送る。
『え、なに、あのかわよなダンス』
『ふつうにかわいすぎて死ねる』
『失敗したのか……?』
『恥ずかしがってる顔が刺さりすぎてえぐい』
『俺さ、何かに目覚めたわ』
『本物だ……』
『あんなアビリティが錬金術にあるのな』
『錬金術スキルって物凄いレベルが上がりづらいんだよな……』
『それで召喚スキルも習得してるとしたら、尋常じゃないほどの努力をしてるんじゃないのか?』
『神』
『あのポーションって、一瞬でHP回復する高級ポーションだよね』
『天使ちゃんが作ってたのかよ!?』
ふんふん、となぜか満足気に頷くクララさんを見て、俺はほっと胸をなでおろす。
どうやら錬金術のアピールには失敗気味だったけど、配信的にはありなハプニングだったのかもしれない。これも生配信の醍醐味ってやつかな?
『白銀の天使はアトリエ的なのは出さないのか?』
『そうだよ、自分の店は開かないの?』
『あったら毎日通うわ』
『全部のアイテムを買い占めるわ!』
俺からは一切見えないコメントだけど、ルルスちゃんが笑顔を浮かべたので、結果オーライ?
「ねね、タロちゃんのお店は出さないのか、だって」
「んー、お店って出すのにお金がかかるのだっけ?」
クラルスの問いに俺はジョージからかいつまんだ知識を元に答える。
「たしか、そうです」
「それじゃあさ、【夢と絶望の詰まった王冠】でタロちゃんの代理さんを優勝させられたら、出店できるかもね?」
「あ、みんなには伝えておくけど、クラルスの私たちが優勝してもタロちゃんに賞金を渡すことになっててね? 配信を一緒にしてくれるお礼にって約束なの」
ものすごく正直に俺たちの黒い取引きを暴露する2人に驚愕するが、これが彼女たちなりの視聴者への向き合い方、誠意なのだと理解した。
そうとなれば、ここは俺も誠意を込めて告白する他ないだろう。
「お金、ほしいです! ごめんなさい!」
深く、深く、頭を下げる。
だって、アイドルであるクラルスのイメージが下がったりしちゃうかもしれないから。
『いくらでもあげたい』
『うおおおおおおおおおおおおおお俺も犯罪都市に入りたかったあああ』
『たのむぞ護衛たちいいいいい』
『俺らの代わりに! なんとしてもクラルスたちを、タロちゃんを優勝させてやってくれええええ!』
『なるほど、そういうことか。白銀の天使のアトリエが開ければ、きっと多くの傭兵の力になるぞ!?』
『クラン・クランの攻略も進むな!』
『クラルス神やん』
「えーっとね、私たちは視聴者数稼ぎのために、タロちゃんを利用してるからね!」
「そうだよ。だから賞金の譲渡は、せめてものお礼ってわけです」
「タロちゃんが登場してから、みんなも楽しそうにしてくれてるから、やっぱり誘ってよかったね」
「みなさん、いつも配信を見てくれてありがとうございます」
「それじゃあ! 今日の配信はこの辺で終わりだよー! タロちゃんがどんな子かもわかったみたいだし!」
「いきなり決まったお話だから、ね?」
タロちゃんも一生懸命がんばってるから疲れちゃったかもだよ、と案に視聴者にあどけない仕草でお願いするルルスちゃん、神。
「それじゃあ、みんな次回の配信も楽しみにしててね」
「タロちゃんともまた一緒に配信するかもだから、ね?」
「あっ、えっと、よろしくお願いします!」
そうして配信が終ったあとは、俺たち3人は一息ついた。
やっぱりクラルスの2人も配信は非常に体力のいる分野らしい。
護衛傭兵たちもそれを察しているのか、先ほどと比べて数が少なくなり、距離もだいぶ空けているようだ。
「タロちゃん、おつかれさま」
「タロちゃん、ありがとうございます」
2人が礼儀正しく頭を下げるものだから、俺もしっかりとぺこりとお辞儀をする。
「こちらこそ色々と上手にフォローしてくれたり、本当にありがとう!」
初めての体験ばかりで未だにドキドキしているけれど、ちょっと楽しかったという思いもある。
こう、なんというかみんなと何かを共有して盛り上がる感覚というか、どうにも言葉にし辛い熱量を肌で感じれたのが……嬉しかったかなって。
「で、感想は?」
「タロちゃんは楽しかったかな?」
2人の問いに俺は笑顔で頷く。
「失敗しちゃったかと思ったけど、2人のおかげでとっても楽しかったよ」
「ふふ、それならよかったー!」
そう言ってクララさんが心底嬉しそうに俺の首元に腕を回しては抱き着いてきた。
「あっ、ちょっとララ姉! タロちゃんにひっつきすぎだよ」
「はわわわわわ……く、クララさん?」
「ほら、タロちゃんが困ってる……」
「ルルも一緒に来たら?」
「え? あ、うん……ララ姉がそう言うなら」
「エッ!?!?!?!?」
驚愕しっぱなしの俺にクラルス姉妹は左右から、やわらかい感触でサンドイッチ天国をかましてくる。
「ふふふ。これだけ近ければ、誰にも聞かれないね、タロちゃん」
「え?」
「ゲームが現実化するってお話、聞かせて?」
ああ、とそこで納得すれば、俺はすぐに頭を切り替え……られません。
いや、くすぐったいし、いい匂いするし……。
それでもポツリポツリと様々な事情を説明する。
今、この都市のせいで車の轢き逃げ事件が多発していたことや、どうして【夢と絶望が詰まった王冠】での優勝賞金が欲しいのか、ちゃんと正直に伝えていく。
「それで……そっかあ」
「タロちゃんのおかげで、一応は轢き逃げ事件の横行は止まったのかな?」
「なんだか、すごい話になってるね」
改めてクラルスの2人は俺を驚嘆の眼差しで見つめてくる。
「こんなに小さな子が……世界の命運のために奮闘してるとか、お姉さん感動しちゃったよ」
「だけど……なんていうか、危ないよね」
しばらくの間、2人はこの事実を噛みしめるように無言を貫いた。
自分たちが楽しんでやっているゲームが、実は現実に干渉していると聞けば誰もが思考停止するだろう。そうして、その驚きから先に脱却したのは姉のクララさんだ。
「これから何が起こるかわからないなら。私たちも準備をしておかないとだよね」
お姉さんの言葉が妹のルルスちゃんに届けば、彼女もまたこの事実に向き合おうとする。
「そうだね。何が起きても……大丈夫なように、今するべきこと。まずはお互いの手札の見せあいかな?」
「ルルの言う通り。【夢と絶望が詰まった王冠】で優勝するにしても、この街は危険と隣り合わせだから。どんな状況にも対応できるように、お互いの戦術について話し合うのは必要だよね」
「まずはお互いのステータスから確認しよっか、タロちゃん」
「もちろんここでの開示情報は、配信等では秘密にしようね」
「は、はい」
2人に促されて、俺は自身のステータスを確認する。
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傭兵タロLv14 レベルポイント200
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あ。
そういえばミシェルと『魔神契約ソロモン宮』とかいう謎の高レベルダンジョンに潜ったとき、Lvが2も上がってたのに、ステータスにポイントを振り分けるのをすっかり忘れてた!
何に振ろうかな?
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傭兵タロLv14 レベルポイント200
【HP 151】
【MP140 (装備による補正+150)→290】
【力10】
【魔力14】
【防御2 (装備による補正+30)→32】
【魔防8】
【素早さ360】
【知力705】
【神属性 神血90 神意50】
スキルポイント37
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ん?
見覚えのないステータス項目に、思わず俺は二度見してしまう。
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【神属性】
【神血 90】
【神意 50】
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んんん?
これは……一体、なんだ!?
『竜鳴の谷』は3巻に登場したフィールドです。
『古竜の残滓』がただよう雰囲気の場所です。




