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342話 数字の悪魔


「うぅ……そんな、つよすぎ……」


 俺は視線を落とし、これまでのなかで最高の出来栄えである自身の手札を見る。それから再度テーブルにオープンされたラッキー・ルチアーノの手札を信じられない思いで見つめる。

 マフィア界のボスが出したカードは、スペードの7、ハートの7、ダイヤの7、クローバーの7、そしてダイヤのエースである。


「2連続で、4(フォー)カード……?」


 俺の口から、相手が提示した役名がこぼれる。

 最強とは言い難い役だが、それでも最強に迫る手である。

 それを二回連続で出してきたのだ。


 対する俺の結果は、一度目の対戦が3(スリー)カード。

 そして今回は……フルハウス。


 つまり、この3番勝負は俺の2敗により完敗を決してしまった。

 

「こちらは……フルハウスだ……」


 言わずもがな、背中から感じるミナたちの視線は一気に暗い物に変化していく。



「おやぁ、旦那さまもなかなかにお強い手でしたね」


 ラッキー・ルチアーノはニタリと笑い、おどける仕草で俺の手を賞賛する。


「ちんけなカスどもから(むし)るより、麗しい果実から搾れるだけ搾り取った方が旨みがありそうですな」


 どうやら良いカモ認定をされてしまったようだ。


「一つ、これから協資者となる旦那さまに大切なことをお教えします」

「……なに?」


「数字を自在に操ること。それすなわち、運命すらも手の内に転がす者、でありますな」

「それは……イカサマを……?」


「とんでもございません。だた、吾輩は己の力を活用したまでです」


 イカサマではなく、実力であると豪語するラッキー・ルチアーノ。それは確かに、確かに賭けを勝利に導く手腕は実力なのかもしれない。


「いいですか、旦那様。数字ってのは運命そのものなのですよ」


 そう言ってラッキー・ルチアーノは人差し指をチョンッと俺の右肩に触れた。

 すると――



:1ダメージ:


 といったログが唐突に流れる。



「数字を意のままにするのが、なぜ運命に直結するのか? 答えは簡単です」


 この世界は――

 ゲームの世界はすくなくともデータという名の数値などで構成されているから?

 彼はNPCであるはずなのに、あたかもそれすら理解しているような目でニヤニヤと笑い続けている。



「ほら、ほら、1たす0は1のままかもしれませんが、吾輩の場合は――1に0をたしてやればどうなるでしょう?」


:1ダメージ¨◇§ΘΓ\;@ ……10ダメージ:


 まさかのログ改変、ダメージの数値が確かにさっきまで1だったのに……10ダメージに変化していた。

 もちろん俺のHPも10減っていた。

 


「なっ……」


 信じられない現象に、俺は開いた口が塞がらない。

 一体どんな大罪スキルを保有してればこんなチートすぎるアビリティを発動できるのだろうか。

 勝機を掴もうとする性根を、根こそぎ腐らそうとする力を目の当たりにし、九霧さんがどうして『ラッキー・ルチアーノには勝てない』と言っていた意味がようやく理解できた。

 


「では、この勝負。吾輩の勝ちですので返済金額は1000万エソ、担保はこの都市の領主権。よろしいですな?」


:ラッキー・ルチアーノより600万エソと『モリガン委員会・借用書』が譲渡されました:

:『借用1000万エソ』『担保:鉄と鎖の腐敗都市ギルディガリオン領主権』『返済期間10日以内』:

:上記の借用内容が締結しました:


 俺は首を縦に振る他なかった。

 これがフェイト・ノストラード、通称【運命の指針】のやり方であると、ラッキー・ルチアーノは言葉と行動のその全てで体現した。


「お嬢ちゃん、この都市(ここ)では首を縦に振らせるのが何より重要な事でしてねえ」


 カチッと葉巻に火をつけた彼はゆっくりと煙を吸い、そして気持ちよさそうに吐き出す。



「運ってのは、自分に都合のいいように『うん』って頷かせるのです」


 それから彼は赤子をなでるように俺の頭にやさしく触れた。



「自分の望みのままに『うん』と頷くよう、『めい』令するのが『運命』ってやつですからねえ」


 吾輩にとって運命とは所詮(しょせん)、取るにたらない些事(さじ)である。

 そう言い切るマフィアのボスはとても大きかった。





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― 新着の感想 ―
[一言] あっさり負けたー! 負けイベントはわかってたけど、タロさん戦わずに負けましたね? 錬金術師とか貴族ではなく、ただ単にトランプゲームしやがりましたなー?!
[良い点] やっぱり提案してきただけあって必勝の手段ありますよね [一言] 更新お疲れ様です。
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