336話 心臓を掴まれる盗掘王
盗掘王視点です。
「おーっし、お前ら! この調子で押し切りゃあ、この商店街は俺ら『オルトロス一家』のシマにできんぞ!」
【盗掘王】として、この都市でちょっとばかし有名になったからって、まだまだ上には上がいる。その最たるが、この都市を実質的に牛耳ってる『フェイト・ノストラード』の奴らだ。
そう、俺の敵は今、目の前にいやがる。
俺の歩く道に割り込もうってんなら、その全てを奪い尽くしてやる。
「ですが、ボス! 奴ら銃をッッ」
「慌てんな、訓練通りにしろ! 建物とか、使えるもんは何でも遮蔽物にしろ!」
弱音を吐く部下共を叱咤して、一家システムに映るNPCたちのステータスを素早く吟味する。奇襲攻撃に特化したアビリティ持ちの個体は……こいつと、こいつと、よし、銃持ちの敵さんに一発ぶちかましてこい。
「いいか! 必ず複数人で、別々の方向から仕掛けろ! 一発当たったぐらいじゃお前らはキルされねえ!」
戦闘形態を個人遭遇戦から3人組隊に変更しておく。これに対応できる個体は、連れてきた奴の中じゃ20人しかいねえが、銃持ちをキルするには十分な戦力だろーな。
「昂るなあ」
誰もが必死こいて、自分たちの主張を通すために拳を握り、殴り合う。
奪い合いの戦いに血が騒ぐ。
だって奪うのって楽しいだろうが。
暴力と謀略、権力と機転を駆使して他人の物を自分の物とする。それが実を結んだとき、どんな課題や試験をクリアするより達成感を肌で味わえる。
最高のショーにして最高の楽しみだ。
親が決めて、敷いてくれた高校受験や大学受験よりも……! スリリングで現実味のある、俺の意思が介在する課題! 俺に生きた充足感を与えてくれる世界に感謝しかねえなあ。
自分の本心からの願いのままに行動できるって、最高に幸せだ。
アァ――男である以上、どっかで頂ってやつを見たくなるもんだが、俺はこの欲望臭ぇ都市のてっぺんをとってみてえ。ここで1番ってやつになって、どこまで俺色に染められのか試したい。自分はどこまでやれるのか、外の都市にも手を広げてえなあ。
都市を盗み、国を奪う。
いい響きじゃねえか。
「順調だな」
そう、事は全て順調にいってたはずだった。
『フェイト・ノストラード』の前ボスから大罪スキル【強欲】を奪い、俺の物とする。
着実に縄張りを広げ、奴らの傘下にあった地域を削り取ってはうちの傘下に入れさせる。
最近じゃ上納金も馬鹿にならない額にまで徴収できている。
そしてうちが破竹の勢いで走ってる時に、まさかの闘技場イベントとかいうでっけえチャンスが舞い降りてきやがった。
余計な小物がこの都市に姿を現した時は、あのバカ豚の言動もあってちっとばかし動揺しそうになったが、フタを開けりゃあただの生ぬるい甘ちゃん傭兵だったわけだ。
多方面で名の上がるダークホース、『白銀の天使』に闘技場イベントの不参加を約束させられて上々。
あの可愛い顔したちびっこは、俺の知る限りじゃ真正面からかち合うのはちっとばかし、めんどくせえ相手だろうな。単純なPvPならこっちが先手を取れば造作もないが、奴の後ろにはでかい繋がりがある。
特に『首狩る酔狂共』と揉めるのは上策じゃねえ。それにうちに協力的な傭兵には『武打ち人』から武器を仕入れてる奴もいるし、『サディ☆スティック』に世話になってるもんもいる。
ま、『白銀の天使』もうちと敵対するのは下策だとその辺は十分に理解しただろうよ。
あんだけ脅しておいたんだ。
だから、あとは闘技場イベントが始まるまで地盤固めをコツコツとしていくだけだ。
んでもって、楽でチョロい抗争を――おい、待て、ありゃなんだ……?
敵と味方が入り乱れる場に突如として、白銀に煌めく光が舞い落ちた。
あいつ、どうしてあんな高所から落ちてキルにならない?
いや、まてそうじゃない。なぜここにあのダークホースがいる!?
『おい、グラトニーオ。あいつは何を考えてやがる?』
あのちびっこ美少女が、何を血迷ったのか姿を現しやがった!
奴の出現と同時にフレンドチャットで姿を隠す相棒へと速通信。
『ぽ……天使ちゃんは、この場の全員を攻撃してる、ぽ?』
『んなの見りゃあ、わかんだよ! 問題なのはあの勢い、あの武力だバカ! お前、あいつのどこがか弱くて可憐な天使に見えんだよ!?』
『きっと天使ちゃんの御神託、【みんな仲良く】が発動してるっぽ』
『意味がわかるように説明しやがれ! このクソ豚が!』
『この場の全員を制圧して、仲良くさせてしまう奇跡の御言葉だぽ』
『そんなバカな事あるかボケ! いくら何でも無茶すぎるだろ! ここにはッ、二大勢力の構成員たちが100人以上で暴れてるんだぞ!?』
『ぽ、今気づいたっぽ。南東の建物の屋上で【夜叉組】もいるっぽね』
『ますますじゃねえか! たった四人の傭兵でどうにかできるレベルじゃねえだろ。多少NPCを従えてようともな。いくら豚の推しでも応戦すっからな!』
『ぽ……』
『お前もやばくなったら出て来いよブタ!』
抗争の闖入者たちは不意を突けた勢いもあって、多少は周囲のNPCを圧倒してるように見える。
仕入れた情報通り、人狼という強力無比な個体が十頭あまりいるが、俺が訓練に訓練を重ねた部下共だって戦闘力では負けねえはず……おい、なんだあの人狼どもは。
予想以上に人狼どもの身体能力が高すぎて、『フェイト・ノストラード』の奴らもまとめて紙屑みたく切り裂いては噛み潰してるじゃねえか……!
「白銀の天使ぃ。その判断違いの代償、高くついたなあ……」
あの整いすぎた綺麗な顔に唾を吐いてやりたい衝動を堪え、現状を素早く把握する。
俺は精鋭の部下たちを前後左右へ扇状に展開させ、奴が召喚? した大女を迎え撃つ。
『白銀の天使』が召喚した奴は正真正銘の化け物じみた存在だった。あのどでかい図体で疾風怒濤の動きを見せるわ、奴の進む先すべてが何かに切り刻まれてはゴミみたいに散っていくじゃねえか!?
冗談じゃねえぜ……。
部下たちにはでか女の相手をさせるより、直接『召喚主』である『白銀の天使』を狙わせる方がいいだろうな。そっちの方が消耗を防げる。
「余計な真似をッッ、あのでか女は俺がやる! お前らは『白銀の天使』だけを狙え!」
文句の1つも吐きたくなるわな。
そんな思いの丈をぶつけてやれば、返答してきたのはまさかの召喚された大女だった。
「でか!? 言ったね、狂い咲きな! 『千変万花』」
おいおい、なんだあの破壊力は。
視界を埋め尽くすほどの、突きの連続なんて見たことないぜ。
そう、本来であれば絶望的な光景が差し迫ってはいるが、俺にとってそれは御褒美でもある。
「こりゃあ盗み甲斐がある――大罪スキル【強欲】」
俺は猛攻を前にして右手をかざす。
全てを欲する強さ、全てを己のものとする強欲さを解放する。
「――【お前の物は俺の物】」
大女の剣閃のことごとくを俺の右手1つで奪い取る。
俺の絶対防御&封印アビリティを行使すれば『白銀の天使』が素っ頓狂な顔をする。それを見て笑みがこぼれそうになるが、流れたログを流し読みすれば俺まで唖然としそうになっちまった。
:【お前の物は俺の物】により、巨迅細剣術アビリティ『千変万花』を奪いました:
:奪われた持主は『千変万花』を3分間、使用できません:
:『千変万花』より奪ったステータス・バフが3分間、あなたに反映されます。3分後、奪ったアビリティは持主に返還され、ステータスも戻ります:
:ステータス補正『力+450』、『素早さ+150』、『刺突系武器・刺突系アビリティによる攻撃はダメージ数+200』:
:残りの【強欲なる手札】ストック数は2枚です:
「おいおい、こりゃあ大概だぜ! なんだこりゃあ!?」
今まで盗んできたアビリティの中で、合計600ポイント分のステータスがアップするなんて前代未聞だ。単純に6Lv分の上乗せとかありえん。しかも、俺が刺突系の武器やアビリティを使ったら、追加でダメージが200も上乗せとか……バケモンすぎるぞ。
「こんなアビリティを放つ奴を使役するとか『白銀の天使』、お前も正真正銘の化け物だな。どうやら召喚スキルを駆使するらしいが、召喚師ってのは本体が貧弱な場合が多い」
戦闘中に行使できる【強欲なる手札】は残り2枚。この『千変万化』を捨てれば、また3枚まで相手のアビリティを奪え、俺のステータスに反映させられるが……一度奪ったアビリティは24時間経たないと奪えない。
この強力無比なカードをフル活用して目の前のでか女と俺が交戦し、その間に部下どもに『白銀の天使』をキルさせればいい。
「そこんところ、『白銀の天使』はどうだ?」
「あんた如きがマスターに触れる機会なんてないよ!」
「それはどうかね~。こっちには古代の遺物ってやつがあるからな」
俺の合図に応じて、部下どもに温存させておいた【魔導文紙】を使用させる。
さすがの『白銀の天使』も同時にあれだけの範囲魔法を、複数人から受ければ対応のしようもないだろう。
「本当はこんなところで使う予定じゃなかったんだが――」
俺たちに手を出した事を後悔させるには十分すぎる攻勢に、自信たっぷりな笑みを乗せてやる。
『白銀の天使』が数舜後には、閃光の雨にうたれてキルエフェクトをまき散らすのを連想すれば、自然と口元がにやついちまうなあ。
が、しかし――
俺のそんな幻想を容易くぶち壊したのは、いつの間にかケモ耳美少女と化した『白銀の天使』自身だった。
「ふむ、これは【魔導文紙】? 興味深いな」
小首を傾げて、四肢にはもふもふを宿す可憐なちんちくりんに、俺は視線が釘付けになってしまう。
ふざ、ふざけんな!?
あのわずかな一瞬で3人もの部下を、ふざけた格好した少女にやられるとか……ありえない。
「使用するだけで【魔法】が発動するアイテム……かなり強力な遺物だけど、使う前に使用者を壊せば問題ないか」
悠々と手に入れたアイテムを考察する仕草は、節々から余裕が滲み出ている。
「――は? 幹部たちを瞬殺だと?」
これは盛大にまずったぜ。
手塩にかけた部下が、訓練に訓練を重ねて強化しまくった部下たちが……まさか瞬殺されるとは夢にも思わなかった。
噂と実際に相対するのじゃ、まるで違う。
奴の圧倒的強者の覇気に呑まれそうになるが、俺はどうにか懸命にこらえる。
あれが『白銀の天使』かよ。
ちきしょう。
だが、だが、俺たちだってまだまだやりようはある。
俺たちの完全コンボは無敵だ。いくら『白銀の天使』でも対応は不可能だろう、そんな余裕から俺の焦りは消え、冷静に奴らとの戦闘に対応する。
目の前のでか女は、やべえ強え。まるで『白銀の天使』にちょっかいをかける暇を与えてくれない。かといって俺たちの完全コンボをここでお披露目しちまうのは、時期尚早でもあるな。
どこで誰に見られてるかわからねえこの町で、闘技場イベント前に必殺の切り札を披露するのは下策。
だからこそ、そろそろ出張って来るグラトニーオを待ってやったが、よーし、これで『白銀の天使』を無力化だ。
奴のいる地面周辺が黒く染まれば、それはグラトニーオの強制転移アビリティが発動した証拠。
これで奴を孤立させてボコれば――
「……空中移動もお手の物ってか。がちの天使みてえな戦術じゃねえか」
次々とあいつを呑み込もうとする闇を、空中で見事に避け続ける光景を見せつけられて思う。
悔しいが認めるしかねえな。
大罪の座に就く俺たち2人を相手にしながら、この場の全NPCを鎮圧しようとするその意気込み、俺の野望に負けずとも劣らずの気概を認めざるを得ねえ。
しかも、【夜叉組】の方にもすでに2体分の召喚獣? 戦力を割いてるらしいじゃねえか。
それで、風妖精とボスキャラ剥製の雪姫、次いでこのでか女の召喚。
こいつは間違いなく、一対一のPvP戦において最強の傭兵と言われる【危険地帯】と同等レベルの召喚術師だ。
仕入れた情報の中にレッドをキルしたって内容もあったが、どうやら事実だったか。
だが、それでも『白銀の天使』が無謀なのは変わりねえ。
傲慢すぎた奴の末路、それはグラトニーオの闇が奴をついには掴んで、強制転移が執行されること。
「なあ、知ってる? 呪いとかって、かけた方も同じ目に遭うってね」
絶望の瀬戸際を踊るはずの奴はなぜか顔をほころばせる。
まるで、まるで俺たちとの戦いを楽しむように、満開の笑顔を咲かせたのだ。
そして信じられない光景は、悪夢は続いた。なにせ『白銀の天使』が吸い込まれるはずだった黒い沼からは、グラトニーオ自身がひょっこりと身体ごと飛び出てきたのだから。
「ぽ!? どうして、ぽ!?」
動揺するグラトニーオに避けようのない、完全無欠の空中コンボが怒涛の連続で繰り広げられる。
メタボ気味のグラトニーオの身体はぽよんぶよんと弾かれまくり、あっけなく、本当にあっけなく、為す術もなくキルエフェクトを爆散させてしまった。
「ちぃ! ほんと、どうなってやがる。おいデブ! お前の大罪スキルは無事だろうな!?」
どうにか、間一髪で前に『白銀の天使』から盗んだ蘇生アイテムを使い、グラトニーオを救い出せたが……大罪スキルのアビリティすら完全反射する召喚獣だと!?
……あいつは一体何なんだ!?
『白銀の天使』は召喚師かもしれないとの情報は掴んでいたが……あれは召喚師なんて次元じゃない。
あんな強力すぎる個体を、同時に次々と使役するなんてMPがいくらあっても足りないぞ!? そもそも、あんなに召喚獣を保持できる傭兵なんて聞いたことがない。
そして極めつけはこれだ。
「おお! これはこれは旦那様じゃないですか。この老骨、お呼びを受けるのをどれほど待っておりましたか!」
突然、マフィア界の頂点に君臨する大物、俺らですら容易に近づけない人物が顔を出した驚愕の事実だ。
その命を狙いに狙い続けていた標的が、『白銀の天使』に呼びつけられたかのような台詞を吐きながら近付いてくる光景は、ひどく、ひどく現実味がない。
こんなちんちくりんの少女に、マフィアのボスが親し気に挨拶する世界がどこに存在する!?
「旦那さまの無茶には困りますなぁ」
だが、どうやらこのじじぃも胸に何かを秘めてるらしい。
『白銀の天使』に従っているといった空気は微塵も出さねえ、むしろ銃口の先より鋭利な空気をぶつけてるように思える。
「いや、ねえ――旦那様。こうもご自由にされると、うちとしても『殺人請負会社リトル・マッドハッター・インク』に連絡する他なくなってきますわな~」
直接的にルチアーノのじじいに脅されるような文言を吐きつけられる『白銀の天使』だったが、やつは君臨者の微笑みを絶やさず、何か赤いもんを手に乗せては俺らに見せてきた。
そいつは血みどろの塊でドクドクと脈打ち――
可愛い顔して滅茶苦茶おっかねえもん持ってんな!?
「心臓、握られたいですか?」
たったの一言。
その言葉で、ここにいるどれだけの傭兵が内心ブルリと震えただろうか。
本物の天使みてえな美貌を持っていながら、にっこりと微笑む奴の放つオーラは尋常じゃねえ。
まさか、あの一瞬で物理的にルチアーノのじじいの心臓を抜き取ったのか!?
そう仰天するが、白銀の天使がその心臓の握る力を強めた瞬間、そいつから肉がみるみる生えてはヒョロ長い人間? みたいなもんが即座に形を成したじゃねえか……。
真っ黒い紳士服をカチッと着込み、ハット帽子の下から見える双眸がどうにもヤバイ奴の匂いがぷんぷんと立ち込めていやがる。顔がねえのに、赤黒い瞳だけはくっきりと輝いて……いや、不気味すぎるだろ。
「ラッキー・ルチアーノ。今から殺人を依頼して俺をキルするのと、目の前にいる怪人があなたの首を切るのと、どっちが早い?」
脅しには脅しか。
この街のやり方は理解してきたじゃねえか。
「もちろん、姿を隠しているお仲間に何かを指示する前に、俺の人狼たちがそいつらの首を噛みちぎるよ」
じじいが潜めさせているヒットマンすらも完全に位置を把握し、いつでも対処できると豪語する『白銀の天使』。
完全にラッキー・ルチアーノを牽制するが果たして――
一触触発の雰囲気が流れるかと思えば、じじいはニシシッと低く不快な笑みをこぼす。
「運命すら頷かせるその傲慢さ、気に入りましたぞ。旦那さま」
じじいはまるで旧友にするかのように親しみを込めて、『白銀の天使』の肩を叩いたのだった。




