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334話 その天使、奪うは見習うの精神



「――眠りから目覚めて、俺の盟友」


魔導石(ドール・コア)』となった『永劫にひしめく霜石玉髄(フロスラルダ)』を取り出し、『白青(はくせい)の雪姫』を休眠状態から呼び覚ます。


「主サマ、どうしますカ?」


 青白い輝きを放つ氷晶とともに姿を現した美少女は、青空を凍てつかせてしまったようなドレスをひらめかせてから優雅に一礼をしてくれる。


「ブルーホワイトたんには建物の屋上とかにいる『フェイト・ノストラード』の構成員を排除してもらいたい。銃を持ってるから気を付けてね」

「御意にございまス」


 これでしばらくすれば、上からの銃撃はどうにかなるはず。

 それに彼女に上にいてもらうと、万が一の備えにもなる。


「タロさんの援護は任せてくださいまし!」

「ミナヅキちゃん! 私がムチで敵を縛ってるうちに、魔法をお願い!」

「言われなくても、照準はもう定めてます!」


 仲間の3人や人狼(ライカン)たちが周囲の敵を足止めしてくれる隙に、俺は【崩玉】化して『風穴乙女(ニドル・レディアン)のレイピア』へと変化させておいた一振りを取り出す。

 こちらは【左京:天邪鬼(あまのじゃく)の籠手】と【右京:羅刹(らせつ)天の俊足】と違って、回数制限が存在しない。だが、代わりにHPが全損すれば永遠に失われてしまう、大切な存在でもある。

 だが、この局面で奴を足止めできるのは信頼できる強者のみ。

 だから俺はアクティブワードを口ずさむ。


「あの世の(しるべ)を咲かせておくれ――『銀月の彼岸花(ひがんばな)レディ・ノスタルディア』」


 彼女の名を呼べば、突如として視界は紅一色に包まれる。

 まるで血しぶきが舞ったと錯覚しそうな、真っ赤な花弁が吹雪き、華麗なる美人が俺の呼び声に応じてくれる。

 身の丈3メートル近くはあるナイスボディの半巨人(ハーフ・ギガント)が、見事な茶髪をなびかせて勇ましくニカッと笑った。



「むっちゃ可愛い私のマスター!」


 リッチー師匠の奥さん、レディ・ノスタルディアは何の躊躇もなく俺をヒシッと抱き上げてしまう。

 戦場の真っただ中で愛情表現豊かな彼女に動揺するも、俺が何かを言う前に即座に敵の攻撃を回避して、仕返しとばかりに蹴りを放っていた……うわぁ、敵の身体が吹っ飛ぶとかのレベルじゃなくて、貫通というか、蹴り抜いてしまって、肉や骨ごと吹き飛んでは肉(ちり)になってる……。


「どいつをいてこませばいいんだい!?」

「え、えっと、あいつです」


 気合の入っているレディ・ノスタルディアへ指し示すは、自らの部下たちに指示を飛ばす【盗掘王(グリードロア)】だ。

 彼の周辺にいる黒服スーツのNPCたちは頑強なのか、【月華の人狼(ウルク・ライカン)】の一撃で倒れることはなかった。それでも『フェイト・ノストラード』の構成員への対応もあって、かなり混乱極まる状況であるようだ。

 

「まかせなっ! あんなひょろいガキ、あたしのレイピアで串刺しだよ!」

 

 立ちはだかる者すべてを切り刻む勢いで、レディ・ノスタルディアは一直線に前方へと突撃をかます。まるでヘリコプターのプロペラが前面についてるみたいに錐揉み旋風を起こし、軌道上にいた全ての敵を肉片へと変えていく。


「あ、あの……仲間は巻き込まないように……」


 彼女のスピードに反応が遅れた人狼が一匹、引きちぎられるのが目に入り、俺はちょっとだけ顔を覆いそうになる。それは【盗掘王(グリードロア)】も同じようで、いやそれ以上の絶望色を顔に深々と刻んでいた。



「余計な真似をッッ、あのでか女は俺がやる! お前らは『白銀の天使』だけを狙え!」


「でか!? 言ったね、狂い咲きな! 『千変万花(せんぺんばんか)』」


 レディ・ノスタルディアが腰に吊るしていた銀のレイピアを抜き放てば、何十本もの大木で穿(うが)つように、野太い風穴を生んでゆく。

 その絶対的な破壊の嵐に、【盗掘王(グリードロア)】は自身を割り込ませてはニヤリと笑う。


「こりゃあ盗み甲斐がある――大罪スキル【強欲(グリード)】」


 彼は猛攻を前にして右手をかざす。


「――【お前の物は俺の物(ユアー・マインズ)】」


 ただ、それだけでレディ・ノスタルディアの攻撃は嘘みたいに消失してしまう。

 俺は自分の目を疑ったが、はっきりと彼女の剣圧は【盗掘王(グリードロア)】の右手によって吸収された。



「おいおい、こりゃあ大概だぜ! なんだこりゃあ!?」

 

盗掘王(グリードロア)】は右手を何度もグッパーグッパーし、歓喜をにじませた声で叫ぶ。


「こんなアビリティを放つ奴を使役するとか『白銀の天使』、お前()正真正銘の化け物だな。どうやら召喚スキルを駆使するらしいが、召喚師ってのは本体が貧弱な場合が多い」


 彼は生き残りの黒服たちへ首を振り、何かの合図をした。


「そこんところ、『白銀の天使』はどうだ?」


「あんた如きがマスターに触れる機会なんてないよ!」


「それはどうかね~。こっちには古代の遺物(いぶつ)ってやつがあるんだぜえ。遺物だけに異物を排除。なんちって」


盗掘王(グリードロア)】の合図に応じて、黒服たちの何人かが懐から何かを取り出そうする。


「まあ本当はこんなところで使う予定じゃなかったんだが――」


 自信満々に口が回り続ける彼には悪いけど、俺は神速で黒服NPCへと接近しては両腕を全力で振るう。伸びきった鋭い爪による怒涛の連撃で、黒服NPCたちを切り裂いてやる。

 


:『オルトロス一家・上級幹部』をキルしました:

:『オルトロス一家・上級幹部』をキルしました:

:『オルトロス一家・上級幹部』をキルしました:


:【魔導文紙(スクロール):黄魔法:閃光の百雨】をドロップしました:



「ふむ、これは【魔導文紙(スクロール)】? 興味深いな」


 俺は【盗掘王(グリードロア)】がレディ・ノスタルディアのアビリティを吸収? した時に、何もしていなかったわけではない。【失落世代の懐中時計】にて『太古の賢狼(ダイア・ウルフ)【化石】【両手足】』との融合化を果たし、攻勢準備に入っていたのだ。


「使用するだけで【魔法】が発動するアイテム……かなり強力な遺物だけど、使う前に使用者を壊せば問題ないか」


「――は? 幹部たちを瞬殺だと?」


「このままじゃ、あなたの物は俺の物になりますよ【盗掘王(グリードロア)】」



 唖然とする彼を突き刺すような言葉を贈る。

 これは慈悲の警告である。




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― 新着の感想 ―
[良い点] タロが主としてブルーホワイトたん達を率いているのがかっこいいです。 [一言] 更新お疲れ様です。 リッチー師匠夫婦がそろって戦うところを見てみたいです。
[良い点] やっぱりタロの戦闘シーンはいつも鳥肌が立ちます。 [一言] 評価5点じゃ足りないよ…。
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