309話 魔物を隷属せし双子姫
「エル……ちょっと見ない間に、完全にステータスお化けになってない……?」
いつの間にかミシェルがLv15になっているのには驚きだった。
「ん。お兄ちゃんを守るの、エルの役目」
「いやいや逆でしょ……どこに妹に守られる兄がいるんだよ」
ミシェルことエルの自然称号『赤竜殺しの伝承保持者』はレベルアップ毎のステータス上昇が3倍というチート称号だ。そのおかげで我が妹はLv45相当のモンスターすら屠れる強靭な肉体を持つ少女になっていた。
『千銃の放浪王オリンマルク・サーフェイス』が回収した【幻霊:暴虐虎Lv45】だって倒せちゃうんじゃないか……?
最近はどこでレベル上げをしているのかと問えば、これがまた兄の沽券に関わる返答なのだ。
「ん。『魔神契約ソロモン宮』と『天葬秘境オルシス戦線』」
いやいや、どこだよソレ。
お兄ちゃん、お前にすっかり置いて行かれてしまったよ。
ちょっと話を聞けば、まるで聞いた事の無いダンジョン名がぽんぽんとエルの口から語られて、俺の内心は阿鼻叫喚だ。
まあ力には代償もあるというか、エルの場合は【神属性】を持つ神兵などから無条件で敵視される自然称号『神に背きし者』のせいで不自由そうだけど……この強さは正直、羨ましい。
だけどエルに関しては同情していた部分もあった。
せっかくクラン・クランにインしても神兵がいる街で過ごす事ができないからだ。俺だったら、間違いなく嫌気がさしていただろうに。
我が妹ながらその強さが誇らしい。
「何者にも屈さない力か……」
「ちがうよ? 屈さない心が大事」
「そうだな」
ニコニコと笑みをこぼすエルを見つめ、思わず俺まで微笑んでしまう。
まったくこの妹は昔から出来過ぎる妹だったな。
兄の立つ瀬がないとは、まさにこの事だ。
そんな風に思いながら、俺はエルの頭を優しくなでたのだった。
◇
「なあ、ここって未発見のダンジョンだったりしない?」
とりあえず、と案内されて潜ったダンジョンは『魔神契約ソロモン宮』という場所だった。
まるで夜空から星々を奪い去ってしまったかのような、重い黒が広がる空間だ。どうやらどこかの宮殿内で、これまた不気味な赤い光が荘厳な石造りの壁や床、装飾具などが照らして揺らめいている。
均等に配置された真四角の赤い光源が一体何なのかは不明だが、血濡れの歯みたいに見えてくる。そう、まるで黄泉へと開かれた大口のようだ。
「エル、よくわからない」
ぶっちゃけ姉からも聞いたことのないダンジョン名だし、エルが何かのアイテムを使用して一瞬で転移させてくれたのも気になる。
「エルよ。どうやってここに一瞬で……?」
「『堕天偽神ベルゼブブ』、倒したら、もらえたカードつかった」
そう言ってなんてことはない様子で禍々しい漆黒のオーラをまとう金属製のカードを見せてくる義妹。
俺はこんな事では驚かない、驚かないぞ。
兄としての威厳を――――
「あ、お兄ちゃん。危ない」
そう言って無表情ながらも神速で疾駆したミィ。
その動きを目で追うことは叶わず――――
:下位悪魔Lv32を倒しました:
:呪詛を吐く古鬼Lv28を倒しました:
速攻でログが流れる。
うん。
ダンジョンの序盤に出てくるザコモンスターのLvが……トップ傭兵たちが攻略挑戦している、最先端ダンジョンのボス級のLvと同じだからって……驚かないぞ。
「『接続成功』――『自由な拘束』」
エルが以前より格段に『遊園児』の扱いが上手くなってて、現れる強力無比なモンスターの数々を『生み親の乱智気騒ぎ』で操っていくものだから……進みがすこぶる捗るのも驚かない、驚かないぞ。
器用に卵型のコントローラーをカチカチと片手でいじり、モンスター同士で争わせる姿はまさにゲーマー女子の鑑。前は1体だけしかコントロールできなかった気がするけど、今では黒い悪魔みたいな魔物を2体同時に操っているし……。
しかも空いたもう片方の拳でモンスターをワンパンしていたとしても……。
ぜんっぜん驚かないぞ!
俺だって、モンスターを創造するんだい!
負けてなんかいないぞ!
この、妹のくせに生意気だぞエル!
:『下位悪魔の両翼』×2をドロップしました:
:『小鬼の爪』×3をドロップしました:
「エルは神だな!!!!」
俺の妹は神だった。
俺の求める錬金素材、魔物系統のドロップ品を次々とくれる女神だ。
「ふふんふん♪ エル、お兄ちゃんの役に立つ?」
「もう立ちまくりだ。感謝しかない」
圧倒的な手のひら返し。
そう、錬金術とは常に想像の上をいくのだ。
「ふふーん♪」
エルもご機嫌のようだし、オールオッケー!
「俺の妹は神だ」
俺は次々にストレージへと流れ落ちる神の恩恵、ドロップ素材をそそくさと吟味する事にした。
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