308話 煌めきの錬金術士(アイドル)
「まずは――己が道を指し示す。『崩位:幻想獣の咆哮』」
アビリティ【崩位:幻想獣の咆哮】を発動すれば、突如として背後に羅針盤が垂直に現れた。どのような原理で宙に浮いているか定かではないけれど、とにかく大きい。
俺の身長を優に超えた重厚感のある羅針盤が静かに佇む。
「けっこう迫力があるな。真後ろに、宙に浮かぶ巨大羅針盤か……」
:魔物の【希少素材】、もしくは【解離素材】を羅針盤の中央に置き、崩位磁針を扱い素材の行く末を示しましょう:
:上手に縁を結ぶ異界へと導きましょう:
:素材をセットするとノーツが羅針盤へと投射されます:
:うまく崩位磁針を当て、空間法則を崩壊させて異界への門を開きましょう:
む……?
【希少素材】と【解離素材】限定……となると、素材を一気に3段階の上位変換ができるアビリティ『練成:希少化』や、素材の細分化・粉塵化・液化できる『戯れたる塵化』を使用しないと、そもそも『崩位:合成獣の咆哮』は使用できないと。
「これまでの……錬金術の集大成と言っても過言ではないな……」
しかし、俺は基本を欠かしたりはしない。
まずは全てのモンスターの祖。いや、傭兵の誰もが最初にお世話になるモンスター、スライムからドロップする『スライムの核』で試そう。
蒼い石に『戯れたる塵化』を発動する。
武器破壊も可能なこのアビリティだけど、今回は細分化を選択する。
:『スライムの核』 → 『石コロ』と『母なる海の波』に細分化されました;
「ん。石コロは良く見る素材だけど『母なる海の波』は新素材だな」
薄い青色の布みたいな物だが、その模様が水面のように揺れているのが印象的だ。プールや海中から水面を見上げた感じに近い色合いでけっこう綺麗。
『母なる海の波』
【青き生命体の祖成分がふんだんに含まれた藻】
「む。『鑑定眼』を発動してもこれだけの説明しかないのか……」
細分化によって新素材が生成できたのは嬉しい。だがどうにもチープ感がいなめないと思った俺は、【解離素材】よりは【希少素材】の方を試したい気持ちが強くなる。
というのも、アビリティ【崩位:幻想獣の咆哮】にセットできる素材は一つのみ。ならば当然、レアリティの高い強力な素材の方が、幻獣召喚アイテムを作成できる確率は高いのではと今更ながらに気付いた。
なので俺はさっそく錬金キット『融解炉』に『スライムの核』を投入し、アビリティ『練成:希少化』を発動!
「フッフーフー! ハイッ! フーフーハイはひッ」
さらに『風千笛』と『万風吹子』を駆使して『スライムの核』に風を当ててゆき、余計な部分を削り落して高次元の素材へと昇華させる。
:『スライムの核』→『ビッグスライムの核』→『スライム宝玉露』→『ヒュージスライムの魔石』への上位変換に成功しました:
『ヒュージスライムの魔石』
【巨大な上位スライムの核。他のスライムを捕食して大きくなった突然変異種であり、その食欲を引き継いでいる魔石。アイテムとして使用すると『バッドステータス:枯渇』が発動する】
「バッドステータス『枯渇』は……5秒毎にMPと力が2減少って、使えないアイテムだ……」
使用したら自分にバッドステータスって誰得アイテムなのだろうか。相手に投げつけて効果を発揮するタイプでもないし、普通に良い事なしだ。
またまた錬金術が扱い辛いスキルだと判明…………していないッ!
ここからが錬金術の真骨頂なのだ!
俺はすかさず『崩位:幻想獣の咆哮』を発動し、『ヒュージスライムの魔石』を『合成獣の羅針盤』にセット!
すると説明文通り、羅針盤に向かってひし形のノーツが次々と近付いてくる。
しかも何だか愉快な音楽まで鳴り始めたことで動揺が加速する。
「えっ!? ちょ、待って!?」
ノーツは音楽に合わせ、連続で羅針盤へと衝突してゆく。その全てが汚いこげ茶の光となって爆散していった。
:幻想獣専用アイテムの作成に失敗しました:
:『ヒュージスライムの魔石』を失いました:
「……うん。いつものパターンだ。めげるな俺」
再び『ヒュージスライムの魔石』を使って再挑戦。
【崩位:幻想獣の咆哮】の説明ログでは『ノーツをうまく崩位磁針に当て、空間法則を崩壊させて異界への門を開きましょう』という文がある。
おそらくだが、この崩位磁針を上手く動かしてノーツを当てるのだろうけど……。
「ほう……俺の指し示す方向へ、崩位磁針は動くと……」
だけどこれって……。
「全部で8本ある崩位磁針は、俺の両手両足と両肘両膝に呼応してると……」
俺の身体を羅針盤の中心と見立てて、上が北、下が南、左が東、右が西ね……。
ちなみに前方などに腕を突き出してみると、わずかでもその方角に被る動きを崩位磁針は見せた。
「原理がわかれば簡単……! でもないんだよな」
俺の動きに呼応し、ワンテンポ遅れで崩位磁針は動く。
そしてこのアビリティ、常に羅針盤が俺の背後に来るようになっているのだ。クルッと素早く一回転してみたり、身体を激しく捻る程度だと羅針盤の位置は変わらない。
ノーツは俺の前方から迫ってきて、そのまま俺を透過してゆき羅針盤へと到達する。
つまりこのアビリティは……。
「飛んでくるノーツに合わせて、身ぶり手ぶりでノーツに触れるようにする……」
すると丁度俺を通りぬけていったノーツは崩位磁針に触れるようになる。
そして成功の合図なのか、なぜかひし形のノーツはキラキラと輝く煌めきが放たれるのだ。
まるでビーズが散布されたかのような綺麗なエフェクトが目の前で舞い散るから、ついついパーフェクトを目指したくなる。やる気も出るし、何より達成感がある。
「右上、左下、ステップ! タンッタタンッ♪」
曲に合わせてノーツに触れ、ちょっと踊るようにステップを踏む。
しかしどうにもうまくいかず、またもや失敗してしまう。
「多分……動きに無駄がある。それにブレイクダンスとか踊れてる人ってもっとキレがあったな……」
俺はダンス動画などを参考にしながら何度も挑戦する。
そうして多くの失敗を積み重ね、俺はついにダンサー……こほん、錬金術士としての境地に辿り着く。
「左、左、ターンタタンッ! 上からの南南西ッ!」
そう、アイドルのルルスちゃんがクラン・クランでライブイベントをしたあの時、ガクガクのロボットダンスしか踊れなかった俺だったが!
今は違う!
錬金術のためならば、俺は踊りだって極められる!
それに存外、アレンジなども加えられ、自由度のあるダンスができて楽しかったりもする。
錬金術として見られる機会があるかもしれないなら、少しでも錬金術とは崇高かつ美麗なものであると知らしめたい。そのためにダンス動画を見漁って特訓などするのは当たり前だ。
:幻想獣専用アイテムの生成に成功しました:
:『ヒュージスライムの魔石』→『山をも呑み込む波の召喚石』:
妙にごっつくて太い青色の石ができあがった。
一見すると『スライムの核』をそのまま大きくしたような印象しか受けない。
『山をも呑みこむ波の召喚石』
【水辺に落とせば、その場の水分を全て吸収してマウント・スライムを召喚できる。マウント・スライムのサイズは吸収する水量に比例して大きくなる。また、ステータスの増減も水量に依存する】
【使用限度回数:1回】
こ、これは……。
条件付きだけど、どんどん魔物を召喚できちゃうんじゃないか!?
この調子で製作し続けたら、魔物軍団とか作れちゃう!?
だがしかし、問題が一つある。
俺はモンスター狩りに力をいれる傭兵ではなかった。だから手元の魔物ドロップ素材が異様に少ない。
「ふむ。【崩位:極東を明かす一番星】や【崩位:二冠を堕とす西暦】を使いこなすためにも、もっと多くのドロップ素材が必要となる、な」
となれば、暇そうなフレンドを誘って魔物狩りだ!
フレンドリスト内をたらーっと眺めると、義妹のミシェルがどうやらソロでダンジョンに潜っているようだった。レベリングにハマっている事だけは知っていたけど、まさかソロで戦いに明け暮れているとは……。
だが、ちょうどいい。
俺も一緒に戦わせてもらおうじゃないか。
『ミィ、俺と一緒にモンスター狩りでもしない?』
『うん、いいよ』
フレンドチャットを送れば即答だった。
『俺はドロップ素材目当てなんだけど、それでもいいか?』
正直、強いモンスターばかりを倒しに行くというわけではない。そうなると経験値効率的に悪い。
『お兄ちゃんのことは好きだから』
『お、おう。なんだか悪いな』
『だって私のだもん。好きで当たり前』
微妙にかみ合わない義妹とのいつもの会話に苦笑してしまう。
それでも感謝の念は忘れない。
ただ、姉も『わたしの太郎』とか言うけど……もしかして姉の真似なのか?
そんな馬鹿みたいな疑問が残った。
◇
~とある傭兵たちの会話~
「なんだ、あの子……?」
「後ろにでかい時計を……いや、羅針盤か?」
「踊ってるな。ん、あの子が動くと光が舞い散る!?」
「キラキラしてるなー」
「なあ、もしかして新スキル『アイドル』とかじゃないか? 俺にはそうとしか見えないほど、神々しく映るんだが」
「ありえるな……」
「かわいすぎん?」
「だいぶ拙いダンスだが、一生懸命だな……俺、推せるわ」
「俺も」
「今すぐにでも話しかけに行きたいんだが……でも、あの娘のちょっと後ろにいる傭兵が怖いから、動けない」
「ジーッとこっちを見てるな……邪魔したら後ろからヤられかねない熱気を帯びた視線だ……」
「俺、あいつ、知ってる……鉄血ジョージって言われてる傭兵だよ……」
「へぇ……」
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『古代帝国【日本】を知る最強の錬星術士~ペテン師と馬鹿にされ竜の巣に捨てられるも、究極カードスキル《デュエリスト》に目覚めたので神罰少女を錬成します。ん? 星遺物が暴走して国が滅ぶから戻れ? だが断る~』
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