307話 幻想獣の咆哮
【千銃の放浪王オリンマルク・サーフェイス】との邂逅後、俺はさっさと【輝剣屋スキル☆ジョージ】に舞い戻った。
自身の領地で錬金術を試みても良かったけど、どうにも情報屋と名乗る傭兵団『支配者と殺戮者の耳』の存在が気になったのだ。ジョージが対応してくれそうな雰囲気だったけど、俺も何かできないかと来てみたものの……。
「ジョージはいないか」
フレンドリストには『先駆都市ミケランジェロ』にいると表示されていたので、てっきりお店にいると思った。
『ジョージ? 今、大丈夫?』
フレンドチャットで声をかけてみると、すぐにジョージの返事が来る。
『あらぁん。天使ちゅわん♪ 今ちょこーっと会議中でねん? ほら、感じのわる~い情報屋がいたでしょぉん?』
ふむ。何か傭兵団『サディ☆スティック』の仲間たちと対応策を練っているのかも?
『ああ、俺もその件で何かできないかと思って』
『あらあら、それは頼もしいわん! 諸々が決まったらまた連絡するわん♪ ……オラァア! あんたたちィ! キビキビ動きなさいよォん!』
最後の方、低音気味だったジョージの声は聞かないことにした。
うん。後で聞こう、うん。
どうせ同じ都市内だから俺もそっちに行こうか? という提案は消え、そうなれば俺の興味はもちろん【合成獣の羅針盤】だ!
こんな貴重な物をくれた【千の顔】には感謝だけど、油断はできない代物だ。
なにせ白猫と黒猫の争いの火種を生むような輩なのだから。
猫たちの戦いを解決するのは未だ不可能だけど、彼の【天滅の十氏】は確かにこう言ったのだ。『人間どもの中に【神象文字】を読める奴が現れたなら、【禁呪と神罰に染まりし地底領域】の封を解放して回る旅でもしよう』と。
つまり何かしら奴にとって興味の惹かれる事象が起これば、白猫たちに【魅惑のまたたび】をあげるのも辞めるかもしれない。できればネコちゃんたちの争いを止めたいけれど、その役目は他の猫好き傭兵たちが何とかしてくれるだろう。
ちなみにミナとリリィさんのお二人はまだネコを堪能したいと言い、さらには猫たちの争点を消す方法を模索するため【白猫のお昼寝城】に残った。
さすが猫好き女子。
己の好く道の探求、よい。
「さてさて、猫好き女子には負けてられない……! 錬金術大好きマンの俺は、禁断の【錬器:合成獣の羅針盤】を解き明かす!」
説明文通り、【錬器:合成獣の羅針盤】を使えば無事、スキル【合成獣の羅針盤】を習得できたのは僥倖。だが、このスキルでリッチー師匠を創り出すにはだいぶ難しいとすぐに理解できた。
なぜなら――
「【合成獣】はすぐに命の灯は消えてしまう、か……」
存在してはならない、いないはずの生物。自然の理を捻じ曲げて生まれ落ちたが故に、長くは生きられない、それが【合成獣】。
スキル【合成獣の羅針盤】Lv1で習得したアビリティ【崩位:幻想獣の咆哮】。
俺はそれを凝視して悩む。
『崩位:幻想獣の咆哮』
【合成アビリティにより、幻想獣を生みだす召喚アイテムを作れるようになる。ただし人体素材は扱えない。また『幻想獣専用アイテム』の使用時は『崩位:幻想獣の咆哮』を発動する必要がある】
【消費MP:20】【バッドステータス:ランダムで一つ】
【幻想獣は20秒~3分の間で消失します】
「ふむ。スキルポイントを注ぎ込むべきか……?」
正直に言えば、これだけでもかなり興味がそそられるアビリティだ。モンスターのドロップ品からオリジナルの魔物を創り出す召喚アイテムの生成。ロマン溢れるのは間違いない。
ただ、問題は幻想獣がすぐに消えてしまうのであれば消費アイテムと変わらない点だ。例えば回数制限付きのアイテムだとしたら、リッチー師匠を3回ほど召喚したらアイテム消失、リッチー師匠も二度と召喚できない、なんて事になりかねない。
さらに人体素材が使えない、となると……そもそもリッチー師匠を創るのは不可能なのでは……?
ならば俺が取る選択はスキル【合成獣の羅針盤】にスキルポイントを消費しまくって、少しでも師匠復活の可能性を上げるのみ。
実際はスキルLvを上げてもリッチー師匠を蘇らせられる保証はない。
けれど、けれど1%でも望みがあるのなら、俺は錬金術に全ての情熱を注ぎこむ!
今まで戦闘スキルのためにいつか使うかもと貯めておいたスキルポイントを、ここで使わずしていつ使う!
:スキルポイント43 → 36:
:【合成獣の羅針盤】Lv7に上がりました:
:アビリティ【崩位:極東を明かす一番星】を習得:
ふむ……?
方位磁針ならぬ崩位磁針が指し示すは、東西南北のうち、まずは朝日が昇る東からとな。
アビリティ【崩位:極東を明かす一番星】
【一つの素材で、合成獣に命を吹き込む神にも等しい力】
【一位界のみの合成獣を創造できる】
【合成獣のHPがゼロにならない限り、創造した合成獣は消えない】
【『崩玉化』してアイテムストレージに入れておく事も可能】
これは……ついにきちゃったよ!
HPがゼロにならない限り生命活動を維持し続けられる合成獣!
その場でゴーレムとか作れちゃう神スキル!?
小さなゴーレムの軍隊や、もしくは巨大なゴーレムの軍隊、巨神兵なんか創れたりしちゃったら、もうロマンが止まらない。
「だが……『一位界』のみの合成獣しか作れない、という文が気になるな……しかもリッチー師匠からの遺品は全部で4つ。さらに人体素材も加えるとなると……最低でも5つの素材投入が必要で……」
ええい、ままよ!
俺はそのまま一気にスキルポイントを振り続ける。
:スキルポイント36 → 7:
:Lv14【崩位:二冠を堕とす西暦】を習得:
こちらは2種の素材で『二位界』までの合成獣を創れるというもの。
:Lv21【崩位:南無 三宝荒神】を習得:
続いて3種の素材で、『三位界』の合成獣を創れるアビリティ。
:Lv30【崩位:敗北の四言者】を習得:
4種、『四位界』の合成獣を作成可能!
さあ、あともう少し、あともう少しだ!
:Lv36【全崩位:全知全能の五皇説】を習得:
ここまでくればおわかりいただけただろう。
5種の素材で強力な『五位界』の合成獣を創造できるアビリティの習得だ!
この『位界』については、どうやら合成獣が持つ固有の力や特性がどの『異界』と繋がっているかを示す等級らしい。合成獣を創り出す原理は、無から有を生むのではなく、素材を媒体に異界から力を具現化し、生物として呼び覚ます。
ある種の召喚術に近い。
そのための異界を選び、理を崩し、指し示すのが崩位磁針なのだとか。
炎の異界のみと繋がりを持つならば『一位界』の合成獣。
神に反旗を翻した歴代の王の魂が幽閉されし『王葬界』と、竜のみが生息するという『竜鳴界』などの2つの異界の力を引き継ぐなら、『二位界』の合成獣といったところだ。
やってやった!
スキルポイントが残り7というのはちょっと寂しいけど、一片の悔いなし!
ついについに5つの素材を元に幻想獣を創れるようになったぞ……!
あとは、そう。
リッチー師匠の素材は一つずつしかない貴重な物。失敗は許されないため、このスキルを十分に扱えるよう、練習あるのみだ。
「まずは――己が道を指し示す。『崩位:幻想獣の咆哮』」
アビリティ発動に必要なアクティブキーワードを口ずさむ。
俺は全神経を、背後より出現した大きな羅針盤へと傾けた。
書籍版3巻ではボツになった……新イベント【法聖の万塔オルディネ】と【魔城空域イヴィルディス】。
『聖刻と邪刻、微笑の金貨システム』などなど……いつか登場させたいです。




