306話 狂おしき無血の闇
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「どうだ? お前になら【魅惑のまたたび】の在りかを教えてやってもいいぞォ~」
怪しい光を宿す彼の目を真っ向から見返し、俺はハッキリと答える。
「いいえ、大丈夫です」
「ほーう、ほう。俺様の魅惑的な提案を断るのか」
【魅惑のまたたび】の在りかがわかれば、【白雷に鳴く冠猫】からの報酬はもらい放題だ。一体、どんな褒美なのかは気になるしワクワクもする。
しかし、どうにもこの【千銃の放浪王オリンマルク・サーフェイス】には胡散臭さを感じる。
自らを狡猾と嗜虐の紫苑だなんて名乗ってる輩を信用するのは難しい。
それに錬金術士たるもの、欲しい物は自らの手で創り上げるのが基本だ。
「いいぞォいいぞォ~。ぶらさがったエサにすぐに喰いつかない、タダほど怖い物はないからな。その裏を読む狡猾さ、気に入ったぞォ~」
狡猾さって……そりゃ、貴方みたいな人には誰だって不信感を抱くって。
顔はすごく濃いイケメンで好印象かもだけど、その顔だって誰の顔だかわかった物じゃないし。
「じゃ、ま。挨拶代わりだ。蒼天と零黒が混じりし者よ、微妙な色合いに俺様の弾丸もぶちこんでおけよ」
:天滅の十氏系統【蒼天】と【零黒】、2色の条件解放により【紫苑】から秘匿報酬を得られました:
:【錬器:合成獣の羅針盤】or【王器:神々を暴き解く鍵】:
なんと……急な報酬に加えて選択肢が……。
どちらも大変興味深い、非常に魅力的に匂いがぷんぷんする報酬だ。
同時に警戒心も引き上げるのを忘れない。
ふぅむ。【王器:神々を暴き解く鍵】なんて、すごそうじゃないか……!?
神々のどんな秘密を暴き、解いてしまえるのだろうか!?
もうこれは間違いなく、【王器:神々を暴き解く鍵】一択に限るだろう!
そう、俺が凡人であるならば、普通人タロウのままであったなら鍵を選んでいたであろう。
だが、俺は錬金術士なのだ。
誰もが神々という大層な名前に目が行きがちの中、錬金術士である俺だけは見逃さない!
【錬器:合成獣の羅針盤】についた錬器の文字を!
そもそも彼はかなり怪しい人物であり、そんな彼からもらえる物ならば……少しでも慣れ親しんだ、使いこなせそうで、かつ制御できそうな物を選ぶのが上策でありリスク軽減に繋がるはず。
使ったらえげつないバッドステータスが付くとか、暴走するだとか容易にありそうで危ない。
なんてソレらしい理由を脳裏で並べたて、俺は自分の欲求を正当化して【錬器:合成獣の羅針盤】をチョイスする。
:【錬器:合成獣の羅針盤】を手に入れました:
重みのある鈍い琥珀の輝きを放つ羅針盤。
手持ちサイズより遥かに大きな、両手で抱えるぐらいの物だ。
円形の内部はガラスで閉ざされ、そこには摩訶不思議な文字と方位磁針のような物がクルクルと回転している。
端的に言って、かなりオシャレかつ洗練されたデザインだ。
俺はさっそく説明文に目を通す。
もちろん『鑑定眼』も念のため使用しておくのを忘れない。
【錬器:合成獣の羅針盤】
『使用者にスキル『合成獣の羅針盤』を習得させる』
『数多の獣、魔物を知り尽くした者にのみ扱える崩異磁針が内包された美しい金属盤。一説によると神獣と心身を共にした者でなければ、心と体の方位が崩れ、異形の物に変貌してしまう呪具と言われ、【銀常国家ルクセンハーデン】では【禁具指定】されていたという記録がある。だが、この狂った方位磁針を制御できる者は魔物と人をかけ合わせ、新種の生命体を生みだすのも可能だと伝承に残されている』
『使用条件:魔物のドロップ素材でアイテム生成した回数が100以上。神獣か魔物との融合経験在り』
【銀常国家ルクセンハーデン】……?
どこかで聞いた名だと疑問に思えば、確かミソラさんが先駆都市ミケランジェロの灰王と相対した時に『知力と神力の栄華を極めた【銀常国家ルクセンハーデン】を廃れさせた、廃王くん』とか言ってたな。
むーん?
まあ歴史的背景はこの際、置いておくとして肝心なのは使用条件だ。
なるほど。『スライムの核』を元にした『翡翠の涙』、ポーションを作りまくっていた俺は魔物に関する知識は十分……いや、そうでもないか……。
戦ったモンスターの種類は20種以下な気もするし、ええい!
とにかく第一条件は満たしている!
そして第二条件も【失落世代の懐中時計】で神獣たちと融合して戦ったのでクリアしてる!
「ふふ……」
俺は新たに手に入れた錬金キットを凝視し、邪悪な笑みを漏らしてしまう。
これは……もしや【合成獣】を作成できちゃうのでは……!?
いやいや、待てよ……!?
俺はアイテムストレージに古くから残る素材を見つめる。
それはリッチー師匠が消滅と共に残した遺産。
『錬金術士リッチー・デイモンド』【写真】
色は【狂おしき無血の闇】が宿っている。
そして【金錆びた王冠】、【死霊王の爵杖】【不老の闇濡れた至高石】。
全て、リッチー師匠がキルされた時にドロップした物だ。
この素材群は俺が一端の錬金術士と名乗れる実力になるまでは、決して使わないと決めていた。
だけど――――もしかしたら、今の俺なら――
「ほーう、ほう。そっちを選んだとは、残念だぞォ~。人間どもの中に【神象文字】を読める奴が現れたなら、神どもを模倣し、近付き、反逆した輩どもが残した【禁呪と神罰に染まりし地底領域】の封を解放して回る旅でもしようと思ってたんだがな。またの機会にするぞォ~!」
今の俺にとって【千銃の放浪王オリンマルク・サーフェイス】が語る内容は、一切の戯言に聞こえた。
何を言われようと霞んで聞こえ、その言葉の一つ一つは塵に等しく無価値。
なぜなら、俺の手で究極の財宝が、何にも勝る存在を創れるかもしれないから。
不遜にも、不徳にも、不可能ではないと、心がささやくのだ。
高なる鼓動が、たぎる血潮が、錬金術士としての誇りが――
早く、早く、この手で師匠を復活させたいと俺を躍動させるのだ。
不敵な笑みが広がるのを止められない、いや。
俺の歩みは誰にも止められはしないだろう。




